2011年12月27日
国土交通省は26日、整備新幹線の未着工3区間(北海道、北陸、九州の各新幹線)について、沿線自治体やJRの同意、収支採算性の確認などの条件が整い次第、着工を認めることを決めた。早ければ今年度内に認可し、来年度中に建設が始まる。
新たに着工認可するのは北海道新幹線の新函館―札幌間(211キロ)、北陸新幹線の金沢―敦賀間(113キロ)、九州新幹線の諫早―長崎間(21キロ)。並行して走る在来線のJRからの経営分離については、沿線自治体からほぼ同意がとれている。
財源は国の公共事業費やJRからの貸付料、地方の負担でまかなう。だが、お金に限りがあることから、従来10年間としていた工事期間を、北海道は24年間、北陸は14年間に延ばす。九州はすでに着工した武雄温泉―諫早間もあわせて10年間とする。開業時期は、北海道は2035年度、北陸は25年度、九州は22年度の見通し。
工事期間が延びたことで資材価格の上昇などが加わり、2兆7500億円としていた総事業費は3兆100億円に増える。
北陸新幹線の延伸で東京―福井間は2時間40分に。ルート未定のままの敦賀―大阪間については、北海道新幹線が開業する見通しの35年度までは「財源の限界」などからつくらない。その後の可否についても不透明なままだ。
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北陸新幹線金沢―敦賀間の新規着工に、政府は26日、ゴーサインを出した。金沢からの延伸を悲願としてきた福井県沿線の自治体首長が歓迎するなか、国債(借金)残高が雪だるま式に膨らむ財政難の政府認可に、地元からは「なぜ、いま」の声も聞かれる。
上京中の西川一誠知事は「長い間の県政の懸案の方向性が出た。日本海側の国土軸の実現に向け優先して事業を進めるべきだ」とコメント。60歳の敦賀市の河瀬一治市長は「完成まで十数年かかるだろうが、杖をついてでも乗りたい」と話した。
一方、新幹線建設を推進してきた民主系県議は喜びつつも「原発の再稼働を認めてほしいという思惑があるのでは」といぶかった。
福井県は全国最多の原子力発電所を抱える。県の政財界が国策に協力する見返りに求めた「地域振興」の目玉プロジェクトが、新幹線だった。
2003年に初当選した西川知事は新幹線の県内延伸を最大の政策課題に掲げた。知事を全面支援する経済界も「低迷が続く景気の起爆剤に」と後押しした。14年度の金沢開業で広がる経済格差への危機感もあった。
ナトリウム漏れ事故で停止中の高速増殖原型炉「もんじゅ」(敦賀市)の再開交渉で、西川知事は昨年春、知事同意を求める国に「新幹線の確約」を求めた。同年末に「財源などの条件を満たしていない」と一蹴されると、「約束が実行されないなら国策への協力を見直す」と反発した。
東京電力福島第一原発の事故後は、原発再稼働の見返りに着工を求めることは控えた。それに代えて、災害で東海道新幹線が不通になった場合の北陸新幹線の代替機能を挙げ、着工の必要性を強調していた。
しかし、知事の有力支援者である福井商工会議所の川田達男会頭は6月、原発再稼働の協力を求め福井を訪れた資源エネルギー庁の細野哲弘長官(当時)に「協力する代わりに新幹線の着工認可がほしい」と要求。細野長官は「これだけは無理」と答え、物別れに終わっていた。
県内の商業炉13基は来年2月に全炉が停止する。関西電力の森詳介会長が会長を務める関西経済連合会も国に対し北陸新幹線の敦賀延伸をたびたび要望。7月に県内で開かれた「県北陸新幹線建設促進同盟会」の総会に初参加し、協力ぶりを強調していた。
労組や共産県議らからなり、県内延伸に反対する「北陸新幹線福井延伸と在来線を考える会」の松原信也代表世話人は「福島の事故が起きたいま、県民の安全と新幹線を取引材料にしてはならない」と批判する。(足立耕作)