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北朝鮮のミサイル実験失敗は何を引き起こすのか? (1/3)

北朝鮮が長距離弾道ミサイル発射実験に失敗した。今回のミサイル実験にはどのような意味があり、今後どのような懸念が想定されるのか。朝鮮半島問題の専門家である早稲田大学教授の重村智計氏が解説した。

[堀内彰宏,Business Media 誠]

 北朝鮮は4月13日朝、予告していた長距離弾道ミサイルを発射したが、ミサイルは数分後、分離に失敗して、韓国沖の黄海に落下した。

 今回のミサイル実験にはどのような意味があり、今後どのような懸念が想定されるのか。4月13日午後、朝鮮半島問題の専門家で『金正日の正体』などの著作がある早稲田大学教授の重村智計氏が日本外国特派員協会で解説した。

ah_kita1.jpg 朝鮮半島問題の専門家で早稲田大学教授の重村智計氏

北朝鮮の価値観とは

重村 北朝鮮は韓国と同じ儒教の国なのですが、儒教の国にとって重要な価値観が3つあります。1つ目は正統性、2つ目は大義名分、3つ目はメンツです。

 まず、北朝鮮の新しい若い指導者にとって一番不足しているものは正統性です。金正日の息子であるという正統性はあるのですが、業績がないのが一番困った問題になります。その正統性を付けるため、どうしても人工衛星の発射、ミサイルの発射の成功が必要だったわけです。

 また、いろんな行動をする場合に大義名分が必要なのですが、伝統的に李氏朝鮮の時から「外国の勢力に屈しない」ということが一番大きな大義名分となります。今回のミサイル発射、人工衛星発射に対して、米国や韓国、日本が「発射をやめろ」という圧力をかければかけるほど、それに屈することができません。屈しないことが大義名分であるし、正統性を保てることにつながるのです。しかし、失敗してしまったことによって、メンツも崩れたことになります。

 今回の失敗は北朝鮮の新しい指導者にとっては正統性が傷つき、大義名分を失い、体面もなくなるという、非常に危機的な、大変困った状況になることを示しています。

 北朝鮮にとって、今回の失敗をどう説明するかが一番頭の痛いことなのですが、今までは国内向けには「米国帝国主義と韓国が妨害した」と言えば済んだんです。しかし多分今回は、「打ち上げに失敗したので、ほかの国に迷惑がかからないよう自らの技術で爆破した。それは非常に大変な技術なんだ」という説明をせざるをえません。

 今回、予想より早く北朝鮮が失敗を発表した理由は「早く発表しないとうわさがすぐ広がるから」です。なぜうわさが広がるかというと、中国から携帯電話で情報がすぐ入ってくるからです。今、平壌に中国人旅行者や中国人ビジネスマンが何万人と入っていて、中国につながる携帯電話を持っているので、これが情報源になっているのです。

 今回打ち上げた理由は、4月15日に金日成主席の生誕100年祭があるので、このお祝いの打ち上げ花火として成功させるつもりだったということがあります。

 これが失敗してメンツを失うわけですから、次に何が起こるかというと、多分もう始まっていると思うのですが、北朝鮮の指導部が一番責任を押し付けやすいものとして「サボタージュがあった」、あるいは「金正恩の反対勢力が妨害した」というものがあるので、大々的な調査が始まっているのではないでしょうか。

 今後、何が起こるか。国連安保理の非難決議は当然出るでしょうが、その後、国連が新しい制裁を行うか、あるいは米国と韓国が新しい制裁を行うかどうかですね。もし、新しい制裁が出なければ北朝鮮の勝ちということになります。

 なぜかというと、北朝鮮はもちろん打ち上げをやめるつもりはなかったのですが、打ち上げ前に「打ち上げた後に何が起こるか」を当然検討しているはずなんです。「打ち上げるとこういう制裁が起こるかもしれないから覚悟しないといけない」という論議をしているはずなのですが、その新しい制裁がなかったとすると、北朝鮮の軍としては「ミサイル実験や核実験をやっても大丈夫だ」ということで、今度は勝利の感情が生まれるんですね。

 最後になぜ打ち上げに失敗したのか。簡単に言えば、北朝鮮の技術がないからです。今回、北朝鮮が打ち上げたロケットは極めて初期段階の技術に当たりますから。発射直後と一段目の切り離しの時が難しいのですが、切り離しに失敗したか、エンジン部分の設計ミスかどちらかだと思います。

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