願いを叶える店【真・恋姫無双】
そこは、訪れる者の望みを何でも叶えてくれる店。
店主は、訪れる客の望みを何でも叶えてくれる。
ただし、その客の最も大切なものを代償にして。
さて、今宵、その店を訪れる客は、どのようなヒトでしょう?
そして、今宵、その店を訪れる客の望みとは一体なんでしょう?
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滅多に訪れる者のいないその店に、久方ぶりの客が訪れた。
漆黒の服に身を包んだ、威圧感バリバリな男。その男は、ふんぞり返りながら店主に自らの望みを告げる。
「俺は、どうしても蜀が欲しい。あの軟弱な男が『天の御遣い』『ご主人様』と呼ばれ、美女たちを侍らすなんて許せん!だから、何としてでも俺が蜀の王になれるようにしてくれ!金だったら、いくらでも払う!」
「当店は、お客様の望みを叶える店。ですから、あなたがそれを望まれるのでしたら、その願いを叶えてさしあげましょう。ただし、当店では金銭の対価は頂いておりません」
「宝石か金塊でもよこせってか?」
「いいえ。当店ではお客様が願いを叶えられると同時に、お客様の最も大切なものを対価として頂いております」
「最も大切なもの?それは何だ!」
「さぁ?それはお客様によって変わりますので。いかがしますか?それでも、ご自分の願いを叶えられますか?」
店主にそう言われた男は、少しだけ考えた。
男は、『対価を頂く』と言われても、大したことだとは思っていなかった。
今の自分は呉王・孫堅の命の恩人で、大きな寵愛を受けている。
孫策をはじめとする三王女や、女軍師や女将軍、ほかにも呉の中枢をなす女たちは、自分の愛人でもある。
戦場に出れば『一騎当千』という表現が生ぬるい武力を発揮して、街に出ては治癒能力で病人や怪我人を治してやってきた。
おかげで、兵や民からの支持はダントツだ。
どんな対価だろうと、上は呉王、下は貧民までもが、国を挙げて用意してくれるはずだ。
そう思った男はそれ以上深く考える事はせず、店主に言った。
「いいだろう!支払ってやろう!だから俺が、蜀を支配できるようにしろ!」
「分かりました。それでは、当方はお客様の望みを叶えることと致します」
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その男が店を訪れてから1ヶ月後。
今度は、別の客が店を訪れた。
もともと光り輝いていた衣服は汚れ、血の気のないやせ細った体の…見ているだけで痛々しさを覚えるほど弱りきった少年。
その少年は、店の店主に自らの願いを告げる。
「俺に……俺の事を知っている人が誰もいない場所で、俺の事を裏切った人達に煩わせられないで済む、心穏やかな生活をくれ」
「当店は、お客様の望みを叶える店。ですから、あなたがそれを望まれるのでしたら、その願いを叶えてさしあげましょう」
「ありがとう。でも俺、今はあまり持ち合わせがなくて……これは有りったけの貯金なんだけど、いいかな?」
貯めてきた小遣いを入れた財布を差し出す少年。
その少年に、店の店主が言った。
「当店では金銭の対価は頂いておりません。当店ではお客様が願いを叶えられると同時に、お客様の最も大切なものを対価として頂いております」
「最も大切なものが対価?それは一体?」
「さぁ?それはお客様によって変わりますので。いかがしますか?それでも、ご自分の願いを叶えられますか?」
店主のその言葉に少年はしばし考えた後、言った。
「俺は……確かに少し前までは、大切と言えるものを持っていた。こんな俺を『ご主人様』と呼んでくれた人たちがいた。けれど今は、そんな物なんて持ち合わせていない。彼女たちも、あの男に全て奪われてしまったから。だから今の俺は何もかも無くして、大切だと言えるものなんて何も残ってないと思う。…それでも大丈夫かな?」
「えぇ、構いません。それにどんなお客様でも、大切なものというのは必ず持っているものなのです」
「そっか…。俺が差し出せる対価がどんなものかは分からないけど、支払える対価があるのなら必ず支払うよ」
「分かりました。それでは、当方はお客様の望みを叶えることと致します」
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それから更に1ヵ月後。
蜀という国から『天の御遣い』と呼ばれた1人の少年が消えた。
そして同時に、孫呉の重鎮である男に、蜀の君主になってもらおうという話があがり、ほどなくして、その男が蜀の王となったのである。
けれど………。
その男が国主になった途端、その男の力はほとんど失われてしまった。一騎当千の武力は一般市民と大差ないレベルに落ち込んだ。治癒能力も使えなくなった。
無力化した男は自室に閉じこもり、仕事を一切せず、他人に当たり散らすようになっていった。そのくせ贅沢をやめないものだから、臣民の怒りと失望を買い、牢獄へと投獄されてしまったのだ。
そう。
その男は念願だった蜀の君主になると同時に、今まで自分が持っていた力の全てを失ってしまったのである。
そしてその男を王に祭り上げた蜀の中枢たる女たちは、慌ててかつての『ご主人様』だった少年の行方を探したのである。
しかし………。
女たちが少年を見つけた時、その少年は以前とは比べ物にならないほど変わり果てていた。
かつて女たちに向けていた温かい眼差しは、汚物でも見るかのような冷たい眼差しに変わっていた。
「ご主人様が、あのような眼で私たちを………っ!!」
決して他者を卑下するような言葉を紡がなかったその口からは、容赦のない罵倒の言葉が溢れ出した。
「………ごめんなさいなのだ、お兄ちゃん」
そして何があろうと決して女たちを見捨てなかった少年の優しい心は、良心の仮借なく敵対国に彼女達を売り渡せるほど冷酷なものとなっていた。
「ご苦労様。約束どおり、土地と金をあげるわ」
以前とはあまりに変わり果ててしまったその少年に、その少年の仲間だった者は言った。
「昔のご主人様に戻ってください!」
と。
だが、少年が昔の頃に戻るようなことは無く、その少年は容赦なく、かつての仲間達を切り捨てたのだった。
そう。
その少年は、自らの望みである「心穏やかな生活」を得る変わりに、かつての仲間を思う気持ちや心を全て失ってしまったのである。
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そこは、訪れる者の望みを何でも叶えてくれる夢のような店。
店主は、店を訪れる客の望みを何でも叶えてくれる。
ただし、その客の最も大切なものを代償にして。
さぁ、皆さん。
あなたも、自分の望みをその店の店主に叶えてもらいますか?
あなたにとって、最も大切なものを対価にして。
終劇
リハビリを兼ねて書いた話です。
アンチ最低系オリ主を描いたのですが、とあるホラーを参考にしたため、何となくダーク色を帯びているっぽい話になりました。
登場人物名をほとんど出さないあたり、少し毒されていた気もします。
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