「治療抵抗性」という名の誤診

 これから数回、朝刊連載「シリーズこころ 統合失調症」(2012年2月17日から6回連載)に関連する話をまとめてみたい。

 2月23日掲載の第5回では、抗精神病薬のクロザピン(商品名クロザリル)を取り上げた。この薬は、白血球の急激な減少や高血糖、糖尿病性昏睡など、深刻な副作用が現れることがあるため、開発が一時中断したが、1990年に米国と英国で承認され、以後、ほかの抗精神病薬では効果がない「治療抵抗性」の統合失調症患者に限定して使われてきた。

 日本では2009年に製造承認され、同年7月に販売が始まった。現在、この薬を使用できる登録医療機関は、クロザリル適正使用委員会のホームページ(http://www.clozaril-tekisei.jp/index.html)で確認できる。

 病気に苦しむ患者だけでなく、治療が困難な患者を多く抱える医師も、最後の切り札としてこの薬に期待をかけている。だが、使用前にきちんと検証しなければならないポイントがある。治療抵抗性の患者は、本当に統合失調症だったのか、という点だ。

 医療ルネサンス「シリーズこころ これ、統合失調症?」(2008年10月29日から9回)などで繰り返し問題を指摘し、このコーナーでも改めて特集を予定しているのでここでは詳しく触れないが、誤診を発端とした誤った治療の果てに、治療抵抗性のレッテルを貼られた患者が少なくないのだ。

 もともと統合失調症ではない人に抗精神病薬を投与しても、効果がない。逆に薬の副作用で精神症状などが強まり、さらに重篤な統合失調症と判断されてますます薬が増えていく……。

 「薬剤性精神病」だ。精神科医が誤って生み出した「治療抵抗性医原病」に、クロザピンは効かない。診断を柔軟に見直すことなく、鎮静のための投薬を漫然と続けてきた精神科医の罪は重い。

 精神科医に問う。「目の前の患者は、本当に統合失調症だったのか?」

 数年、数十年に及ぶ誤った治療の影響で、統合失調症か薬剤性か、判断ができないほど病んでしまった患者もいる。だが、今からでも可能な限り診断の見直しを行うことが、せめてもの償いというものだろう。


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年2月23日 読売新聞)

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