熱と看病
朝、いつも通り目覚ましの音で目が覚めた。
なんか、頭がガンガンする。
「……だる」
上半身を起こしてみれば、思った以上にだるい。
試しに額に手を当てれば熱かった。
熱、か。
ある意味都合がいいのかもしれない。
ブログは見たくないし、小日向にも会いたくない。
ブログに熱を出したと復活するときに書けばみんな疑いはしないだろうし、小日向は俺が学校休めば嘘だとは思わないだろう。
とにかく熱を計る為に、ふらつく足でリビングへ向かう。
耳で計るタイプの体温計を手にとり、耳に当ててスイッチを押す。
ピッと音がして確認すれば、38度。結構高い。
親にそれを報告し、俺は学校を休むことになった。
それからどのくらい経っただろう。
部屋で寝ていた俺が目を覚ます。
「…ん」
近くにあるはずの目覚まし時計を手探りで見つけると、午後2時。
「まだつらい?」
「うん…」
と質問に答える。
…あれ、と思った。俺の母親ってこんな声じゃないぞ、って。
これは完璧に男の声。聞き覚えのある。
嫌な予感がするが、確認するために180度寝返りをうった。
そこにいたのは小日向。嫌な予感的中。
「…なんでいんの」
「そりゃ、昨日ルアちゃんコメント返信しなかったから気になってたところに、祥太くんが学校休んだから心配で!」
当たり前のように満面の笑みでそう答える小日向。
本人の意識がない中で部屋に上がりこむのは当たり前じゃないぞ。
いくら俺の親がいいと言っても、そこは遠慮して『起きるまで待ってます』なんていうのが普通だ。
「やっぱり眼鏡ない祥太くんは可愛いねー」
「お前はホモか」
「純粋にルアちゃんに似てるってことだよー。
間違っても祥太くん本人に興奮なんてしないから安心して!」
表情を変えずに、そのままの笑みでペラペラとしゃべる小日向。
さすがの俺も寝るときぐらいは眼鏡を外している。
おかげで今、小日向の顔は若干ぼやけていたり。
「…お前って、なにがしたいわけ」
俺を困らせて。
ふと尋ねると、小日向の顔が少しゆがんだ。
でもそれはすぐにもとの笑顔に戻って、
「だから言ったでしょ?
ルアちゃんを使ったことをしたいって」
「それにしても、文化祭は3ヶ月ぐらい先じゃねーか」
そう、文化祭は3ヵ月後。
こんなに早く俺の正体を言い当てたところで、警戒されるだけだ。
なのに言い当てて、それから俺に付きまとって。
何かほかに理由があるとしか思えない。
「…別になんでもないよ。
ただ、祥太くんがルアだって分かったら、抑えきれなかっただけ。
……それだけ。だから気にしなくていいよ」
声と顔が合っていない。
顔は笑っているのに、声に感情がこもっていない。
これは何かあるのだろう、と思いつつも言わないでおいた。
考えても考えても、頭がふわふわして、もう何も考えられなかったから。
「じゃあね、祥太くん。お大事に」
最後だけはちゃんとした笑顔で、小日向は帰っていった。
向こうで母親が『あらあら、ありがとねー』なんて言ってるのを聞きながら、再度俺は眠りに落ちた。
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