非日常と衝撃
「祥太くん!!」
教室に入ると、小日向が声をあげた。
嬉しそうに笑いながら、話していた男子や女子を置いて俺に近寄ってくる。
俺はそれを素通りして、自分の席についた。
「祥太くん、大丈夫だった?熱あれからちゃんと下がった?朝ごはん食べた?具合悪くない?」
無視したというのに、小日向は俺にかまってくる。
そりゃあもう、うるさいぐらいに。
言ってることはオカンだし、無視してたら心配そうに顔覗き込んできやがった。
「こっち見んな」
チョップをお見舞いしてやると、小日向は頭を机にぶつけた。
それを手で押さえながも、まだ小日向は話しかけてくる。
今日も小日向はチャイムが鳴るまで、俺に話しかけてきていた。
いつも通りだったその日、いつも通りではないことが昼休みに起きた。
「…ねぇねぇ、えーっと…祥太くん、だっけ?」
女子。それもクラスの中心的な女子。
女子同士でも仲がよく、しかも男子とも喋る。その喋る男子、というのが小日向のような目立つ奴。
だから、こいつもクラスの中では目立つ存在、というわけだ。
まぁ可愛い子だとは思うし、スタイルだっていい方だし、おしゃれだし。しかも性格は明るいし。
人に好かれるタイプであることは間違いない。
俺みたいに無口で平凡眼鏡の奴なんかと違って。
そんな女子(名前は知らない)がいきなり話しかけてきた。
小日向に話しかけられたときとデジャヴなんだが。
「放課後…ここに来てくれない?」
と、差し出されたのは小さな紙切れ。教室の中が一瞬ざわついた。
傍から見れば告白するような、そんな状況。
でも分かる。
コイツはそんな可愛らしい目的じゃないことなんて。
声こそ他のクラスメイトにばれないようにするためか優しいが、俺だけに向けられたその表情は、憎悪や嫉妬にも似たような、そんな感じだ。
「…分かった、」
「ほんと?よろしくね!」
了承の言葉を告げると、その女子はなんともいえない威圧感を俺に与えてから自分の席に帰っていった。
それから放課後、俺は指定された「旧校舎裏」にやって来た。
そこにはあの女子がいて、にっこりと笑っている。
「…で、なんの用」
「あは、告白ー」
「冗談はいらないんだけど」
俺がそう言うと、目の前のそいつは顔を一気に冷たくした。
「萩駕と喋らないでほしいんだけど」
短くそう俺に言うと、そいつは再びにっこりと笑みを顔に貼り付ける。
喋らないでって言われても俺は無視してるし、それは小日向に言ってほしい。
「別に俺喋ってねぇし、それ小日向に言ってくれねぇ?」
俺がそう言うと、ふっと鼻で笑われた。
「嘘つかないでよー。萩駕がアンタなんかにかまってる理由なんて、分かりきってるんだから」
女子は自信ありげにそう言う。
「はぁ?」
もちろん俺に心当たりはない。
あえて言うなら、小日向に俺がルアだってことがバレたってことだけか。
それなら弱みを握ってるのは小日向の方だし、話の流れがおかしくなる。
「とぼけないでよ。
知ってるんでしょ?萩駕に、女装趣味があるって。」
「は」
はあああああああああああ!?
一応外だし、うるさいので叫ぶのは必死に自重しておいた。
しかし興奮は収まらない。
「なんだそれ!?ちょっと詳しく教えてくれ!」
「え、ウソ。知らなかったの?」
取り乱して興奮する俺に、女子はしまった、とでもいうような表情をうかべた。
「……まぁ、ここまで言ったら教えてあげる。
アンタ、"ルア"って知ってる?ネットアイドルらしいんだけど。」
知ってますとも。つか俺だし。
とりあえず頷くと、そいつは話を続ける。
「それ、萩駕なの。」
「はあああああああああああ!?」
今度は自重できずに叫んでしまった。
衝撃の事実が発覚。
いや、事実ではない。嘘だ。
衝撃の嘘が発覚した。
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