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オーディオに関連したモノについて書くブログです。


by pansakuu

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at 2012-04-16 21:24
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来るべきもの:G ride audio GEM-1 ヘッドホンアンプ:序章


いつかは、
こういう斬新で豪気なヘッドホンアンプが出てくるのではないかと思っていた。
いや、確信していた。
昨今のヘッドホンオーディオブームのヒートアップを遠望するにつけ、
こういうスペシャルなヘッドホンアンプが出てくるはずだと思って見ていた。
いや、もう首を長くして待っていた。

新進ブランドG ride audioの実質的なファーストモデルにして、日本で正式に販売される最初の電源部セパレート型のヘッドホンアンプであり、また、電源部セパレート型でほぼ唯一のシングルエンド専用ヘッドホンアンプであり、さらに価格728000円と世界的にもズバ抜けて高価なヘッドホンアンプでもある。そして、世界で初めて二本の電源ケーブルが必要なヘッドホンアンプである。なんとも異例づくめである。

ところで、私はこのヘッドホンの監修をしている方がプロデュースした製品を使ったことがある。知る人ぞ知る、アレグロ電源ケーブルである。中域を充実させた、太く濃厚な味わいながら、モタつかず、勢いに溢れた音調でハイエンドオーディオファイルを唸らせたケーブルだ。高価で、取り回しも良くない電源ケーブルだが、音の評価には高いものがあった。あのサウンドのイメージを持ったまま、都内某所、到着したばかりのGEM-1 ヘッドホンアンプのプロトタイプに会いに行った万策堂だが、この小さな巨人との邂逅は驚きの連続であった。今回は静かな場所で、約一時間半ほど、このプロトタイプを占有できた。関係者の方々に感謝したい。

(なお、今回のレビューでは画像はフジヤ様のHPから拝借した。いつもお世話になっていることをここで感謝したい。
# by pansakuu | 2012-04-16 21:24 | オーディオ機器

来るべきもの:G ride audio GEM-1:外観(其の1)



ヘヤーライン仕上げの施された黒い筺体二つから成るヘッドホンアンプである。プロトタイプであるせいか、全体に若干の手作り感はあるが、外見に大きな問題はない。組み立てに使われているネジの色も現時点では全て黒であり、黒ずくめのアンプという印象だ。サイズ、重量に関しては、アンプ部18×6×3cm(2.27kg)電源部18×6×3cm(4.09kg)となっている。この数字の示すところはGEM-1はコンパクトだが重たいということである。アルミ押し出し材と思われる胴体を持つ電源部とアンプ部は、一つ一つは大きくない。ただし、これらは並べて置くか、ラック二段に分けて置くかが推奨されており、スタックして使うべきでないらしい。一つ一つはコンパクトでも、この設置形式では、それなりのスペースは必要となる。

二筺体とも上面中央に放熱孔のスリットが控えめに開いているが、23度ほどの室温におけるフルドライブ中の発熱はわずかなものである。触れてほのかに熱を感じる程度。また、正面のパネルの厚みは6mm程、バックパネルの厚みは4mm程というところ。端子を直接取り付けたバックパネルの厚みは、ヘッドホンアンプとしては厚い方だと思う。イヤホンジャックのあるフロントパネルはさらに厚い。好ましいことだ。

全体の構成を見たとき、まずは電源部が別筐体となったことを素直に喜びたい、
と言って済ましたいところだが、それでは済まなかった。
別筺体に繋がれる電源ケーブルは左右にそれぞれ1本づつ、計2本あった。
これには事前情報がなかったので驚いた。つまり、左右のチャンネルが別なコンセントから給電されている。ハイエンドオーディオのアンプでもConnoiseurやクラッセ等の限られたメーカーの限られたアンプのみが一台で二本以上の電源ケーブルを必要とする。電源部が別という手法だけでも、音質のために手間ヒマをかけているということをアピールする。のみならず、左右電源のセパレーションまでも、ここまで突き詰めているとは予想外であった。元来、ヘッドホンは左右のチャンネルの音が混じらないのが売りなのだから、そこまでやる意味は無論あるだろう。ただ、これは空きコンセントの問題や電源ケーブルにかかるコストの問題があり、素人には難儀ではある。試聴したプロトタイプ機では、2本の電源ケーブルはG rideのBlack Devil ACであった。このやや弾力のある感触の黒いケーブルは、あのアレグロ電源ケーブルの系譜を継ぐケーブルであると考えられる。音質は推して知るべしということなのだろう。

電源スイッチは電源部前面左のトグルである。案外、トグルスイッチのあるヘッドホンアンプは少ないのではないか。このパーツは製作者の音質的、外見的な好みで、あえて選ばれたらしい。上げるとONで、右側に赤いLEDが光る。これですぐに聞ける状態になる。本調子になるのに長時間はかからないという。標準的なオーディオ機器のヒートアップ時間である30分くらいを考えればよいと私は受け取った。
なお、電源は100Vの環境を前提に音決めされているようであり、外国製アンプにつきまとう、国内外の電圧の差の問題はないはずだ。


アンプ部の右側にはかなり大きな銀色のボリュウムノブがついている。私個人が今まで見たヘッドホンアンプのノブの中で一番大きいかもしれない。指が触れる部分はギザギザ加工がされていて取っ掛かりはいい。今思えば、このザラザラな感触が、このアンプの男らしい音調を象徴していたようだ。ボリュウムは鈍いクリック感があるもので、抵抗を切り替えているような印象だ。決して滑らかではないが、確かな感触。音量ゼロからの全回しの回転角は360度に近いようだった。かなり深くグルッと回せる印象で、最高レベルではかなりの大音量がとなるだろう。注意が必要だ。今回はSennheiser HD600、HD800を接続して試聴したが、ボリュウムはどちらも10時から11時の位置で音量が取れていた。ゲイン調整の機構は一切ないようなので、音量調整幅は重要だが、これであれば大概のヘッドホンは問題なく聴けるだろう。

アンプ部の左にはスイッチクラフトの1/4のイヤホンジャックがポツンとついている。ここはシンプルである。KH-07N等についているロック機構はない。差し込みはやや硬い感触で不用意に抜ける心配はあまりしていない。

以上のアンプ部と電源部はバランス端子のある黒いケーブルで結合される。左右チャンネルで別なケーブルを用いている。これらのケーブルが左右別々に入っている様子を見ていると、マークレビンソンのNo.32L等の超高級プリアンプを想起する。このケーブルは少し硬めだが、曲げるのに苦労はなく、ラックの上段にアンプ部、下段に電源部、などの置き方もできる位の長さはある。
# by pansakuu | 2012-04-16 21:23 | オーディオ機器

来るべきもの:G ride audio GEM-1:外観(其の2)



今回の試聴ではアンプ部、電源部の足としてG rideのGRA-GEMBを三点支持で使用している。さしあたり、これが純正のフットと考えてよいと思う。このフットはブラス製の六角袋ナットにクローム鍍金を施した物のようだ。なお後述もするが、これはアンプの値段に含まれていない。つまりアンプを買っても、GRA-GEMBはついておらず、どうやらクローム鍍金なしの足がつくようなのである。いずれにしろGRA-GEMBはツルツル滑るので、イヤホンジャックの抜き差しの際にアンプ部が引きずられてちょっと困る。また足は筺体をその上に乗せるだけなので、長期的にはGRA-GEMBの上縁で高価なヘッドホンアンプの筺体の下面にキズを付けるかもしれない。個人的にはイルンゴオーディオのSonoriteや滑り止めのあるクリプトンのインシュレーターも試したい。

アンプ内部の情報はほとんどない。構成は電源ケーブルが二本必要なことから分かるように完全なデュアルモノ仕様のシングルエンドヘッドホンアンプである。当初はオペアンプを採用して製作したが、さらなる高音質を目指し、エンジニアのThomas 'Beno' May氏が自発的に独自のディスクリートアンプを新たに製作されたと聞く。音質から推測するかぎり、特殊なビンテージパーツの使用もありえると思う。ボリュウムはデンマーク製のステップドアッテネーターを使用しているとのこと。(RSA等の高級機で使用されているアレか)内部配線はカルダスを使っていると言うが、昔のジェフのアンプを思い起こさせる話だ。私個人は中域重視の太く濃厚なカルダスサウンドにも思いを馳せる。発表されている周波数特性は5Hz~55kHz±0.1dB, 3dB@112kHzと満足すべき数字。入力はRCA一系統のみ。出力も1/4インチフォーンジャック一系統のみ。高級ヘッドホンアンプではこのようなシンプルな入出力のものは少なく、RCAの他、XLR入力や、プリアンプ機能、ゲイン切り替え、位相切り替え、入力切り替え、二口のフォーンジャック、デジタル入力、そういう付加機能があるものだし、バランス仕様のヘッドホンアンプであることもある。このアンプにはそのような特別な機能はない。マスタリングスタジオ、それも、あのバーニー グランドマンのスタジオのエンジニアリングから来たプロ畑の機器ながら、とてもピュアな指向性を感じる。

アンプ部の最大出力は730mW(300Ω)、1875mW(30Ω)であり、馬鹿力が出るわけではないが、大抵のヘッドホンに対しては十分なドライブパワーがありそうな数字。個人的には負荷が高そうなHD800やT1は避けて、もう少しドライブしやすいと思われる、Edition10やTH900をあてたい感じを試聴前には持っていた。しかし、杞憂に過ぎた。専用のヘッドホンが既にあったのだ。これも事前情報なしであるが。

それはSennheiserのHD600であった。ヘッドホン自体は非常に素直でバランスが良い音を出す、ごく普通のヘッドホンなのだが、ここではヘッドホンケーブルがカルダスのカスタムケーブルにリケーブルされているのである。これもGEM-1と同じく、まだ市販されていないものだ。黒と白の縞模様のある直径5mm程のケーブルでしなやかで邪魔にならない。取り回しはいいが、見かけは大したケーブルではない。しかし、これを挿して聞くとHD600がガラリと違うイメージで鳴る。このヘッドホンって、こんなにいい音だったかと耳を疑う。アンプのせいだけではない。リケーブルのないHD800と同じ条件で聞いて、遜色ないというより、カルダスでリケーブルしたHD600の方が、GEM-1の音質傾向によりピッタリと寄り添う印象があることから、アンプの影響ばかりではないと知る。私個人は試聴の結果として、このアンプに対してはHD800ではなく、G rideの推奨するカスタムしたHD600を合わせるべきと思う。またも商売に乗せられるようで、どうも気分は良くないが、音質のためには仕方ない。ただし、私はHD650での音を聞いていない。HD650は高域と低域にクセがあると判断されたので、避けたそうだが、個人的には試してみたい。いずれにしろ、これをリケーブル済みのHD600を含めたセットとして考えるなら、単なるヘッドホンアンプというよりG ride audio GEM-1というトータルシステムと呼ぶべきかもしれぬ。


私が試聴した時点での情報では、G rideでヘッドホンアンプとして販売されるのは、電源部、アンプ部、インシュレーター6個、そしてそれらをつなぐ二本のケーブルのみであり、基本的に電源ケーブルは自前で用意しなくてはならないという。また、純正組み合わせと言ってもよいノーマルのHD600と特製のカルダスのヘッドホンケーブルもついていない。GRA-GEMB はともかく、HD600と特製のカルダスのヘッドホンケーブルはこのアンプの製作者の意図する音を実現するには必須のように思えるので、ぜひセットで入手したいところ。カルダスのケーブルについては市場には存在しないもので、G ride GEM-1を購入した方にのみ、販売される予定とのことだ。その価格は6万円ほどと聞いている。こう考えると、HD600、ヘッドホンケーブル、二本の電源ケーブルがRCAインターコネクト以外に必要であり、ただでさえ高価なアンプなのに、さらなる出費なくば、システムとして完結しないのは痛い。
実機の販売は2012年5月12日のヘッドホン祭りより予約受付開始であり、フジヤ、ダイナックオーディオ5555、エミライの直販を通して販売される。月産2台が限界とのこと。これでは注文から納入まで、かなり待たされるかもしれない。

なお今回試聴したプロトタイプと市販予定モデルの差であるが、基盤がガラスエポキシからテフロンに変更になること、前面パネルにG rideのエンブレムが彫刻されること、ボリュウム目盛等がプリントされること、フロントパネルを留めるネジはシルバーになることぐらいらしい。基盤のテフロン化は音の透明感に影響はあろうと予測する。しかし、このアンプを試聴してみて思うのは、基盤の材質の変化ぐらいでは基本的な音調は大きく変化しないだろうということ。それほど完成した音世界を既に聞かせるからだ。

今回、フライング的にレビューしたのは、このプロトタイプの音が素晴らしかったからである。もし万が一にも、このサウンドが市販モデルにおいて、良くない方向に変化したり、あるいは祭りの会場で不幸にも実力が出し切れなかったりした時、私の聞いた音がなかったことになってしまうと困ると思ったのである。(世界線などというものは、些細なことで簡単にシフトしてしまうものだろうから。)2012年春のヘッドホン祭りでの音質は事後に、レビューに付け加えることになろう。もっとも、どなたかが詳しい記事を書けば万策堂の能書きなど必要ないかもしれない。

# by pansakuu | 2012-04-16 21:20 | オーディオ機器

来るべきもの:G ride audio GEM-1:音質(其の1)


このアンプを開発した方は、アンプの発表に先立ってGEM-1のプロトタイプと国内の多くのヘッドホンアンプを聞き比べたという。そして、どの製品もGEM-1には太刀打ちできないと結論したらしい。私が試聴した当日も、GEM-1のすぐ下の段にIntercity MBA1platinum editionが電源投入されたまま待機していた。比較試聴されていたのである。
今回の試聴が終わった時点で、私はGEM-1にノーマルのMBA1platinumにはない音質上の多くの美点を見出していた。音自体が持つエネルギー感の濃厚な表現と音の柔軟さという点、音自体のもつスケール感やうねり、流れの表現、良好なチャンネルセパレーションの生み出すスケール感、それからヘッドホンの振動板を捉えて正確に駆動するドライブ力等について、MBA1platinumだけでなく、ニューオプトKH-07N、McAudi M81, Blossom BLO-3090, GRACE m903, SPL Phonitor, Bakoon Products SCA-7512、Glasstone HPA-30W、EAR HP4等の日本で試聴可能な全ての高級ヘッドホンアンプが及ばないはずである。また、個々の要素ではなく総合的な能力として、今まで聞いたどのヘッドホンアンプも遥かに及ばないほど高度な音質領域にGEM-1は侵入している。少なくとも私はそう思う。こうなると728000円という価格はハッタリや詐欺ではないということは明らかである。ただし、いままでトップエンドとされていたヘッドホンアンプの二倍以上の価格であることを考えるとコストパフォーマンスが良いものとは到底言えない。これはハイエンドオーディオの宿命である。上に行けば行くほど、わずかな違いに大金を払わなくてはならない。その意味でも、このアンプはまさにハイエンドオーディオの領域に属するものなのである。


今回の試聴環境は以下のようなものである。約70万円の古いWadiaのCDプレーヤーから1mあたり一万円ほどの価格になるというG rideの未発表のRCAケーブルを出して、アンプに接続、さらに2本のBlack devil ACで普通のオーディオ用タップから電源を取る。最後にカスタムされたHD600を結線する。ヘッドホンアンプ、リケーブルと2本の電源ケーブルを除けば、それほど特殊な環境ではないと思われる。

G ride audio GEM-1 ヘッドホンアンプシステムを聞き始めた瞬間に感じるのは、吹き上げるような強力なエネルギー感と濃厚な音像である。それは強烈な印象であり、いままでヘッドホンオーディオを聞いてきた経験とは隔絶したもので、挑発的でさえある。ディスクに収められていた全ての音が突然輝き出し、カラフルな光を全方向に放ちながら、怒涛の勢いで鼓膜に流れ込んでくる。この音の激流の突破力は強い。この流れは心の障壁を破り、試聴者の冷静な心を激しく揺り動かす。このような聴神経に直接、音の激流を送り込むような聞き方はスピーカーでは難しい。ヘッドホンならではの醍醐味であろう。また、GEM-1の音は、いわゆるウォームという表現を通り越してホットと言うべき温度感のある音だ。例えばSTAXのSR009と同社アンプの組み合わせと比べると真に対極的な音作りであるといえる。

 さらに、このGEM-1システムは、音楽的な訴求力が素晴らしい。今聞こえている音楽の曲想を大きな身振り手振りで力強く表現してくれる。こうなれば音楽の底流にある喜怒哀楽が手に取るごとくだ。さらに、音楽が身をよじるようなウネリ感を出しまくるのにも感心する。また、スリリングな場面では急となり、くつろいだ場面では緩やかとなる音楽の流れの速度感も正確に伝える。

このサウンドのスケール感の豊かさは潤沢な電源部と左右チャンネルの限界まで達したセパレーションの賜物だろう。サウンドステージはそこそこに広く、奥行きは深く、時に下の方に伸びてゆくようなイメージがあったのも印象的だった。ただ、この音場全体はギッシリとカラフルな音で埋め尽くされており、高密で暑苦しささえ感じる。また、SN感自体は聴感上は特に高いとは思えない。もっとも電源部を別にしなければ、さらに見通しは悪かったかもしれない。とにかくクールでクリアなイメージは前面には出て来ない。スカイラインを透明な音場の果てに見るような晴れ晴れとした音調で売る感じではない。

なお、このアンプシステムにおける音の出入りのスピード感というものは、取り立てて速いとは思えなかった。むしろ粘るような、じっくりとした音の立ち上がり、立下りを感じる。これこそが、GEM-1のサウンドに相応しく感じる。
# by pansakuu | 2012-04-16 21:11 | オーディオ機器

来るべきもの:G ride audio GEM-1:音質(其の2)


帯域別の印象をスケッチすると、高域は強靭で、密度感のある音だが、切れ込み鋭く、高く伸び切るので、非常に気持ち良い。つまり単なるどんよりした濃厚サウンドでは全くない。中域はかなり濃密、カラフルであり、太い筆で一気に書き下ろした書のようなほとばしる勢いがある。また味覚で言えば旨いという表現になる。美味しくボリュウムたっぷりなイメージなのだ。これほどとなると、集中して聞き続けると満腹になるのも早そうだ。つまり聞き疲れは避けられそうもない。低域は地獄から湧き上がるエコーのようにゴロゴロ、ブリブリとして官能的である。パルシブな音がフューチャーされた曲、弾けるリズムが横溢する曲ではこの低域の好印象は増すが、決して軽くならず、山のように安定している。適切な音楽を選べば、これら全帯域は絡み合い、うねり合い、GEM-1独特の魔術的音空間を現出させてやまない。

なお、このアンプは御世辞抜きに音量を絞っても音がやせない。これは特筆すべき点だ。GEM-1はいままで聞いたヘッドホンアンプで一番、小音量で聞きやすい。多分、内部的なトーンコントロールがあるのだろう。


サウンド全体を貫く特徴として、音の柔軟さは特筆すべきだ。解像度を重視した結果、2Hのシャープペンシルで描いたような硬めの音像が流行る日本のヘッドホン界に、こんな音触は存在しなかった。GEM-1では時に毛皮のような分厚く柔らかい音の触感に驚かされる。それは音の太さそのものへとつながっていく感覚だ。このヘッドホンアンプシステムでは音が太い。ここでもSTAXのSR009の繊細を極めた音のイメージとは対極にある。この音の太さはダンダゴスティーノのパワーアンプMomentumに聞かれた太さにも通じる。あるいはコンバージェントオーディオテクノロジーのアンプにも通じる。この部分にはアメリカンな音のエッセンスを感じてしまう。やはりMADE IN USAという血統は争えないのか。

事実、GEM-1は、アメリカの少し昔の女性ジャズボーカルが曲想を崩さずに聞ける数少ないヘッドホンアンプである。あの時代の女性の声の生命感の出し方やちょっとダークな表現が上手い。また、昔に録音されたクラシックのくすんだイメージ、古めのジャズの多少セピア色がかった世界によく馴染む。ロックやメタル、ラップ、R&Bも素晴らしく良いマッチングで魅せる。特に大音量再生での太い音の躍動が素晴らしく、それは鮮やかに記憶に残るものだ。この大音量をスピーカーオーディオでやろうとしたら昼の一軒家においても隣家からクレームが舞い込むかもしれない。最近のヘッドホンアンプは全て、クリアで繊細、解像度、スピード感優先の音づくりが過ぎて、上記のようなソースに寄り添わなかったように思う。その空白を埋めるのがこのアンプである。いままで、ヘッドホンのサウンドを敬遠してきた、少し年配のオーディオマニアの方々にも是非、聞いて欲しいサウンドに仕上がっている。
逆にGEM-1がやや合わない音楽もあると思う。例えばアニソンの多くはこういう熱い音調は合わないかもしれない。もっとクリアな明晰さ、透明感を必要とする曲が多いはずだ。デューク エリントンは音楽には良い音楽と悪い音楽しかないと言ったが、このアンプは合わない音楽に出会うと不機嫌な音を出しそうな予感がある。逆に言えば既存の高級ヘッドホンアンプと音楽ジャンルでの棲み分けもできそうだ。

試しにリケーブルなしのHD800を挿して聞いてみると、そこにはHD800らしさが即座に聞こえてくる。音場が途端に広がり、音は拡散する。しかし、GEM-1固有の熱気は薄まり、音の求心力が弱まってしまう。やはりカルダスでカスタムしたHD600がいい。このアンプはヘッドホンの素性を明らかにする能力はかなりのものであるが、音調が合うヘッドホンというものはやはりあるのだろう。それを個人的に探すのもオーナーの楽しみかもしれない。

価格も音調も万人向けとは言い切れない、この孤高のアンプと比較対象になりうるアンプとしては同じシングルエンドということでKH-07Nが挙がりそうである。一対一で並べて比較試聴していないが、GEM-1は音の勢いやドライビングパワー等で、KH-07Nにはないものを持っている。値段の違いと言えばそれまでであるし、KH-07NがGEM-1の半額と考えるなら、ニューオプトのアンプのコストパフォーマンスは明らかに高いだろう。
さらに、既に述べたがMBA1PlatinumやM81等のバランスアンプも、いくつかの音の要素でGEM-1に勝るとは思えない。SN感や音場の広さ、クリアネスはともかく、音の存在感、ヘッドホンに対する働きかけ、駆動力の違いなどはいかんともしがたい。これも値段の差ということだろう。また、GEM-1は高級ヘッドホンアンプはバランスでという一部の思い込みにストップをかけることにもなろう。
ただ、GEM-1の音の基調が、いままで発売されてきた一般的なヘッドホンアンプの音の基調とかなり隔たっている側面があり、単純に両者を比較すべきでないということは断っておきたい。やはりかなり個性的な音なのである。

このアンプの製作者の方は、自分たちがスタジオで聞いている音のイメージを忠実に出すことを狙ったと言うが、音を作る立場の方は世界中どこでも、このような音を仕事場で聞いておられるのだろうか?そうではあるまい。これは一人か二人の達人の好みの音をターゲットとして、最初から最後までブレずに開発されたアンプだ。強固な意志を貫いて始めて得られる音と思う。このような開発は、中心人物の体験と見識をまるごと映し出す「作品」と呼ぶべき製品を生み出す。実のところGEM-1は田口氏とThomas 'Beno' May氏が生み出した作品なのだ。このArtの使い手となる者は相応の敬意をもって、ボリュウムノブを回さねばならないだろう。

# by pansakuu | 2012-04-16 21:08 | オーディオ機器

来るべきもの:G ride audio GEM-1:まとめ


私は、この豪快なアンプの徹底した作りと音の凄まじい出来栄えに衝撃を受けた。それは突然、無防備な額の真中を打ち抜かれたような衝撃に近かった。彼はゴルゴ13のような奴である。私とは異なる感性と経験を持つ諸兄がこの音を聞いて、どう思われるかはわからない。しかし、既存のヘッドホンアンプの開発者の方々は、このアンプの作りと音に影響を少なからず受けるだろう。かつて、これほどの覚悟と志をもって作られたヘッドホンシステムはなかったはずだ。製作側がヘッドホンオーディオでも、やればここまでやれることに気づくべきである。従来のヘッドホンオーディオの枠からはみ出した、G ride audio GEM-1 ヘッドホンアンプシステムがヘッドホン界にデビューし、多くの人に聞かれることは、ヘッドホンオーディオ界の音質のスタンダードを上げてゆくきっかけになるのではないかと、密かに、勝手に期待している。

このヘッドホンアンプの728000円という価格の意味するところは大きい。
それは新たな動きである。これを購入することは、スピーカーを中心とするオーディオシステムを組む金銭的余裕がないため、高級なヘッドホンシステムをあえて組むという図式からの脱却を意味する。GEM-1を中心に据えたヘッドホンシステムは、そのクオリティに見合う十分なアクセサリーを投入するとすれば、送り出しを含めなくても、トータルで百万円を超えるシステムとなるはずである。百万円の予算があれば、小さいながら、素敵な音を奏でるスピーカーオーディオができるだろう。それでもあえてこちらを選ぶのは、スピーカーよりもヘッドホンに音質の上で強い魅力を感じているという宣言であると受け止めうる。無論、深夜にも大音量で聞きたいがため、スピーカーで楽しむスペースがないから、という事情があるにしても、そういう理由だけで、シングルエンドのヘッドホンアンプにしか使えない機材ために728000円を支払うのは酔狂だろう。ヘッドホンオーディオにしても、70万余あれば既出の最高級ヘッドホンアンプと高級なインターコネクト、電源ケーブル、ヘッドホンを揃えておつりが来るかもしれないのだ。だから、このアンプは、スピーカーには出来ないことができなくては困るというだけでなく、今までの全てのヘッドホンアンプとも違う世界を余裕で見せてくれなくては困る。果たして、そのミッションはリスナーたちの耳元で果たされるのだろうか?

G ride audio GEM-1はあくまで、ヘッドホンオーディオに魅入られたスーパーマニアのためだけのアイテムである。ここで私の言いたいのは、そういうスーパーマニアが世界中に頻繁に現れるようになった時代が現在(いま)なのだということである。これはオーディオの新たな潮流の出現を意味する。それは若く力強い潮流である。この流れに乗り、行ける所まで行ってみようという勇気ある人々を、万策堂は知っている。彼らの行く手に一体なにが聞こえてくるのだろうか。GEM-1を聞けば、その一端は、おのずと知れる。それは来るべきオーディオの未来なのだ。


窓の外を桜の花びらが舞いながら過ぎてゆく。
そろそろ春も過ぎゆく頃だ。
なにはともあれ日本の季節は新しくなってゆく。
ヘッドホンオーディオの季節も移ってゆくのだろうか。
もうすぐ熱い夏が来る。

# by pansakuu | 2012-04-16 21:05 | オーディオ機器

Zellaton ゼラトン Grand 75years edition :白い部屋①


「何かを為さんとする気負いがあるうちは決して成せぬことあり。」
ある茶人の言葉より

白い壁に白い床と天井の部屋に、
グレーのトールボーイスピーカー2本に
プリメインアンプとプレーヤー、そして一人掛けのソファーのみある。
吸音材もなくオーディオラックもなく、
生活感を漂わせる一切の器物もオーディオマニアらしい多くのメカもない
そんなミニマルな白い空間に、
一枚のCDを持って入ってきた一人の男。
ハイエンドオーディオの姦しさ(かしましさ)を憎みつつも、
その音のエッセンスを愛するその男は、
まるで生まれる前から決めていたように迷いもなくこのスピーカーを選んだ。

このZellaton Grand 75years Editonを
数か月前から何度も短時間づつ試聴していたが、
レビューをまとめる決心がついたのはつい最近である。
そのきっかけは上に書いたような内容の夢を見たことだ。
不思議な夢だった。
# by pansakuu | 2012-04-14 19:15 | オーディオ機器

Zellaton ゼラトン Grand 75years edition :白い部屋②


Exterior and feeling I
Zellaton grand 75years Editionの第一印象は
コンパクトでシンプルなデザインだなというものだった。
高さは110cmとトールボーイとしてやや低めだが、
ソファーに座ると、あの可愛らしいツィーターの高さが耳の高さに一致する。
こういうサイズ的なフィッティングの良さが、まず好ましい。
スクエアな奴お断り、なんていう邦題のついたJAZZアルバムがあったが、
静かで落ち着いたイメージがあると同時に
長方形を基本とした四角いフォルムからは、スクエアな真面目さも感じる。
奥行きは55cmと深いが、
見かけはそんなに奥行きあるキャビネットに見えない。

カラーはブラックが標準と資料に書いてある。
しかし実物はメタリックのジャーマングレイのように見え、
それはエラックのスピーカーで見られるカラーにも類似する。
昔のドイツの戦車がこれに近いグレイを使っていたのを思い出す。
このカラーはジャーマンシルバーと並んで
ドイツの機械の標準的な色と勝手に思い込んでいる万策堂である。
しかし、近寄ってよく見ると、
この塗装は、ただのマットなジャーマングレイとは違って、かなり美しく、
螺鈿の粉をまぶしたような細かなラメが入っている。
さらに透明なポリエステルコーティングもなされている。
塗装をする保護し美しさを持続させるためだろう。
ウーム、なかなかである。

正面バッフルは、25cmとナローバッフルとまでは言えないようだが、
位相整合のためか、わずかに傾斜している。
MDFやアルミ、ステンレスで構成される
キャビネットの内部はブレーシングで補強されており、
ツイーター、ミッドレンジ、ウーファーの後方空間は
それぞれ仕切られているようだ。
キャビネットの後ろはカクカクッと直線的にすぼまっている。
つまりルーメンホワイトや、ソナスのスピーカーのように
曲線的にすぼまっていない。
このリアの形に、(これも勝手に)ドイツっぽい無骨さを私は感じている。
そして、そのすぼまった先は8個の細長い孔となって、後方に開口している。
つまり、このスピーカーはルーメンホワイトのような後面開放型である。
ルーメンと違うのは後面の細長い孔に黒い布が張られて保護されていること、
ダンピング材を介して開口していることである。


後面開放型は背面の壁からかなり離さなくてはという焦りがあるが、
実際に鳴らしてみると、
かえって離しすぎない方が低域のバランスが良いらしい。
後述する帯域バランスの微調整もあり、置き方の自由度は低くない。
狭い部屋でも十分に置けそうだ。


後面下方にはロゴマークとシリアルナンバーが刻印されている。
Zellatonのロゴマークは
スピーカーユニットの円錐型のコーンの形をフューチャーしたもの。
このマークもなかなか格好が良い。
その下にスピーカーケーブルのバインディングポストがあり、
シングルワイヤリング専用となっている。
ケーブルの端子を締めるノブはアクリル製の円筒状のものであり、
+と-で赤と黒に色分けされた帯が彫り込まれている。
最近、Soulutionのアンプでも見たタイプのものだ。
これは締め上げるトルクの加減がしやすくない気がする。
できればトルク管理のできるツールが使える、六角形のものがよいのだが。
さらにその下に3個のスイッチがついている。
このスイッチのON/OFFの組み合わせでレベルコントロールが効き、
六通りの帯域バランスが選択できるという。
私の試聴では実験していないが、
スイッチをいじると、音の印象が変わるという。
ただ、根本的な変化はないと聞いている。
この帯域バランスの調整機能は、
後面開放型スピーカーのセッテイング難を緩和するためのものだろうか。
面白い仕掛けである。

# by pansakuu | 2012-04-14 19:14 | オーディオ機器

Zellaton ゼラトン Grand 75years edition :白い部屋③


Exterior and feeling II


特徴的な、銀色に輝くコーン型の3個の発音ユニットは
鋭い円錐を逆さに立てたような形のものである。
これらのユニットに使われているコーン
硬質発泡体を特殊な金属箔でサンドしたものであり、
極めて軽いのが特徴らしい。
その軽さは明らかに音に出ている。
このコーンはさらに放射状に分割されセル構造になっており、
剛性が増しているという。

面白いのはツイーターもミッドレンジもウーファーも
全く同じ材質、同じような形状。構造であること。
ミッドレンジとウーファーは全く同じ外見である。
こうした振動板の材質、構造を揃える手法は
ビビッドのG Giyaシリーズ以外ではすぐに思い浮かばない。
これはネッワークさえ巧く設計できれば、ワイドレンジでありながら
フルレンジに近いサウンドが得られる可能性を秘めている。
それにしても、このツイーターは面白い。
銀色のミッド、ウーファーと、
それをそのまま縮小したようなツィーターを交互に眺めていると、
遠近感というか大小感が狂ってくるような不思議な感覚にとらわれる。
また、微視的には非常に細かな神経での手作業によると見られる
ツィーターのダンパーの処理などもなかなか見モノである。

さらに、これらのユニットには
デザインのアクセントにもなっている、
黒くしっかりしたアルミ削り出しのフレームに縁取られており、
それを介してバッフルに三点留めされている。
この三点留めというのもスピーカーユニットの留め方としては
案外と多くないかもしれない。
このクラスになると、もっとネジの数は多くなる傾向にある。
ネジ留めのトルクの加減さえ音に効くというから、
この三点止めも音に影響はあろう。

そもそもこのスピーカーの名前にある75yearsとは、
このZellatonのスピーカーユニットの誕生から
75年の記念という意味らしい。
それほどに、この独自のユニットは
この東独のメーカーにとっての誇りなのだ。
そういえば、メーカーのロゴマークのデザインにすら出てきている。

このスピーカーの内部のネットワークには
デンマークのDuelund Coherentのパーツが奢られている。
これはGryphon, Peakconsult, Tidal等で採用実績があるものだが、
実物はとても美しい。
ゴールド、コパーとブラウンで彩られたキャパシターには、
電気部品の無味乾燥さはなく、フランスの高級チョコレートを見るようだ。
価格からしても、見てくれからしても、
ムンドルフを選ばずこちらを選んだことからしても
聴感上かなりの高性能なのだろうし、経年変化という視点でも優れるのかも。
ネットワークの配線材はVan den hulのものが使われている。
タンノイ等でもお馴染みの定評ある電線である。
NordostのORDINを内部配線に使うスピーカーさえある時代だ。
スピーカー内部の電線に凝るのも当然ということか。
このスピーカーのインピーダンスは4Ω、能率は85dBとなっており、
ネットワークの負荷はかなりありそうだ。
ここでは駆動力のあるパワーアンプが必要だろう。

足は4つで、小さいが鋭く尖った金属製スパイクである。
これは触感上はとても硬い金属のように感じた。
75kgと重たいスピーカーなので
地震の際に、このスパイクでは倒れそうで少し怖いが、
このスパイクこそがデザイン的にも音質的にも似合うと思う。
受け皿はアンダンテラルゴの製品がピタリと決まっていた。

なお、このスピーカーと良く似た形のサブウーファーも出ていて、
一応は聞いているのだが、
とても高価でスペースも取るわりには効果が少ない気がした、
というかZellaton grand 75years Editionのみで、
十分にいい音だと思うのでレビューにはあえて含めない。

# by pansakuu | 2012-04-14 19:12 | オーディオ機器

Zellaton ゼラトン Grand 75years edition :白い部屋④


The sound I
いくつかの組合わせで鳴らした音を聞いている。
万策堂的には、ブルメスターの高級CDプレーヤーと
dartZeelのセパレートアンプで鳴らすZellatonが一番良かった。
非常にウェルバランスでシンプル、そして非常に軽快な音である。
どういうシステムで鳴らしても共通していたことだが
このスピーカーには何かを為さんという気負いがまるで感じられない。
肩の力が抜けた音である。

もっとも、数ヶ月前に初めて試聴したときは、
やや音の伸びが悪く、硬さがまだ残り、
高域と低域が縮こまったような萎縮した音の印象があった。
全体のバランスとしては、既になかなか良い音が出ていたものの、
400万円という価格を考えると、
この時点では購買欲は湧かないスピーカーと言わざるをえなかった。
ちなみにこのスピーカーは本国では35000ユーロとのことで、
輸入品であることを考えると、
日本での価格はそんなに高い値付けではないのだが。
数ヶ月の連日のエージングの後は
音はかなり良い方向に振れてきたのが実感される。


音質を評価する様々な要素が過不足なく盛り込まれた、
バランスの良さという意味では、
本機に勝るスピーカーはなかなかないであろう。
逆に言えば、このスピーカーの音の各要素について
何から書いたらいいのか、どうにも決めがたい。
突出した美点がすぐには感じられないのだ。
思案しながら書き進める。

私が、このスピーカーの鳴り方でまず嬉しいのは
フルレンジ的にスムーズな出音だ。
真にワイドレンジな単発フルレンジユニットなどというものは、
今もないはずだが、Zellatonはその理想に近づいた鳴り方をする。
高域、中域、低域のつながりが非常に滑らかなうえ、
質感の差異がほぼ皆無と言える。
各帯域をまたいで発音する楽器などザラなのだから
本来こうでなくてならなかったのだ。
こういう鳴り方を体験すると、
今まで、素晴らしいと思って聞いてきたいくつかのスピーカーにも
気付かぬ弱点があったことを知る。
各帯域の質感やスピード感が完璧に揃う快感をZellatonは教えてくれる。
ここではビビッドのG2 Giyaとの共通点も感じる。
キャビネットの形態上は全く似ても似つかないが、
振動板の材質を揃えるという意味では類似している。
しかし、
ZellatonとG2 Giyaは比較が困難なほど音調は異なる。
G2 Giyaは広大な音場を徹底的に意識させ、そのスケール感は素晴らしい。
対するZellatonは
音像の実体感を前面に出しつつ奥行きの深い音場をイメージさせる。
こちらの方が音像と音場のバランスがより巧く取れているし、
各帯域の繋がりもビビッドのスピーカーより滑らかに自然に聞こえる。
しかし、G2 Giyaのように、
リスナーに深呼吸を促すほどの広い感覚、
広大なる音場の大気感のようなものを運んできてはくれない。

Zellatonから繰り出される音像は濃厚だ。
くっきりと隈取のある、陰影豊かなもので、その定位感も確たるもの。
この音像の渋みのある濃さが、
キャビネットに類似があるルーメンホワイトの音との異なる点である。
ルーメンホワイトの音像にはもう少し淡く、上品さが乗っかっている。

このスピーカーが聞かせる音場は決してだだっ広くはないが、
独特の透明感があり、見通しも悪くない。
私は音場が左右方向よりも深さ方向に拡がる印象を持ったが、
ここはセッティングやアンプの影響もあるだろう。
広いホールで録音した、合唱曲では
音場的な深み、奥に行くに従いほの暗くなるような
色彩的な遠近感が素晴らしかった。
ECMのヒリアードアンサンブルのサウンドが良く似合うだけでなく、
ECMのサウンド全体が良く似合うように思った。
ECMファンである私は、手持ちのPIEGA CL90Xに匹敵する
ECMらしさ、が横溢するサウンドに暫し酔った。

Zellatonは既述のように各帯域の繋がりがいいので
高域、中域、低域に分けて考えるのが少し難しい。
(これが本来あるべき姿なのだろう)
あえて評すれば以下の如くなる。
まず、
このスピーカーの高域のクッキリ感、シッカリ感は得がたい。
最近良くある微粒子的に拡散する、スプレー状の高域ではなく、
リスナーにピタリと照準を合わせてくるレーザービーム状の高域である。
この表現はZellatonのスピーカーの全帯域に共通するような気も。
中域は軽みはあれど色は濃く、
インパクト、解像度の高さが確保されているが、
その存在を大声で主張する振る舞いがない。
むしろ平穏に過ぎるかもしれぬと思うほど、落ち着きがある。
低域は、これも十分な解像度とインパクトを持つが、重たさに流れず軽快だ。
振動板の特徴だろうか。レスポンス良く、軽々と弾んで、小気味よい。
ファットになったり、尾を引いたりしない。
最近のスピーカーらしい、私好みの低域だ。
# by pansakuu | 2012-04-14 19:09 | オーディオ機器

Zellaton ゼラトン Grand 75years edition :白い部屋⑤


The sound II
このスピーカーの能率は既述のとおり、とても低い。
しかし、dartzeelのパワーアンプで駆動するかぎり、
十分な音離れの良さがあり、音の飛距離はそれなりに確保されていた。
音の飛び方としては、あまり大きく広がらずに直線的にリスナーに飛んでくる。
ホーン型スピーカーほど直接的な音調ではないが、
高域で強く感じたレーザービームのイメージが、全域にかぶる感じである。

代理店の広告では、ハイスピードな応答が大きく謳われているが、
そこは音の特徴の前景には出ていないと私は思う。
確かに、全域揃って、音の立ち上がり立下りに
十二分のスピード感があるのは間違いないのだが、
それが自然な形でしか示されていないので、
そこに注目して賛美する流れにならない。


Zellatonのすぐ上の価格帯には
MagicoのQ3やYGのKipod、マシーナのピュアシステム、
ビビッドのG2 Giya等があり、
下にはB&Wの800Diamond、ビビッドの新型機G3 Giya、
KEF BLADE等がある。
仕方のないことだが、これらと並べて音を比較すると、
多くの日本のハイエンドオーディオファイルは
Zellatonに注目しないのではないか。
このZellaton Grand 75years Editionというスピーカーには、
それらのスピーカーを蹴散らすような目立つ売りはない。
Zellatonは基本的には地味なスピーカーである。
まとめ方として非常に平明で普通のサウンドを目指した風があり、
人心を魅了し取り込もうとするデザイン的、音質的アピールはあまりない。
比較対象となるハイエンドスピーカーを眺めると、
我こそは、このクラスでトップを取るぞ、という
洋々たる気概を漂わせるツワモノばかりが並んでいる。
対するZellatonには、その気負いはない。
我が道を往くのみと淡々としている。
空間性、音の実体感、定位の確かさ、
ダイナッミックレンジの広さ、解像度など、
個々の要素のみ比較してゆけば、
Zellatonは劣りこそしないものの、相手を完全に凌駕することはなかろう。
しかし、
エージングの済んだZellatonの音の気負いのなさ、渋みのある音色、
帯域の足並みや質感の揃うフルレンジ的な鳴り方、
全ての要素の盛り方のバランスの良さ、
シンプルで威圧感のない外観、設置のしやすさなどを考えたらどうだろう。
さらに、少なくとも日本では
多数のオーディオファイルが選ばないであろうスピーカーを
あえて自宅に迎え入れる優越感を考えたらどうだろう。
私は「あえて」のスピーカー、Zellatonを絶対に無視できない。

日常的な感覚で言えば
ベラボーに高価であるにも関わらず、
日本で数十台以上も納入されているオーディオ機器がある。
CH precisionのプレーヤーなどがそうである。
これを買う人の多くは、数十人もの人が、
同じ機械で同じような音を聞いているとは想像していないだろう。
もし、彼らが正しい納入実績を知って、その想像をたくましくするなら、
自らがそれまで抱けていた優越感を、
少なくとも若干は失うであろう、と私は推測する。
そう考えると、
私はできれば音が良いだけではなく、
なるべく他のオーディオファイルが買っていないものが欲しい。
誰も聞いていない音に少しでも近づきたいからだ。
Zellaton Grand 75years Editionは、目立たぬ存在であるがゆえに
そういう私の願望を見事にかなえてくれそうな気もする。


Summary

Zellatonは、まことに達人のための達人によるスピーカーだと思う。
オーディオの酸いも甘いも知り尽くした人こそ、
このサウンドの渋さを良く理解できるだろう。

万策堂は、この渋いZellaton Grand 75years Editionが好きである。
もし、外観や構成は本当にシンプルでミニマルでありながら、
ハイエンドオーディオとして完備されたシステム。
そういうものを新たに構築するとするなら
私はこのスピーカーを選ぶ。

真っ白いリビングの真ん中でソファーに身を委ね、
ゆったりと寛いでZellatonで音楽を聞きたい。

今のところ、
私の夢の中にしかない白い部屋にはZellatonが静かに立っている。

# by pansakuu | 2012-04-14 19:04 | オーディオ機器

CHORD RED Reference Mk2: ドラゴン殺し


そういう異名をとる剣があると言う。
使うべき人が使えば、巨大な竜を斬り殺せるほどの巨大なる剣ということだ。
もちろん切れ味も素晴らしいが、まずは重さ・大きさ・剛性が桁違いなのだ。
普段は担いで持ち歩き、
使うときは遠心力と重力、そして剣士の腕力で一気に振り下ろせば、
ドラゴンの肉体をも一刀のもとに断ち落とせる。
その斬り口は、研ぎたての日本刀で切ったような綺麗なものじゃなく、
かなり、ささくれているのだが、
巨大な肉片とこの太さの骨組織をあわせて、
一刀で両断するという芸当は、この大剣にしかできない。

いまさらながらというか、やっとというか。
もう数年にわたり、
試聴したい、触ってみたいと思っていたものをやっと聞けた。
CHORD RED ReferenceというCDプレーヤーである。
カタログ上はもうMK3になっていたが、今回聞けたのはMk2である。
しかし、ついに落ち着いて、時間をかけて聞けた。
幸せだ。素晴らしい。
以前、オーディオショウで代理店の方にデモを頼んだことが二度あったが、
二度ともあっさりと断られた。
コイツは買わないと思われたのだろうか。
私の礼節が足りなかったのか。
それともなにか、音出しできない理由があったのか。
このプレーヤーの音を聞いたことのある方は
日本では本当に少ないはずだ。

このプレーヤー、2012年にあっては、ただのCDプレーヤーである。
SACDもかからないし、USB入力もありゃしない。
今となっては絶滅危惧種の超高級CD専用プレーヤーである。
しかも日本での表示価格は約400万円であった。
オーディオマニアでなければ、
狂気か犯罪か、どちらかに属する器物と判定されそうな代物である。
しかし、このプレーヤーは、
武器に喩えるなら「ドラゴン殺し」と名付けるべき、大剣だったのである。


Exterior and feeling

かなり変わっている。
フロントパネル、トップパネルの左側を
半円形に深く斜めに掘り込んだような形をしている。
斜めにフィリップスのCDドライブメカをセットし、
丸いハッチのような形のリッドをかぶせている。

OPENのボタンを押すとカチリ、パタッとリッドが手前に開く。
CDをセットするのは楽ではない。
CDが斜面をずり落ちないようにそっとセットして、
カチリッと手でリッドを閉める。
Mk3ではこの動作が自動になっているらしい。
リッドの上部には丸い小窓があり、中のCDが回転しているかどうかが分かる。
中央にはMK2という刻印が彫り込まれている。
初代のRED Referenceはこのリッドには、窓も刻印もなくシンプルだった。
あっちの方がデザインとしては好きだ。

分厚いフロントパネルには例によって多くのボタンが高密度に集められていて、
全くシンプルな顔つきにはなっていない。ゴチャゴチャしている。
しかし、このカッチリした操作感のあるボタンでほぼ全ての動作ができる。
なお、大きく重いリモコンも付属してあり、多機能であるが、使うには慣れが必要だ。
トップパネルもかなり厚いアルミで出来ていて、十本のビスで固定されている。
波型配列で多数の放熱孔が開けられ、
その穴の入口部にはすべてスリバチ状の面取りがなされている。
その上にはCHORDのトレードマークである、
中部を覗く虫眼鏡のようなレンズがはめ込まれている。
その中には青白いLEDで照らせれたオリジナル設計のDAC回路が認められる。
このトップパネルを見ていると、
まるで海を満月が照らしている風景を描いた絵画を見ているような感じである。
なかなか面白いトップパネルである。
このCDプレーヤーはバックパネルも流石に厚い。
1cmほどの厚みのアルミ板に端子類が直接固定されている。
このバックパネルの剛性感は音に確実に効いているはずだ。
そして、
CHORD独自の四本仕様のインテグラレッグがこの筐体を外側から支えている。
この足も本当に独特である。
一本一本が各々、三点の小さな足で接地するインシュレーターなど他にあるまい。
ラックなしのスタック設置や、六本足仕様も可能な、
このインテグラレッグシステムはCHORDのデザインに大きなウエイトを占める。
今回のRED Reference Mk2には、
両サイドのインテグラレッグの間に
緩やかにラウンドした非常に厚いウッドブロックがはめ込まれていた。
このウッドブロックがどれくらい音に効くのかは分からないが、
機械全体の雰囲気に高級感というか、
不思議感をさらに付加していることは間違いない。

全体には、似たような雰囲気の機械が思いつかないほど風変わりな形であるが、
非常にガッチリした作りであり、パーツの工作精度もかなり高いと思う。
カネのかかった外観だ。

なお、今回、私の聞いたCHORD RED Reference Mk2は
デジタル入出力とクロック入力を備え、
上述のウッドブロックを装着した最高級バージョンinvictaである。
invictaはスペイン語で「不敗の」という意味。
スポーツクラブの名前に時に使われている。
まさに、それらしい名前。
聞くところによると、この最高級バージョンinvictaは、
なぜかデジタル入出力とクロック入力のないスタンダードなモデルよりも
音がいいという噂である。


The sound 

このプレーヤーのサウンドは「ドラゴン殺し」である。
私はそう呼びたい。

私の職業柄、刃物の切れ味とその切り口には、こだわらざるをえない。
勢い、趣味のオーディオを聞き分けるときも、その音の輪郭の切れ込み具合、
音の切れ味のニュアンスが常に気になってしまう。
最新鋭のSACDプレーヤーやDSなどのPCオーディオを聞いていると
この音像と周囲の境界面の処理は自然であることを良しとするものが圧倒的に多い。
無理にエッジが立った音がとても少なくなった。
今の音に比べると、
昔のエソテリックのプレーヤーなどは
音のエッジや輪郭線が強調される傾向がやはりあったように思う。
エソテリックほどではないが、LINNのCD12にもそういう傾向を感じた。
CDらしいというか、明快なあの音の傾向は割り切りが良いし、
音楽の構築が見えやすくて好きだった。
しかし、音がやや硬くなり、微妙なニュアンスが省略されて、
音数が減っているようにも聞こえるせいか、
この傾向はだんだんに鳴りをひそめ、
CDプレーヤーの音は、全般には細く、細かくなっていったようだ。

CHORD RED Reference Mk2の音はどうかというと、
これは疑いようもなく、音のエッジや輪郭線が強調される音調だ。
昨今では、こういう音は一体型CDプレーヤーからは聞かない。
しかし、これだけ強く、くっきりはっきりとした音を出されると
逆に説得される。そして、納得させられる。
音のエッジが強いのは良くないことで、もっと繊細な音がいいとばかり、
最近の私も思い込んでいたが、そうではないということだ。
RED Referenceの音はズバッと切れ込む音だ。
重みのある大剣で豪快に断ち切られたような
音のエッジ、輪郭線に圧倒される。
この音の切り口は日本刀でスパッやったような
滑らかで綺麗な、今風のSACDプレーヤーの音の切り口とは違う。
乱暴でギザギザして荒々しい雰囲気が残っている。
そういうわけで、このプレーヤーは八方美人ではないのだが、
メタルやハードロック、ハウス等のソースは凄絶に鳴らす。
こういうジャンルのCDを大音量でかけていくと、
音が良すぎて、というか曲想に音がハマり過ぎて冷や汗が出てくる。
演奏に音楽的な要素が横溢してノリにノッている。
風雲、急を告げている、というか、差し迫った感覚だ。
サビやリフが始まると、
大剣を、風切り音とともに振り回す狂戦士のようでもある。
RED Referenceの奏音が目の前で暴れ回り、
大剣の切っ先の風圧を鼻先で感じるようでもある。
「ドラゴン殺し」の面目躍如か。

音場は
はっきり言って、
最近のハイエンドオーディオのスタンダードからすると、
それほど広くはないし、深くもないと思う。
しかし与えられた空間に音が押し込められたおかげで、
かえって蒸せ返るような興奮がリスナーに迫るということもある。
最新の上級プレーヤーのような広大なサウンドステージもいいが、
それでは、この熱い興奮が空間の中で薄まってしまう。
こっちもいい。

高域はくっきりした音の輪郭をもって、高く伸び行く。
こいつは声高だ。
このプレーヤーの濃い目の高域に曖昧さ、弱さを垣間見ようとしても無駄だろう。
RED Reference Mk2の高域の強靱さには、近づきがたい威風が感じられた。
中域はさらに濃密であり、既述したとおりの素晴らしい輪郭感、
スピード感を伴った切れ味の良さが絶品である。
深みのある低域の表現にはゴリゴリした押し出し感あり、小気味良い弾みあり。
また、低域での解像度はすこぶる高い。
流石に高級機らしい低域であり文句が出ない。
音数は最新鋭のSACDプレーヤーに比べたら、やはり少ないが、
「で、それが何か?」
と若干アゴを突き出したかのような男っぽい生意気さが嬉しい。
こういう意気地が聞きたかった。
最近のオーディオにはコレが足りなかった。
中性的なオーディオばかり我々は聞かされていたのだ。

さらに、全帯域で音にしっかりした芯を感じる。
これも昨今のSACDプレーヤーには感じられない美点だ。
それでいて、格調が高すぎない。荘重な音調に傾きすぎはしない。
カラッとした軽みもある音で、
CHPrecisionのプレーヤー等の超高級マシーンで聞かれる、
軽い雰囲気の音楽を排除するかのような尊大さ、上から目線があまり感じられない。
それでいて、このサウンドのどこかしらに
品格の高さというものが隠れているように聞こえて面白い。

それにしても、音のリバーブ成分にこれほどの実体感、
存在感が与えられたプレーヤーないのでは?
確かに、これはいわゆる自然な音ではないかもしれない。
またアナログプレーヤーと比肩されやすい
アナログ的滑らかさというニュアンスもない。
そういう癒し系の音とは違う。
16bit, 44.1kHzのD/A変換の音質傾向を極限まで煮詰めて得られた、
極めてデジタル的な音世界である。
このCHORD独自のデジタルテクノロジーの極まりが、
ドラゴン殺しなどというベルゼルクの得物を連想させたのだろうか?
多分、それで合っているだろう。


Summary

「ドラゴン殺し」は使い人を選ぶ。
これはCDというメディアを、だれも聞いたことのないような音で
力強く再生したいという人にお薦めしたい。
オーディオの荒野にたなびく風雲と戦塵を常に感じていたい方にお薦めしたい。

こうしてみると、
はたして、ハイエンドオーディオは本当に進化しておるのだろうか?
真っ先に疑いたくなる。
最新のものは確かに数値上の性能は良くなってきてはいる。
しかし、音の存在感や魅力ではどうか?
この型番落ちしたCDプレーヤーを聞くにつけ、
いや、ドライブ供給等の関係で
絶滅危惧種となっている超高級CDプレーヤー全般を聞くにつけ、
最新のものが最高のものと思い込むのは激しく間違いである、と思う。

私はこのプレーヤーの音を聞いている間、
正直、
30分くらいの間だけでいいから、
大人の分別というものを失いたいと願ったものだ。
購入の契約書にサインする間だけ、心身喪失していたかった。
かなり無理をしてでも欲しいと思わせるほど、
えもいわれぬ、いい音が出ていたからだ。
結局、理性がその願望を抑えきってしまったが。
ドラゴン殺しの剣よ。お前は私の分別をも殺そうというのかい。

いいオーディオは人の心を狂わせかねないことを再確認した。

# by pansakuu | 2012-04-10 21:33 | オーディオ機器

KEF Blade ブレード:形の美学、音の実学



スピーカーはオーディオシステムの顔である。
音の上でも、インテリアの上でも、やはり顔である。
音が良くなければいけないのは言うまでもないが、
その形や色や仕上げは、音楽を聞く部屋の雰囲気を大きく左右する。
音もよく、見栄えもよい、そういうスピーカーが求められる。
万策堂は
都内某所でイギリスKEFのBladeというスピーカーを、じっくりと聞く機会に恵まれた。
今回は、この個性的なスピーカーの形と音についてざっくりと書いてみたい。


Exterior and feeling

このスピーカーの形は
ブランクーシという彫刻家の作品に似ていると言った方が居られた。
名言であろう。
このスピーカーのデザインは
近代彫刻の還元主義的な傾向に影響を受けたのではないかと
勘繰りたくなるほど、清清しい簡潔性が柱になっている。
グラスファイバーで造られたプロペラの羽(ブレード)を想起させるこの形態は
楕円形の薄い台の底面の4つのスパイクで、床に突き刺さるように屹立している。
背の高いスピーカーであり、4mくらいの天井の高さが欲しくなる。
正面には2WAYの同軸ドライバーが一個、
弾力のある黒い素材の中に埋め込まれるようにマウントされている。
さらに、側面には背中合わせにして、
振動を打ち消しあう計4個のウーファーが頼もしく並んでいる。
ダブルウーファーの両側側面配置とくれば、
左右の壁までの距離と、左右のスピーカーの間隔は広く取りたい。
しかも後面にはバスレフポートが二つもある。
後壁との距離も離さねばなるまい。
勢い、部屋の広さはかなり必要となりそうだ。
おそらく広ければ広いほど、天井が高ければ高いほど、
いい音で鳴ってくれるタイプではないか。
左右のスピーカーどうしは3メートル以上は少なくとも離したいし、
側面の壁や後面の壁とも1メートルは離したい。

正面から見ると、これはVivid audioのスピーカー群と同じく「一つ目」である。
銀色の美しく複雑なUniQドライバーの振動板が目のように見える。
この同軸ドライバーはツィーターの音の拡散角度が、
ミッドウーファーのそれとほぼ同一というのが売りらしい。
小さな風車が組み合わされたような、非常に精密かつ美しい成形である。
全体の形状に類似があるG2Giyaと比べると、
Bladeの方が高級感があると私は思う。
ワイヤリングはバイワイヤ対応だが、ハイとローの間にある端子のツマミを回せば、
ジャンパーによる接続とバイワイヤ接続を簡単に選択できる。
これは便利である。
また、ウィルソンのスピーカーのように、
あるいはビビッドのスピーカーのように、カラーリングも選べる。
二回とも試聴機はグロスホワイトであったが、清潔感があり好ましい。
だが、私ならグラファイトを選ぶだろう。(シブいからね)


The sound 

そのフォルムや発音ユニットの配置から推測すれば、
これは現代的な傾向を持つスピーカーであり、
音場を音像よりも重視した音作りがなされているのではないかと推測するが、
一聴して、それは間違いだと分かる。
これは明らかに音像型のスピーカーである。
音の輪郭は非常にしっかりと描かれ、
音像の陰影のコントラストもメリハリがついている。
朦朧とした印象がまるでない。
ただ、エージング不足なのか、下手をすると硬めの音に聞こえることもあったが。
この音像の立ち方は明確ではあるのだが
実際に、このスピーカーから噴出するサウンドを
縦横無尽にリスニングルームに泳ぎまわらせ、
そのポテンシャルを如何なく発揮させたいなら、
音場型のスピーカーのセッティングで意識されるように
やはりできるだけ広く、天井の高い部屋がよいように思われる。
なお、私はどんなスピーカーでも部屋は広い方がいいとは思っていない。
スピーカーに持って生まれた器というのがあり、
それはスピーカーの大きさだけに拠らない。
今回のKEF Bladeについては音の器自体はかなり大きい方と思う。
見かけ以上に、だ。

基本はクールなサウンドだ。
ウォームなニュアンスはあまり感じない。
パワーはかなり入るので、見掛けによらず、大音量を出せる。
UniQドライバーのキャラだろうか。
高域のスピードは速く鋭いし、広がりもある。そして、高さが出る。
フォルムのうえだけでなく、音のうえでも天井を高くしたくなる所以だ。
全域での音の分解能は十分に高いが神経質なほどの細密描写はできていない。
曲ごとに微妙な変化を見せる、細かな質感描写について、
アレコレとこだわる人には不満もあろうか。
また、中域と高域の繋がりはスムーズだが、
中域と低域については、わずかに余分な重なりあいを感じた。
ここら辺の音のダブりは気のせいだと思いたいが、どうなのだろう。
やはりウーファー4発の低域に対し、
小さな同軸1発に中域と高域を受け持たせる形式だと
低域が中高域にカサにかかってくるように錯覚しやすいのか。
サウンドステージは左右に広いが、奥行きはあまり深くなく、
音像は前に出てくる。
そこでの定位の良さはさすがのUniQドライバーである。
うまくセッティングすれば、リスナーの直近に整然と奏者たちが並ぶ。
さらに、この定位が聞けるスイートスポットは案外広く、
リスナーが動き回っても位置関係が揺るぎにくいのがいい。

そして低域はかなり出る、伸びる。
さすがウーファー4発は伊達じゃない。
しかし、この低域の印象はスレンダーではないし、
低域のスピードはさほど速くない。
低域のレスポンスが凄くいいというわけではない。
やはりウーファー4発となれば、
かなり制動に優れたパワーアンプが必要なのかもしれない。
部屋が音楽のスケールや音量に似合わないなら、
あるいはアンプが非力なら、
膨らみが出てしまい、若干ブーミーになる。
アンプやスピーカーケーブルによる低域のレスポンスの強化も必要か。
試聴ではウッドベースをボンボン弾きまくる曲では音が部屋の中に飽和していた。
ただ、この低域が巧く鳴ったときのインパクトは強力だ。
部屋中に響き渡る豊かな低音となる。
こういうスレンダーなエンクロジャーからタップリとした量感、
伝播力のある低域が聞けるのは面白い。

総合的には、明確な定位シッカリとした音像を優先的に描写しながらも、
非常にスケール豊かな音場のイメージも出すことができる稀有なスピーカーだと思う。
音と価格のバランスから考えると、G2 Giyaよりは明らかにお買い得だ。
Giyaのサウンドは、
特に空間性においては上手だが、100万円オーバーの音の差はないと断言できる。
また、音像をスマートに追求するならBladeの方が優れている。
経済的に見れば、
このスピーカーのコストパフォーマンスは高い。
確かに、音を要素ごとに細分化して比較評価するとすれば分が悪い点もあろう。
しかし、総体的に評価するなら
他メーカーの300万クラスのスピーカーに
この音質とスケール感を期待するのは難しいだろう。


Summary

KEF Bladeは
広い部屋、強力なパワーアンプ(できればモノラル)と、
リスニングルームのインテリアに対する美意識を持つ
オーディオファイルに特にお薦めしたい。
また、VividのGiya、巨大ソフトクリームを
リビングに置くなという家族の反対にあった方も、
このスピーカーを一考していただきたい。


Postscript

KEF Bladeのプロトタイプの写真が手元にある。

それは全体がカーボンコンポジットで作られ、
ネットワークはスピーカーの外の別な筐体に納められていた。
このプロトタイプは音の評価は大変に高かったようだ。
エンクロージャーの材質やネットワークの置き方から考えるに、
今回聞いた量産型はプロトタイプの音には及ばないのではないか。
否、そうでもないのか。
ロックポートのスピーカーなどから推測される、
カーボンの制動力と別筐体化した
ネットワークのノイズへの免疫が音に与える影響は小さくないはず。
とにかく、個人的には、かなり高価になってもよいので、グラスファイバーでなく、
カーボンコンポジットのエンクロージャーを持つ
ネットワーク別筐体のスピーカーを出して欲しかった。
その音が聞いてみたかった。
今となっては選び抜いたアンプとケーブルで鳴らす量産型Bladeが
プロトタイプを上回っていることを今となっては願うのみだ。


# by pansakuu | 2012-04-01 19:55 | オーディオ機器

Air tight エアータイト ATM3011:凱歌を聴け




今、そこにある一組のアンプ。
これは200Wの大出力を誇る強力な真空管アンプATM 3011である。
タワー型のモノラルパワーというと、
マークレビンソン、NAGRA、HARCLO、VTL、クラッセ、グラスマスターなどの
フラッグシップモデルが思い浮ぶ。
アンプのタワー化は省スペースで大型のモノラルパワーを使う、ほぼ唯一の方策だ。
結論から言えば、価格を含めた総合的な評価では、
ATM3011が最も味わい深い音を持つタワー型パワーアンプと私は思う。


Exterior and feeling

最上階にシャンデリアの暖かく豪華な灯をともした
ツインタワーを思い起こさせる建築的なモノラルアンプだ。
横幅を20cmあまりに絞り込んだこのタワー型の形状。
「この形なら置ける」
思わずつぶやきが漏れる。
そして自衛隊の装備品のように精悍なグリーンスチールのシャーシ。
片チャンネルで46kgあるが、
設置はフリースタンディングと決まっているので、むしろ扱いやすい。
分厚いフロントパネルの上部に開いた
四角い窓には控えめにAir tightのロゴが見える。
その下にはReferenceの刻印。
品質への自信のほどが伺える。
フロントに丸く開けられているバイアス調整メーターの小窓が可愛らしい。
側面上部には金網が張られた窓がいくつか開いていて、フロントの窓のみならず、
そこからも6本パラッた6550がうっすらと見えて嬉しい。
このアンプの発熱は
片チャンネルで6本以上の真空管を使うわりに
あまり大きくないのは、ちょっとしたサプライズだ。
NAGRAやグラスマスター、アインシュタインのアンプと比べて小さいと思う。
室温23℃、やや大き目の音量で2時間以上ドライブしても、
シャーシにしっかり触れることができた。
無論冷たくはない。アツめのぬるま湯に手を突っ込んだぐらいな感じである。
発熱というものは、この手のパワーアンプを買うかどうかを考える場合、
スペースファクターとともに大変重要なことだと思う。
以前、グラスマスターSD2を使う方のリスニングルームにお邪魔したとき、
6畳間では、夏場、クーラーをフル回転させても、
やや無理があるほどの発熱だったのを思い出す。
アインシュタインのモノラルパワーにいたっては
部屋が狭いと冬でもクーラーが欲しいくらいだという。

トップには細長いフタがある。
そこを開けると小さな調整ボリュウムが並び、
個別の真空管ごとのバイアス調整を可能としている。
バックパネルにはWBT製のRCA入力端子とスピーカー端子が1個づつ。
実にシンプルな入出力系だ。清い。
それに出力のアッテネーターもある。
これは様々なプリアンプに対応して全体の音量を整えるには便利だが、
信号が余分な部品を通ることに抵抗感がある方はノーサンキューだろう。
足は四足で、丸いアルミの部品とゴムを組み合わせた
ごく普通のものだ。これもなんだか清い。


The sound 

Air tightはアナログレコードが好きだ。
デモはほとんどの時間がアナログレコード演奏になりがち。
私の参加した二回の試聴ともドイツ製アナログレコードプレーヤーと
フォノコントロールアンプATE2001を組み合わせていた。
ATE2001については
他のアンプとの組み合わせも2回ほど経験済みであるから傾向は把握している。
アナログレコードのサウンドと
ATM3011とのペアは最高のマッチングであり、
他のどのアンプとの組み合わせも敵わない
香りの良さと味わいで心が満たされてゆく。
モノにはそれを人に買わせようとする力と使わせようとする力があるものだが、
このパワーアンプにはそのどちらもが十二分に備わっている。
仮に発熱があろうとも、大きくて重く、高価であろうとも、
その実物の雰囲気と音に触れただけで、
欲しくなり、自室で演奏させたくなるオーラをATM3011は身に備える。

ATE2001と組み合わせて鳴らすATM3011は凱歌を奏でるアンプである。
音の滑らかさと威厳。
そして、タイトな低域のフットワークの良さ。
適度な分厚さを持つサウンドに、
これらの要素が混ぜ込まれてATM3011は朗々と歌う。

高域は控えめな出方で、
清清しいヌケの良さや金属的なシャリ感は前面には出ていない。
イブシ銀の光沢を放ち、静けさ、落ち着きを感じる高域。
シンバルの力一杯の一閃も派手にはしない。

中域は当然分厚い。予想通りだ。
パースペクティブのある整理された中域では断じてないが、
深くコクのある音色と闊達で的確な太筆書きの輪郭線で
陰影豊かに、音像を描き切る。
油絵調と言えば外れないが、そんな単純な言葉で言い尽くせるほど、
シンプルな中域ではない。
豊潤なコーヒーをゆったりと口に含むような、
僅かに苦みばしった香りが聴感から想起されるのは何故だ。
思い入れや感傷を意図的に遠ざけて聞けば、
これはニュートラルでアナログレコード的マッチした滑らかさを持つ
ごく普通の真空管パワーアンプのサウンドかもしれない。
しかし、その音に没入すれば、
そんな在り来たりな情緒では終始していないことに気づくはず。
どんな音楽を演らせても
味や香りのイメージが想起されて、リスナーを更に一段深い音のニュアンスにいざなう。
このような感覚は他のアンプではなかなか得がたい。

低域はタイトで良く弾む。
ディープに伸びきって、
大スケールのサウンドステージを演出するのではないけれど、
ウォーキングベースの楽しさを堪能するなら、当然、この音調は歓迎されるべきだ。

このアンプの得意なジャンルは
クラシック全般、ジャズ全般、そして昔のポップスあたりだろうか。
ビートルズやプレスリー、フランクシナトラなどが合いそうだ。
個人的な印象では小奇麗で線の細い音楽よりは、
多少ガサツでも賑やかで楽しい音楽、音楽のスケールの大きさで押し出す音楽よりは、
音そのものの動きの闊達さが生む快感が売りの音楽が似合うように思った。
モノラルパワーというとチャンネルセパレーションの良さとパワーの余剰感から来る
圧倒的なスケールと音の落ち着きが思い浮かぶが、
そういうハイパワーモノラルアンプのありきたりの図式の中に
小型のパワーアンプの持つまとまりの良さや、
小回りの良さをも十分に取り入れたところは、
ATM3011のすぐに分かる美点である。
しかし、それだけではないだろう。
ATM3011のサウンドの裏側には、表面的な落ち着きとはウラハラの、
高揚し、勝ち誇るウキウキした感じもあると思う。
そうあるべき時には、
時にほがらかに、時に高らかに、
オーナーのためにオーディオの凱歌を歌うことが、
このアンプの隠された使命かもしれない。


Summary

Air tightの製品全般にそうだが、
ATM3011のサウンドは、
やはり、アナログレコードの音調に寄り添う面が強いサウンドと思う。
さらに言えば、
現代のハイエンドなアナログオーディオの先鋭的な部分というよりは
むしろトラディショナルな、
クラシックなアナログ再生の王道への指向性が強いサウンドであることは
言っておくべきだと思う。
このような方向性でオーディオを極めていきたいと思われる方にとっては、
Air tightのリファレンスクラスのアンプは恐らく最終到達点と定めてよい機材と思う。
現代のスッキリ系のソリッドステートアンプとは一味違う音調であるから、
現用のパワーアンプは売らずに、
音楽に合わせて、気分にあわせてパワーアンプを切り替えるつもりで、
ATM3011を導入するのもいいなと思って、今日もカタログを眺めている。

# by pansakuu | 2012-02-01 22:55 | オーディオ機器

万策堂のオーディオインプレッション



At the begining

万策堂はオーディオに関するレビューとエッセイを書いています。

主にハイエンド スピーカーオーディオと
ハイエンド ヘッドホンオーディオについて、
私が自分で実際に聞いてみて、素晴らしいと感じた機器、
多くのオーディオファイルに是非聞いてもらいたいと思った製品、
あるいは優れた能力を持つにも関わらずレビュー等の情報が少ない機材について、
それらの外観や操作感、そして音の、良い点も気になる点も
できるだけ整理して、詳しく書いています。
このような音響機器のレビューは「インプレッション」として掲載します。
また、折にふれてオーディオに関するエッセイ的な文章も書いていきます。
これは様々な文体を駆使しつつ、
オーディオの哲学的側面にタッチしながら書き進めて行きます。

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くれぐれも真剣にお考えにならぬよう。
また、このブログの文章の引用、
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万策堂は反応しませんので。

それでは、
上奉書屋のリニューアルである万策堂のレビューをどうぞ。
# by pansakuu | 2012-02-01 12:32
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