賃金高騰のあおりを受けて、2010年以降、フォックスコンは工場をシンセンから河南省鄭州市に移転させている。この移転が労働市場に与える影響は小さくない。農村労働力の河南省へのUターン現象が始まり、2010年に河南省の労働者は前年比で126万人増え、そのうち24万人が外省からの流入だと見られる。
一方で、周辺産業は打撃を受けることになった。地元の工場は「給与水準をフォックスコン並みに引き上げなければ労働者を失う」という恐怖に怯えている。
鄭州市は、ナショナルブランドの食肉加工品メーカー「双匯集団」を抱えるが、この巨大企業も最近総額2億5000万元に相当する大幅な賃金引き上げを行った。この鄭州市には日産自動車も進出している。
米ヒューレット・パッカードのメグ・ホイットマン最高経営責任者(CEO)は2月、「富士康の人件費が上昇すれば、製品の納入価格も上昇するだろう」とコメントした。中国の賃金高騰が世界のエレクトロニクス業界に波及すると、懸念を示している。
中国の賃金高騰が周辺アジア諸国に飛び火
日系を含む多くの外資系企業が中国からの脱出を検討しているが、実は周辺アジア諸国においても人件費が上昇し始めている。
インドネシアの一部の地区ではここ数年で最低賃金が20%上昇、タイの企業では40%の上昇も珍しくないという。マレーシア政府も早晩、最低賃金の引き上げを実施すると言われている。
上海で10年以上にわたり日本料理店を経営してきた日本人オーナーも、昨今の労働者不足と賃金の急上昇を主な理由に、マレーシアに軸足を移そうとしている。マレーシアでは中小企業の基本給は500~600マレーシアリンギ(1マレーシアリンギ=約27円)、人民元にして1070元だから、今のところ上海に比べて3分の1ほど。まだまだ割安感がある。
ただし、マレーシアの賃金が上昇するのも時間の問題だ。このオーナーは「次はラオスか」と画策している。
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