ベルトスクロールアクションの時代、というものが多分あったと思う。
例えば、ファイナルファイト。例えば、ゴールデンアックス。
斜め上から見下ろした、奥行きのあるフィールド上でキャラクターを戦わせる、そんなアクションゲームがベルトスクロールアクションである。
固定画面型アクションゲームの姿を見かけなくなり始めてから、少し後。ストIIが世に出て、格闘ゲームの潮流が激流となってゲーセンを多い尽くす、少し前。
アクションゲームの主役が完全に「格ゲー」になる、少し前。いや、格ゲーが主役になってからも、少なくとも1993年くらいまでは、「格ゲー」に並んでベルトスクロールアクションがゲーセンの主役だった時代があった筈だ。ベルトスクロールアクションの筐体の前に行列が出来る時代があった筈だ。
ベルトスクロールアクションの時代だった。
「ベルトスクロールアクションの時代」の覇者は、果たして誰だったのだろう?コナミも、セガも、SNKも、アイレムも、それぞれ名作と呼ぶに値するベルトスクロールアクションを送り出しているが、公平に考えれば、やはりカプコンだったのだろうと思う。ファイナルファイトを、キャプテンコマンドーを、天地を喰らう2を、パニッシャーを、そしてエイリアンVSプレデターを擁する、その存在感は確かに圧倒的だ。タイトー?ルナークの悪口はやめろ。
ところで、「ベルトスクロールアクションの時代」をそもそも切り開いたのは、テクノスジャパンというメーカーだった。
「熱血硬派くにおくん」と「ダブルドラゴン」で素晴らしいアクションゲームをゲーセンに届けてくれたテクノスジャパンだが、ある時期から急激に輝きを失ってしまった、という感は正直否めない。あれだけのゲームを作れたテクノスジャパンというメーカーが、バブルの波に揉まれて失速してしまったという事実は、個人的にも痛切の至りだ。
ただ、少なくともファミコンというフィールドにおいては、「ベルトスクロールの時代」は最初から最後までテクノスジャパンの独壇場だったのではないか、と、私はそう思っている訳である。
「ダウンタウンスペシャル くにおくんの時代劇だよ全員集合」。ベルトスクロールアクション。1991年7月26日、テクノスジャパンよりファミコン版が発売。文字通り「時代劇」の舞台において、ダウンタウンのキャラクター達が大暴れをする、ファミコン後期の名作である。
ダウンタウンシリーズの集大成、といっていいだろう。熱血行進曲における「動かすだけで面白い」という素晴らしい操作感と、ダウンタウンシリーズ特有の「ごちゃごちゃしたにぎやかさ」とでもいうべき感覚が融合した力作であり、発売当初から小中学生を中心とするファミっこ達に高い人気を博していたと思う。多少のバグや説明不足など、荒削りな部分もあったとはいえ、様々な小ネタや素晴らしい音楽まで含めて、総合的な完成度はベルトスクロールアクション全体を見渡しても低い部類ではない。
参考リンクを挙げておく。
ゲームの沿革は、例によってWikipediaに詳しい。
Wikipedia:くにおくんの時代劇だよ全員集合
こちらのページでは、主要キャラの画像を見ることが出来る。錚々たる面子である。
くにおくんの時代劇だよ 全員集合 主要キャラ
さて、ゲームの話をしよう。
・開始三分で黒幕が誰なのか分かりまくる件。
その黒幕バレバレっぷりはポートピア連続殺人事件のそれに匹敵する。いやまあ、お定まりのキャラがお定まりの役どころであるが故の安心感というのは勿論あるのですが。
ゲームとしては、時代劇だよ全員集合は、「ダウンタウン熱血物語の舞台を時代劇にしてみました」という一言で四割程は説明出来ると思う。
舞台は江戸時代。主人公は、くにお扮する渡世人「くに政」。ストーリーの主軸はいわゆる任侠もので、豪田が扮する文蔵親分への恩返しの為、さらわれた文蔵親分の娘「お琴」を助け出そうと日本中を奔走する。
ダウンタウンの特徴である、「雑魚をたくさん倒していくとその内中ボスが出て来て一区切り」というシステムには、「時代劇ベースの任侠もの」という舞台は最適だったというべきだろう。あちらこちらのマップをうろついていると、湧いて出てくる敵対組の子分達。それらをなぎ倒すと現れる親分格。その面子も、西村が扮する「権作」であるとか、小林の扮する「平七」であるとか、五代の扮する「弥五郎」であるとか、今までのダウンタウンシリーズを十全に生かし切った、キャラの立った面々ばかりである。
戦いの末に敵が味方になる展開あり、逆に味方が裏切る展開あり、一騎打ちありどんでん返しあり、その展開の多彩さとケレン味は、時代劇という舞台を100%利用しまくったものであり、ダウンタウン熱血物語のボリュームすら遥かに上回っている。「全員集合」の看板に偽りなしというべきだろう。(そして何故か忘れられている木下)
熱血物語を踏襲した、セリフの表示を主軸にしたストーリー展開も実に味のあるものばかりなのだが、ただなんで「くに政の最初の相棒」という重要なキャラクターであるつる松が、当時は登場すらしていなかった園川(後にEXに出てくる筈)などというマイナーキャラなのか、実は未だにいまいち分からないのだが、どなたかご存知ですか。私、つる松が何で終盤敵になって出てきたのかも実はいまいち分かってないんですが。あれは何なの?結局重吉のしわざなの?
・つ、つよすぎる…(注:ちょむずの甚六が)
アクションゲームとしての時代劇の特徴は、
・ジャンプ、ダッシュと絡めた多彩なアクション
・わらわらと群がってくる雑魚敵と、それを〆るボス敵
・気力ゲージがある限りは体力ゲージがなくなってもなんとかなる体力システム
・お金を使って入手する様々なひっさつわざやアイテム
・日本各地をモチーフにしたギミック山盛りなマップ
・自分で「どのような割合で成長させるか」をセッティング出来る各種ステータス
・いつでも変更出来る難易度システム
・何度倒しても復活しまくるぎんぱち一家
・にとろあたっくが強くはないが相当ウザイ、望月扮する「韋駄天の金助」
・熱血行進曲のトラウマを再現する弥五郎のどすすぺしゃる
・ちょむずにすると暴力的に強い、鬼塚扮する甚六親分
などの諸要素であらわすことが出来ると思う。
とかく、プレイヤーがあやつるキャラクターがどれもこれもさくさくと動きまくり、ダッシュジャンプアッパーとか武器投げとか桶ハメとか、地形と絡んで熱血行進曲以上に出来ることが増えている。日本各地を縦横無尽、戦いまくりながら転戦を続ける爽快感は、並大抵のものではない。
どれもこれも作りこみ具合が半端ではなく、それでいて全体としてみれば破綻していない。この「ゲームの広さ」は、まさしく当時、テクノスジャパンだからこそなし得た建て付けだったのだろう、と私は思う。
ただ、流石にここまでつめこまれた要素が多すぎると、細かいところではほころびも出てくるのか、所々にアラもあるのは唯一残念なところだ。全体が破綻するほどのものではないとはいえ、かなり大きなバグもあちらこちらに残っている。荒削り、という一言で表現するべきだろうか。
・すけすけのたびも反則過ぎる件。
ところで、「多彩なアイテム・ひっさつわざ」というのも勿論、ダウンタウンシリーズ共通の楽しみの一つだと思う訳だが、時代劇もその路線を更に推し進めており、熱血物語と比べてもアイテム・ひっさつわざ共に大幅に増量されている。
特に、日本各地に隠された「ひみつのみせ」で買えるアイテムはどれもこれもむやみやたらと便利なものばかりで、水流の影響を受けずに動ける「かっぱのきゃはん」や体力が徐々に回復する「まほうのきもの」などもさることながら、日本地図上で自由に移動出来る「まっぷのかーそる」や超絶大ジャンプが出来る「すけすけのたび」などは、あるかないかで別ゲーになりかねない程に便利なものであった。バランスブレイカー直前のアイテムがお金次第で買える、というのも時代劇ならではの味というものだったろう。
一方、ひっさつわざも熱血行進曲以上に多彩になっており、ダウン攻撃となるまっはきうきうやまっはふみふみ、にんげんぎょらいやじぶんぎょらいは言うに及ばず、やりようによってはやまだのじゅつまで一人のキャラで使えるようになるのは、すばらしい充実っぷりだったといえるだろう。
中でも、ダウン攻撃系の必殺技となる「まっはきうきう」あたりは、「体力がなくなっているところで追撃しまくると気力もさくさく削れてあっさり死ぬ」というこのゲームの体力システムの関係上、使い方次第で兇悪な殲滅力を発揮していた。
ただ、このゲーム全体的に「ガード」が空気な為、はいぱーがーどだけはさっぱり使いどころが分からなかった。あれ、うまく使うと楽になる場面とかあったりするんでしょうか。ダッシュジャンプアッパーで殴り倒した方が早い気がするんですが。
勿論、アイテムや必殺技を買いあさっているとお金が幾らあっても足りないわけで、金欠におちいったプレイヤーはお紋の賭場を訪れ、持ち金全部かけた上で「おきゃくさまのまけのようですね」を聞く事になるわけである。ある種の風物詩だと言える。
・音楽の出来がさり気なく物凄い件。
特にえっちゅうのBGM凄い。これサントラ出てないんだろうか。
任天堂やナムコ、カプコンほどにはクローズアップされにくいが、テクノスジャパンのタイトルにも、音楽が素晴らしいゲームはとても多い。中でも、ダウンタウンシリーズ、特に時代劇だよ全員集合のBGMは群を抜いている。
日本各地の民謡をファミコンBGMとしてアレンジしたそのBGMは、ゲームの雰囲気に完全にマッチしていることもさることながら、幾ら聴いていても耳に飽きない素晴らしい「馴染み方」を誇っている。アクションゲームのBGMとしては、ヘタするとロックマンシリーズに比肩するほどの名曲そろいだと思う。
取り敢えず、ニコニコ動画:くにおくんの時代劇だよ全員集合メドレーはアカウントを作っても聴く価値があると断言しておこう。画像はストーリーをなぞっているので、未プレイの方は音オンリー推奨で。
ちなみに、BGMを担当された田崎寿子氏は、真女神転生IIIや剣と魔法と学園モノ。3DなどのBGMも手がけておられるようだ。ご興味おありの方はチェックの程を。
ということで、大概長くなったため、一言でまとめると。「多彩極まるベルトスクロールアクションの歴史の中で、「時代劇だよ全員集合」も、確かに記憶されるべき名作なのである」、と、そのような言葉で本エントリーを集約したいと思う。
次回は多分またタイトルもので。5月には書くつもりでございます。
2012年04月15日
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あと自分の場合「はいぱーがーど」はシビアにプレイする際には必須でした。通常のガードの弱点(発動中硬直、持続時間が長い攻撃や連続攻撃にどうしようもない)がなくせますし、雑魚の縦方向からの接近やダッシュ攻撃のリスクがぐんと減ります。また発動中に敵に触れると一発その場ダウンで即きうきうを狙えるため攻撃の面でも優秀でした。