ところで興味深いのは、小島衣料が中国を手放してはいないということだ。中国吉林省に造った工場は、月額賃金が当初の700元から1500~2000元に上昇したとはいえ、いまもって操業を続けている。
「小島衣料の工場は北朝鮮とロシアに接する都市にあり、将来の発展を見込める生産地だ」(同)と明かす。
中国は「ルイスの転換点」(工業化の過程で農村の余剰労働力が枯渇すること。低賃金の労働者を調達できなくなる転換点)を超えたと言われるが、中国にはこのように戦略的に使える土地がいくらでもある。
また、アジアビジネスのプロの間にはこんな見方もある。
「中国が生産拠点として魅力がなくなったかというと、決してそんなことはない。中国には熟練工がいるし、賃金上昇がこのまま続くとも思われない。むしろ、長い目で見て工場経営しやすいのは中国だ」。低賃金の生産地を求めて各地を渡り歩いてきた当事者ならではの、含みのある言葉である。
中国の戦略的活用が求められるのはこれから
さて、中国では本当に労働者が足りないのだろうか。
「労働者の数が量的に不足しているというよりも、“使い捨て”にも等しかった今までの搾取が限界に来ただけ」との見方もある。
中国において今後はむしろ、従来のような焼き畑的経営ではなく、経営者が頭をひねり労働生産性を上げていく取り組みが必要とされる。
そのためには中国も政策の見直しが必要となる。中国では「伝統的な製造業」からの脱却が国家的スローガンとなっている。それに沿って、労働集約型の中小企業を沿海部の主要都市から追い出す政策を採り続けてきた。
先端技術だけを求めて労働集約型の産業を排除するやり方が、果たして今後の中国にとって本当に有益なのかどうかは、まだまだ議論の余地がある。
この数年、日本の経営者、投資家の間で、中国一国集中を避ける「チャイナ・プラス・ワン」が叫ばれているが、今、アジアビジネスのプロの間では「『チャイナネクスト』のネクストはチャイナか」とささやかれている。中国の真の戦略的活用が求められるのはこれからである。
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