北朝鮮がミサイルを発射しそうな情勢である。まったく無意味なことに貴重な資源を注ぎ込むかの国の指導者には、あきれ果てる。ピーター・ドラッカーは二十年以上前に、アメリカはミサイルで送り込まれる爆弾は阻止できるかもしれないが、国際小包で送り込まれる爆弾は、阻止しえない、と指摘した。その後、国際間の物資や人の行き来は格段に進んでおり、ミサイルなど、無用の長物と化している。
私が北朝鮮の指導者で、本当に東京を核攻撃したいなら、こんな大騒ぎを演じるようなことはしない。できるだけこっそりと小型の爆弾を作って、中国あたりから他の荷物に混ぜて国際郵便で送るだろう。十個くらい同時に送れば、半分くらいは成功するのではなかろうか。あるいは、潜水艦でどこかの海岸に運んで、そこから宅配便で発送するのも良い。

そもそも核兵器など意味が無いことは、9.11で明らかになっている。あれだけの破壊を日常的な交通手段たる飛行機で実現できる時代である。特に日本には、満員の乗客を荷物検査ナシで乗せて大都市を時速300キロで疾走する新幹線という便利なものがある。これにちょっとした爆弾を持ち込んで、適当なタイミングで爆発させれば、小型原子爆弾クラスの被害は、十分に出すことができる。

こんな時代には、ミサイルも、イージス艦も、ただの戦争ごっこのオモチャに過ぎない。そんなことは、彼らも百も承知であろうから、その目的は「大騒ぎ」にあるに違いない。だとすれば、こちらは、騒がないのが一番である。北朝鮮は暴れまわっている中学生のようなものである。「俺のことをかまってくれ!」というのがその本心であり、核兵器もミサイルも、そのための手段に過ぎない。こちらが騒げば騒ぐほど、よろこんでもっと騒ぐに違いない。

それゆえ、最大の対処法は、かまってあげることである。特に、暴れる中学生と同様に、そのすばらしさや能力を見抜き、その良さを認識することが大切である。

北朝鮮のすばらしさは何かというと、おそらくはその風景と人々の暮らしの美しさであろう。韓国人の話では、昔の朝鮮半島の農村風景が保存されていて、感動する、とのことである。私も、中国国境から対岸の村の子供に手を振ったことがあるが、実に素朴で美しい村と子供たちであった。

インド・中国国境の国であるブータンは昨年、国民の猛反対を押し切って国王が議会制民主主義を導入してしまったが、それまで国王の専制であり、その上、かなり厳格な鎖国政策をとっている。ネパール系住民を追い出して大量の難民を生み出すといったひどいこともしている。いろいろな意味で、北朝鮮に良く似ているといってよかろう。

にもかかわらず、ブータンは国際的に極めて評判がよく、誰も彼らに警戒心を抱いたりはしない。それどころか、GNH(国民総幸福)という先代の国王の口走った洒落を、世界中の人々が真に受けてしまったので、多くの人から敬意を払われている。私もブータン人を三人だけ知っているが、三人とも魅力的な人々であった。

それゆえ北朝鮮にも、東アジアのブータンになってもらえばよいのではないかと思う。そのためには、北朝鮮全体を、世界遺産に指定してはいかがだろうか。そしてその美しさ、すばらしさを、素直に受け入れてはどうかと思う。この地域がグローバリズムに汚染されないように、各国でお金を出し合って彼らの生活を支えると共に、一定数は国中を見て回れるように観光客を受け入れてもらえばよい。そうやって政治体制を含めて関心と敬意を払うことが、彼らの大騒ぎに対処する上で有効な方法なのではあるまいか。