盲導犬アトム号失踪と黒い署名活動批判 5/5
長崎ライフオブアニマルの代理団体である「盲導犬とより良い暮らしを考える会」(以下「考える会」)を通じて展開している「公益財団法人九州盲導犬協会の事業活動改善および監督・指導を求める署名」の問題点について一応のまとめを行っておきます。先に、私が考える問題点を列挙すれば、それは次の4つです。
1、個人への中傷を煽ったことへの批判をかわすことが目的の一つである。
2、九州盲導犬協会との話し合いを県に肩代りさせようという行動である。
3、「盲導犬ユーザを選別して優先貸与すべし」という主張が盛り込まれている。
4、「盲導犬ユーザの適・不適を社会一般が審査すべし」との主張も盛り込まれている。
「考える会」が行っている署名は、第一に動機と目的が不純です。第二に、協会との交渉を県に肩代りさせようというのは方法論としても間違っています。第三に、「盲導犬ユーザを選別して優先貸与すべし」という主張は、視覚障害者の方を選別する危険な考え方です。第四に、「盲導犬ユーザの適・不適を社会一般が審査すべし」という主張に至っては盲導犬ユーザ監視論とも言える暴論です。
1、個人への中傷を煽ったことへの批判をかわすことが目的の署名活動。

>もうすでに、読まれた方も多いでしょうが
>今朝の新聞記事を読み、
>驚くとともに私達が訴えてきた事は記事には一切入っておらず、
>とても残念でしかたがありません。
>・・・・・
>やはり早急に署名開始に向けて動くしかありません。
(2012-02-02 23:03:03 長崎 Life of Animal「新聞記事について(取り急ぎ)」より)
今朝の新聞記事とは、2月22日付けの西日本新聞の記事のことです。「『盲導犬虐待』ネット暴走」という大見出し。「長崎の男性へ中傷次々」、「無責任に根拠なき発信」という小見出しを持つ8段の囲み記事です。記事のテーマは、「ネット社会における情報発信責任」にあることは明らかです。ですから、盲導犬ユーザと九州盲導犬協会に取材をしない噂だけに基づく性急な情報発信を「無責任で根拠なきもの」として指弾しているのは当然だと言えます。
噂は3つの特徴を持っています。
(1)話題にする上で都合のよい部分のみを切り取ったもので経緯とか全体像を伝えていない。
(2)そうして切り取った断片情報を繋いでストーリーを組み立てる時には必ず脚色される。
(3)加えて、自らの尺度のみで下した判断への共感を得ることに力点を置いて伝えようとする。
西日本新聞の取材を受けた際に、長崎ライフオブアニマルがこのような3つの特徴を持っている噂の類を幾ら列挙しても全ては無視された筈です。その幾つかを取り上げれば、「ネット社会における情報発信責任」という記事のテーマのフォーカスがぼやけてしまうからです。西日本新聞の記事は、偏向報道の典型でも何でもありません。当事者への取材を怠った噂に基づいた情報発信が是か非かということを問うているだけです。ただ一言付け加えれば、「協会による盲導犬の貸与停止」という重大判断に触れずに反証ともとれる記事を中心にまとめたことには記者の気負いを感じています。それが、結果的に一部の読者の問題意識を情報発信責任から噂の真偽へとずらしたように思います。しかし、それも「ネットを特定個人への中傷を煽るツールとして利用してはいけない!」との警鐘を鳴らした記事の価値を損なうものではありません。
ともあれ、2月22日付けの西日本新聞の記事は、長崎ライフオブアニマルに「署名開始に向けて動くしかない」と決断させました。特定のユーザへの中傷を煽った行為への批判を回避するという動機がそこに働いたことは間違いのないことです。
2、九州盲導犬協会との話し合いを県に肩代りさせる行動。
>「監督」は、
>公益法人の事業の適正な運営を確保するために必要な限度において、
>また、
>公益目的支出計画の履行を確保するために必要な範囲内において、
>行うものである。
福岡県が九州盲導犬協会に対して行う監督とは、このようなものです。「必要な限度において」、「必要な範囲内において」というのは公益法人の自主的・自律的運営の原則を踏まえたものです。
>協会は、およそ公益財団法人とは思えないような対応をとっています。
>また、電子メールによる「お問い合わせ」に対し、
>電話での対応をとるため、
>相談した側としても当協会の回答内容について不信感を持ってしまいます。
(「公益財団法人九州盲導犬協会の事業活動改善、および監督・指導を求める署名」より)
長崎ライフオブアニマルと九州盲導犬協会との話し合いが、どのようなものであったかは知る由もありません。ただ、言えることは、その過程で不信感を抱いたとしても話し合いを中断して県に訴えるという行動は、話し合い当事者の信義に背くものです。「県は監督機関ではあるが仲裁機関ではない」というのが私の考えです。
ネットという特別な場に特定個人を晒して間接的にバッシングという目的を達成しようとした過去。そして、今回の(自らが直接に対決するのではなくて)県という監督機関をして盲導犬協会を叩いてもらおうという署名活動。「タイマン世代」としては、かなりの違和感を抱かざるをえません。
3、「盲導犬ユーザを選別して優先貸与すべし」という誤まった主張。
>限られた資源である盲導犬を、
>貸与条件を充たさない、
>またはその可能性が高いユーザーに貸与しないことが、
>視覚障害者の福祉の増進に不可欠な要素といえます。
>貸与条件、適格性を有するユーザーに優先して盲導犬が貸与されるべきです。
(「公益財団法人九州盲導犬協会の事業活動改善、および監督・指導を求める署名」より)
これは、彼らの署名の主要な要望事項の一つです。
そもそも盲導犬の貸与条件は、一定の基準を満たせば等しく資格を有するハードル条項と言えます。それは、「18歳以上」という機械的運用条項とケース・バイ・ケースで全体の兼ね合いを考えて適用する弾力的運用条項とに大別されます。盲導犬希望者のパーソナリティや住環境は、後者の弾力的運用条項です。「盲導犬ユーザを選別して優先貸与すべし」との主張は、この弾力的運用条項を盲導犬希望者を入口で審査する基準へと変質させるものです。それを監督官庁に迫るのは、行政による不当不法な介入と管理を求める要望そのものです。それは、公益法人の自主的・自立的運営の原則を踏みにじるもので盲導犬協会の歴史と経験を否定するものです。運用次第では視覚障害者のニーズと可能性を否定する危険な方式を行政に促していると言えます。
4、「盲導犬ユーザの適・不適を社会一般が審査すべし」という誤まった主張。
>不適切なユーザに貸与されていないかを
>社会一般に審査してもらうために
>ユーザによる盲導犬の不適切な管理、虐待が問題となった場合には
>協会が行った調査、判断、その後の処理結果等を
>(随時報告書等の書面で)公表すべきです。
>盲導犬に限らず、動物に対する不適切な管理、虐待は、
>相性の問題に起因するというより、
>動物愛護の精神と責任感の欠如という資質の問題によるところが大きいです。
>・・・・・
>改善の見込は皆無ですので
>即刻の貸与停止が必要です。
(「公益財団法人九州盲導犬協会の事業活動改善、および監督・指導を求める署名」より)
「不適切なユーザに貸与されていないかを社会一般が審査するのは当然のこと!」との主張の根拠は、都道府県による補助金の支出にあります。盲導犬ユーザの方への補助金の支給は、あくまでも生存権保障という憲法理念の実現の一環に過ぎません。決して、盲導犬ユーザを社会で監視する為ではありません
盲導犬ユーザの不適切行為を盲導犬協会に通報するのは公益通報であり、盲導犬協会の活動を支える柱の一つです。そのような公益通報者に対して、調査結果を丁寧に説明することは当然のことです。しかし、それをもって「随時に調査の全てを公開すべし」と結論づけるのは適当ではありません。盲導犬ユーザの不適切行為の調査で出た結論の最終的な妥当性は、その後の協会のサポート活動を通じて実践的に検証されていきます。「改善の見込みは皆無」と決めつけて、随時に全面公開するというのは余りにも行き過ぎています。こういう見方と考え方を突き詰めていけば、その先にあるのは憲法の生存権条項をも否定する盲導犬ユーザ監視論と言えます。
5、結び。
それにしても不思議なことは、長崎ライフオブアニマルと九州盲導犬協会との話し合いはどうなったのでしょうか?署名活動でもって中断したということでしょうか?仮に、西日本新聞の記事に一喜一憂することなく粘り強く話し合いを継続していたら・・・。そうしていたら、もっと展開は違ったのではないでしょうか?「盲導犬アトム号の発見と保護とを優先しましょう」で意見が一致し捜索活動が優先される道も拓けたのではないでしょうか?そんな気がします。
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