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北朝鮮のミサイル実験失敗は何を引き起こすのか? (2/3)

[堀内彰宏,Business Media 誠]

北朝鮮が核実験に踏み切る可能性は

――北朝鮮に関してどのような制裁が考えられますか。

重村 多分、国連では制裁については中国が反対するでしょう。中国が反対する理由は、最初に言いましたように北朝鮮のメンツをつぶしたくないからです。すると、国連が新しい制裁を行うことは難しいのではないでしょうか。今までの制裁に協力していない国に警告するという形での強化が国連でせいぜいできることではないでしょうか。

 実は中国は、国連の安全保障理事会で北朝鮮のために拒否権を使ったことは一度もないんです。理由は非常に簡単で、北朝鮮の味方になって拒否権を行使して中国が悪者になるのは嫌なんです。北朝鮮と同じような“ならず者国家”とみられるのが嫌なんです。

 しかし、中国は外交のゲームとして、「拒否権を使うかもしれない」という脅しはかけます。それを米国と韓国が必要以上に恐れるために、追加の制裁がなかなかできないのが現状です。

 あとは米国や韓国が独自に制裁を強化するやり方しか多分ないだろうと思います。1つ、米国がまだできることとして金融制裁を再開することがあります。「ドル送金を全部認めない」ということを再びするならば、相当大きな影響が出ます。

 日本が新しい制裁を行うのもなかなか難しいのですが、やれるとしたら北朝鮮への送金限度額を少し下げる程度です。やろうと思えばほかにもいろんな手はあるのですが、とりあえず次のことを考えるとそれくらいしかできません。

――今後、核実験を行う可能性は。

重村 北朝鮮が核実験を行う可能性は非常に高いでしょう。

 多分、国連で制裁決議が出て、韓国と米国がもう少し追加した制裁を行うでしょうから、そうするとさきほどの考え方の通り、「外からの圧力に屈しないことを示すために核実験をやる」ということは軍人の中では一番通りやすい理論なんです。

 それに、北朝鮮は指導部も軍部も「核兵器を持てば、北朝鮮は崩壊させられない、崩壊しない」と信じているんですね。(カダフィ政権が核開発を放棄し、その後崩壊した)リビアの教訓から彼らはもう1回それを確認しました。

――日本政府の対応について、どのようにお考えですか。

重村 オーバーリアクションだとお思いになるかもしれません。しかし、逆に考えると、日本の防衛省や自衛隊にとっては、ミサイルや核攻撃からの防衛演習をする絶好のチャンスだったと言えます。

 歴史的に考えていただくと、北朝鮮がミサイル実験や核実験をするたびに、日本の自衛隊の兵力や、兵器、偵察衛星など、みんな強化されました。だから、北朝鮮の軍と日本の自衛隊は協力関係にあると言った方がいい(笑)。実際には何もできないのですが、実験を口実としてなかなかできない演習ができたというのが日本側の収穫でしょう。

――北朝鮮が核実験を行おうとしている証拠はありますか。次の実験はどのようなことが想定されますか。

重村 私は現場に行っていないので何も言えないのですが、偵察衛星のデータをもとに今、報道されているように山を掘っていて、土が出てくるというように、準備をしています。そこにケーブルがつながると、実験を行う準備になってくるのですが、そういう状況からしてやろうとしていることは間違いありません。そして、それもまたゲームの中で1つの脅しにしているのも間違いないです。

 「過去の核実験は必ずしも完全には成功していない」と専門家の間では言われています。そうすると北朝鮮政府はどうしてももう何回か実験したい。それから、すでにプルトニウムの生産はやめて、高濃縮ウランを材料にした原爆を作ろうとしているのですが、その実験をまだやっていないので、どうしてもやりたいというのが北朝鮮の軍の立場だと思います。

 核兵器を小型化する技術は、米国や中国、ロシアの専門家のほとんどが「まだできていない」と言っています。今回の三段式のロケットに最後に載せる人工衛星がわずか100キロだと言っていますから、原爆でもその程度の重さしか載せられないということです。つまり、1トンとか、2トンとか、3トンとか、少し大きめの原爆は載せられません。

 もう1つ、よく指摘されているのは、ミサイルが落ちてくる時に先頭部分はものすごい熱を持つのですが、「その熱に耐えて、原爆がきちんと落ちて爆発するだけの技術はまだ取得していないだろう」というのがロシアや米国の専門家の意見です。

 ついでにお話しすると、信じられないでしょうが、北朝鮮が1年間に使える軍事用の油の量は40万トン、かなり甘くみても50万トンです。これは軍事用としてはまったく意味のない数字となります。

 また去年の北朝鮮の国家予算を今の為替レートで計算すると50億円くらいと、お金がありません。そして、武器輸出や偽タバコ、覚せい剤などの収入を合わせて、国連や米国がかなり甘めに計算して6億ドルくらいと見ていますが、非常に小さな額ですよね。ですから、北朝鮮はミサイル実験や核実験を毎年行う資金がないというのが現実です。

――北朝鮮が核実験を行おうとするのはなぜですか。

重村 100年前に李氏朝鮮が崩壊した時のことを考えていただければと思うのですが、朝鮮半島の国、特に北朝鮮がそうなのですが、外の国から「開国しろ」、あるいは「市場経済にしろ」「改革しろ」と言われると、それに常に反発する価値観を持っています。「外のものは悪で国内のものが正義だ」、漢字で書くと“衛正斥邪”、「正義を守って邪悪を排する」という思想が昔からあります。その言葉を代わって使ったのが主体(チュチェ)思想になるのですが、その伝統的な考えのもとで動いていることをまずご理解ください。

 一般的に考えると、北朝鮮の場合、改革開放して市場経済に移行すれば国が生き残るのは間違いなのですが、そうなると今の政権が滅びるかもしれない、今のポジションを得ている人たちがみな職を失うかもしれないというリアリティがあるわけです。

 「改革開放したり、市場経済に移行すれば崩壊する」というのはフィクションで、実はウソなのですが、それはフィクションではなくて現実だと彼らは考える。なぜ考えるかと言えば、もしそうなると今の体制がなくなって自分がポストを失うことにはリアリティがあるからです。ですから、「国が倒れる」というフィクションを作って、自分たちがポストを失わないようにしているのです。北朝鮮という国家を生きながらえさせるのではなく、北朝鮮の今の体制をどうやって生きながらえさせるか、崩壊しないようにするかという政策を最優先にしているということです

 そのためには核兵器を持つ方がいい、ミサイルを持つ方がいい、という彼らのリアリティが今あるわけで、そういう意味でうまくゲームをしていると言えます。

 このゲームがなぜ成り立つかというと、米国が軍事攻撃をするつもりがないからです。米国が軍事攻撃すると、体制が崩壊するのは彼らはよく分かっています。しかし、軍事攻撃がない限りは核兵器を持ち、ミサイルを持っていれば体制は崩壊しないというのが彼らの判断です。もう少し言葉をかえれば、「なぜ北朝鮮との交渉がうまくいかないか」というのは、米国に代表される西側世界が「北朝鮮にはゲームセオリーが有効だ」と思っているからです。しかし、北朝鮮の外交戦略はゲームセオリーを壊すことなので、交渉が成り立たないのです。

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