ここ1、2年の経済界を賑わせた出来事に、ホリエモンブームと村上ブーム、そしてホリエモン事件とつづく村上ファンド事件がある。私は、経済に疎い理科系の研究者を職業とする市民記者ではあるが、最近の村上ファンド事件の核心は、「企業乗っ取りというポーズで株価を吊り上げておいての高値売り逃げによる利殖行為」という構図であるらしいことはわかる。
村上氏の逮捕にあわせて、なんと日銀の福井総裁と、10名ほどの経済産業省官僚、それに野党からも民主党の松井孝治参議院議員、などが個人として村上ファンドに投資していたことが明らかになった。法律的には違反していないらしいが、国民が普通預金金利0.001%という超低金利を押し付けられているところ、お役所のお偉いさんが多数、年利10数%という高金利の利殖に励んでいた、という点で批判されている。
この事件に関連してひとつ気になった事実がある。それは、堀江―村上―福井―松井をつなぐ一本の線、それは全員が東大卒、あるいは堀江氏のように東大中退ではあっても、氏自身が述懐されていたように「東大にはいったことが重要」だったのであり、そういう連中のみの人脈であったことだ。
東大人脈は、日本のあらゆる分野で強力である。もちろん、私自身が属している教育研究分野でも。たとえば私が、村上氏なみの「高邁な企業統治のビジョン」を持っていたとして、日銀の福井氏のところに賛同を得たく訪問したとしても、もちろん門前払いだろう。門前払いはあたりまえだ。昔、教育課程審議会会長だった三浦朱門氏もこう言ったそうではないか。「非才、無才には、せめて実直な精神だけ養ってもらえばいい」と。(参考文献:斎藤貴男著『機会不平等』文藝春秋2000年11月、ISBN4−16−356790−9)
アメリカを支配しているのは「WASP(アングロサクソン系の白人で新教徒であるアメリカ人)である」と時に揶揄的に云われることがあるが、日本でも、WASPに相当する「エリート層―支配階層」が成立しつつあるのではなかろうか? いや、それとも、そんなことはもう自明の理で、今までそれに気づかなかった自分の不明をこそ恥じるべき、と?
村上氏が産業政策局総務課係長時代の29歳のときに書いた小説『滅びゆく日本』では、与党「共和自由党」の強引な消費税導入が国民の怒りを買い、野党の「社会革新党」が第一党になり連立政権をつくる、その内閣の最大の功労者として登場するこの未刊の大作の主役が、村上氏そっくりの「小柄で端正な顔立ちをした眼光鋭い」上村彰官房長官という設定だそうな。(佐高信・週刊『金曜日』6月16日号、16ページ)この恐ろしいほどのエリート意識よ!
文部科学省でも、「ゆとり」教育を今後どう方針転換するかはともかく、エリート養成につながる教育改革については着実に実行しているように見える。現に、たとえば、愛知の企業御三家であるトヨタと中部電力とJR東海のトップが発案し、文部科学省も応援し、3社が出資して、蒲郡市に今年4月開校した中高一貫校「海陽中等教育学校」を運営する学校法人「海陽学園」では当初、「将来の日本を牽引するリーダーの育成」を開校の目的に掲げていた由。勿論表向きには現在、建学の精神として掲げる4つの柱のどこにも、そういう露骨な表現はなくなってはいるが。
「名古屋の、中学から大学まで一貫のあるお嬢様学校では、中学から入った生徒は“金”、高校から入った生徒は“銀”、大学から入ったら“銅”と分類され差別される」と聞いたことがあるが、さしづめ日本版WASPでは、東大出身であることは大前提として、中央官庁で官僚として勤務している、あるいは勤務したことのある者が“金”。以下、財界やマスコミ界に属する人間はWASPの“銀”であり“銅”であるのだろう。
私が市民記者として、5月25日掲載のJanJan記事で批判した朝日新聞の東大偏重報道という「事実」もじつは、WASP内での仲間褒めと、三浦朱門氏等の主張する「エリートの指導に従順な国民の育成」への応援記事、として見るべきかもしれない。
それにしても日本のWASP諸君よ。諸君はどういう日本を作ろうとしているのか?
(参考文献:矢山禎昭『村上ファンド事件の核心は? ほんとうにインサイダー疑惑か?』2006年6月20日)
(土井彰)
◇
関連記事:
・今日のマスコミ
・きのうの不祥事・あしたの不安
|