児童施設と向精神薬(2) 鎮静させられた兄弟

 中学2年の兄はよだれを垂らし、小学6年の弟は失禁でズボンを濡らしていた。

 四国地方の児童養護施設。面会に行った精神科医は、兄弟のあまりの変わりように愕然とした。施設に入って2週間。兄弟に何が起こったのか。

 母親は、精神疾患の悪化で入院していた。兄弟はほかに身寄りがなく、児童養護施設に一時的に預けられた。入院期間中、母親の主治医だったこの精神科医が、兄弟の様子を定期的に見に行くことになった。

「どんな薬を飲まされたんだ。色は、形は」

 兄弟に聞いても分からない。「食事の後、鼻をつままれて飲まされるので、よく見えないんだ」

 職員に聞いても、「個人情報なので」の一点張り。この施設が連携する精神科病院にも連絡したが、明かさなかった。だが、副作用の出方から見て、飲んだ薬は明らかだった。

「抗精神病薬。2人は鎮静させられたんだ」

 抗精神病薬は、統合失調症の幻聴や妄想を抑える目的で使われる。患者に適量用いることで効果を発揮するが、過剰に投与したり、この病気でない人が服用したりすると、過度の鎮静や筋肉の硬直、認知機能の低下など、重い副作用が現れやすい。健康な人が服用すると、少量でも動けなくなるほど鎮静作用が強い薬だ。

 兄弟は、施設に入ってからあまり眠れなくなった。母親と突然引き離され、見知らぬ施設に入ったのだから無理もないが、深夜も落ち着かず、職員を困らせた。年長の子どもから露骨ないじめも受けた。兄弟は、理不尽な暴力に反撃した。その結果、連れて行かれたのが精神科病院だった。


 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

 「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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2012年4月13日 読売新聞)

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