色即是空、この世はバーチャルワールドだ
仏教の聖典、般若心経について書かれた本は数多く出ていますが、どの本の説明も観念的で科学技術偏重の時代に生きる現代人には素直に受け入れられません。例えば目の前にご馳走が並んでいて良い匂いが漂い、ナイフで切れば皿の音がし、フォークでさせば手ごたえと重みを感じ、口に運べば暖かさと味と歯ごたえを感じるとき、「色即是空とは目に見えるものは実体のないもの」という意味だよと言われても、「はいそうですか」とはなかなか言えません。しかし、近年の急速な技術の発展は皮肉なことに宗教の言葉の意味を理解しやすくしました。ここでは先端技術や未来技術を例にして色即是空について説明しましょう。
テーマパークや博覧会などに行くと大画面の立体映画が展示されています。これを見ますと、画面の前に映像が飛び出してきて、実際には物がない空間に物があるような感じます。特に、動いたり振動したりする座席に座って乗り物に乗っている画面を見ますと、立体音響の効果もあって、実際に自分が動いているかのように錯覚するような現実感を感じます。
また、人間の頭部の模型の耳の位置に小型マイクロフォンをつけて録音した音をヘッドフォンで聞くと、頭の周りの空間に実際に物があるように感じます。最近、郵政省は人間の五感を伝える技術の将来展望を検討する調査検討会を発足させましたが、視覚、聴覚に加え、触覚、味覚、嗅覚を忠実に再生できるようになれば、再生されたイメージの世界は現実の世界と見分けつかないほどの現実感があるでしょう。例えば、目の前にご馳走が並んでいてそれを食べているイメージがあると実際に食べているように感じてしまうでしょう。
しかし、このような他人の作ったイメージは、自分の思うとおりにストーリーが進行しないのが現実の世界と異なります。この料理は嫌いだから食べないと思ってもイメージの世界では食べてしまいます。他人の作ったイメージの世界ではせいぜい何箇所かでストーリーの展開を選ぶことができるようにするのが精一杯でしょう。
最近、2足で歩行し、踊りまでする人型のロボットが開発されました。また、脚を固定されたロボットでは、オペレーターの上半身の動きと同じ動きをする人型のロボットがすでに博覧会などで活躍しています。将来には無線でオペレーターの動きのとおりに動く2足歩行ロボットも出てくるでしょう。そして、このロボットの両目には超高精細で広い視野のビデオカメラを、両耳にはマイクロフォンを、鼻には嗅覚センサーを、舌には味覚センサーを、全身の表面には圧力センサーや温度センサーを、頭の中には加速度センサーを組み込んでこれらの信号を無線によりオペレーターに伝え、忠実に五感を再生すれば、このロボットはオペレーターの思いのままに動き、ロボットが受ける五感の情報がすべて伝わってくるので、オペレーターはロボットがまるで自分の体のように感じるでしょう。
最近は、手や足を失った人のために神経の電位を検出して思い通りに動く義肢が研究されています。この技術が発展すれば、だれでも体を動かさずにロボットを操り、自分は椅子に座ったままで,自分の代わりに仕事をさせたり、世界中を旅行したり、人間には危険で立ち入れない場所に行くことができるようになります。また、人間ではなく動物や虫のロボットを操縦すれば動物や虫の世界を体験できることでしょう。
ところで、ひどく疲れて電車の中などで眠り込んでしまい、目を覚ましたとき自分がどこにいるのかわからなくなることがあります。また、深酒をしてある時間帯の記憶がないなどという話をよく聞きます。このように深く眠ったり泥酔しているときに、その人の体に、その人とよく似たロボットの操縦装置と五感の再生装置をつければ、その人は気が付いたときにはロボットから送られてくる五感の信号から再生されたヴァーチャルな世界が現実の世界だと思い込んでしまうでしょう。そのとき、その人にとっての現実の世界は実際にはバーチャルな世界なのです。すなわち、色即是空、目に見えるものは実体のないものなのです。
実は私たちが現実の世界と思い込んでいる目の前の世界もこのようなバーチャルの世界ではないかと思われます。目の前の世界が現実の世界だとすると科学では説明のつかない不思議な現象がたくさんあるからです。そのもっとも良い例が超常現象で、超常現象は科学の法則に反するからそんなものは存在しないと言えば簡単ですが、それは科学ではありません。なぜなら、科学の基本法則は経験則であって、すべての現象と矛盾しないことが正しさの根拠になっているからです。基本法則に反するからといって無視してしまうのは科学者のとる立場ではありません。私たちの体が精巧なロボットであって、この世の中がバーチャルな世界だとすれば、いろいろの超常現象は簡単に説明できるのです。
なにも超常現象ばかりではありません。私たちの周りには不思議なことが満ち溢れています。例えば、カナダからメキシコまで旅をする蝶がいますが、蝶の小さな脳で初めての道を数千キロも迷わずに飛んでいけるはずがありません。蝶もテレロボットであり、見えざる存在に操縦されているのだと考えれば説明がつくのです。地上にある多数の生物は進化してでき上がったものだとされていますが、このような複雑きわまる有機体が偶然の積み重なりでできるはずがありません。生物の体は、きわめて高度な科学技術によって作られたロボットにちがいありません。
このロボットも傷みますのでやがて壊れ操縦不能になります。これが死と言われる現象です。このあと、前のロボットの時代の記憶を消してまた別のロボットを使えばまた新たな世界を体験できます。宗教家は輪廻転生を説き、前世の記憶を実際に科学的に確かめた研究もあります。転生は現在の科学では説明できませんが、人間の体がテレロボットだとすれば輪廻転生は合理的に説明できます。よく男性なのに自分は女性だと思っている方がいますが、こういう方は、前に女性のロボットを操縦していてそのときの記憶が消えていないのだと思われます。また、多重人格の方は1つのロボットを入れ替わりに何人もの人が操縦しているのだと考えれば理解できます。
般若心経には五蘊皆空、色即是空と書かれています。五蘊とは五感のこと、色とは目に見えるもののことです。五感は実体のないもの、目に見えるものは実体のないものだと述べているのです。つまり、五感はバーチャルなもの、目に見えるものはバーチャルなものだといっているのです。そして五蘊皆空、すなわち五感で感じている世界はバーチャルな世界だと知れば、一切の苦を克服することができると書いてあるのです。つまり、自分がひどい目にあっていると思ってもそれは自分が操っているロボットがひどい目にあっているのであって、本当の自分はただバーチャルなイメージを体験しているだけなのです。逆に、地位や名誉を得たといってもそれはロボットがそういう立場になっただけで自分は何も得ていないのです。地位や名誉はなんの価値もないものなのです。実際、世界的な大発見や大発明をしたといってもそんなものはこの世というバーチャルな世界を作られた方々から見ればとるに値しないことなのです。
なぜ、バーチャルリアリティーの技術もなかった昔の宗教家がバーチャルな世界のことを知っているかといえば、この世というバーチャルな世界を作られたきわめて科学技術の進歩した世界からの情報を受け取っていたからです。宗教家ばかりでなく芸術や科学の偉大な天才たちはこのような世界からの情報を受け取って素晴らしい仕事をしているのです。