相対論の考え方[連載]1
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この連載はあもん様やその他の皆様と私とがNIFTYの物理フォーラムの相対論での
コメントのやりとりをここに再掲したものです。ただし再掲については関係者の
了解を得ていません。関係者の皆様、お許しください。また加筆、訂正しました。
あもん様の発言から始まりました。
相対論の考え方[連載](970/1239)
唐突ですが、極めて簡潔に、特殊相対性理論の "啓蒙" を行ってみたいと思います。
連載は5回程度を予定していて、中学で習う数学をなんとなく覚えていれば、読め
る程度にしたいと思っています。歴史的背景、動機付け、応用にはほとんど触れま
せん。相対論とはなんたるか、ということに話を絞ります。
まずは、時空の概念から始めましょう。
太郎君が家を出発し、真っ直ぐな道を歩き学校に向かいましたが、途中で忘れ物に
気づき、家まで引き返しました。忘れ物に気づいたのは家から 100m の地点で、ま
た、家に戻ったのは出発してから3分後のことでした。
この場合、時空図(x-tグラフ)は次のように描かれます。
t(時間)
| [図1] A 太郎君家を出発。
| B 太郎君忘れ物に気づく。
3分 C・. C 太郎君家に戻る。
| '・.
| '・. A,B,C などは一般に「事象(event)」
| .B と呼ばれます。
| .'
| .' 線 A-B-C は太郎君の「世界線」と
| .' 呼ばれます。
|.'
0分 A---------+---- x(距離) "太郎君の家" の世界線はt軸(縦軸)
0m 100m に他なりません。
【問1】線分ABと線分BCを比べると、線分BCの方が、傾きの大きさが小さい
ですが、これはどんなことを意味しているでしょうか?
t
空間が2次元の場合、時空は3次元の図にな | *
ります(図2)。人や粒子の運動は、やはり、 | * ← 世界線
この3次元時空の中の曲線(世界線)として | *
表されます。 | *
|_* ___ y
空間が3次元の場合は、時空は4次元になるの / *
で、もはや絵には書けませんが、在ると想像す / *
ることはできるでしょう(?)。 x / [図2]
さて、時間の単位は、通常、秒(sec)です。一方、距離の単位は、通常、メート
ル(m)です。時空を考える上では、時間と距離の単位を一致させたいので、ここ
では、光の速さ c=3.0×10^8 m/sec を 1 とする単位系を用いることにしまし
ょう。つまり、
c=1 ∴ 3.0×10^8 m/sec=1 ∴ sec=3.0×10^8 m. (1)
要するに、この単位系においては、1秒を(約)3億メートルに換算しなさい、と
いうことです。こうすると、時間も長さも同じ単位で表されるようになり、一方、
速さは単位を持たないことになります。
【問2】c=1 の単位系では、12m/sec はどのような数になりますか? また、
0.2 は通常の単位系で何 m/sec ですか?
時間と距離の単位が同じになったところで、2次元時空の問題に戻りましょう。
図3で、線分OPの長さはどうなるでしょうか? t
:
ピタゴラスの定理から、 t Q P(t,x)
: :
2 2 2 2 2 1/2 : :
OP =t +x ∴ OP=(t +x ) (2) : :
: :
(1/2 乗は平方根のことです) : :
::
と答えれば "まあまあ" です。しかし相対論では、時空 O‥‥・・+‥‥ x
においてはこの式は成り立たない、と考えます。代わり x
に、
[図3]
OP^2 =t^2 −x^2 (3)
が成り立つと考えます。このように長さ(計量構造)が定義された空間は、特に数
学において、「ミンコフスキー空間」と呼ばれます。対して、(2)が成り立つ空間
は、「ユークリッド空間」と呼ばれます。単なる符号の違いですが、慣れるまでは
かなり注意が必要です。結果、OPの長さは、
OP=(t^2 −x^2 )^(1/2) (4)
となります。
長さOPの物理的意味はなんでしょうか?
相対論では、長さOPは、世界線OPにおいて経過する時間、と仮定されます。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
経過時間を τ=OP とおけば、(4)は、τ=(t^2 −x^2 )^(1/2) ですが、世
界線OPが速さ v の運動を表しているとするなら、x=vt なので、
τ=(t^2 −v^2 t^2 )^(1/2) ∴ τ=((1−v^2 )^(1/2))×t (5)
となります。これは「運動する時計が遅れること」 [図4]
を意味します。(図4) t
:
※ 速さが光速度未満ならば、0≦v<1 なので、 Q‥‥‥P
2 1/2 : :
0<(1−v ) ≦1 であることに注意して : :
下さい。 t : : τ(<t)
: :
今は2次元時空で考えましたが、4次元時空なら、 : :
(3)は、 ::
O‥‥‥‥‥ x
OP^2 =t^2 −x^2 −y^2 −z^2 (6)
と拡張されます。ここで、t は事象Pの時間座標、x,
y,z は空間座標です。(6)が、4次元ミンコフスキー t
空間の計量構造となります。(4次元ユークリッド空間 | [図5]
なら、マイナスのところが全てプラスになります。) 4年+
|*
時空は、実はミンコフスキー空間で、時空における長さ | *
はその世界線上の時間を意味する、というのが、相対論 | *
における基本的な仮定なのです。もっと言うと、相対論 | * ←ロケット
では、時間を、時空における長さと定義するわけです。 2年+ * の世界線
| *
【問3】ロケットが地球を出発し、1光年先の星まで行 | *
って戻ってきた。図5はその時空図です。ロケットが地 | *
球に戻ってきたとき、地球における経過時間は4年です |*
が、ロケットの経過時間はどうなっているでしょう? +----+------ x
ただし、加減速は図が示すように瞬時に行われたものと O 1光年
します。
※ 1光年は光が1年かかって進む距離のことです。つまり、1光年=光の速さ×
1年. c=1 の単位系においては、1光年=1年 ということになります。
続きはまた。
==あもん==
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