北朝鮮が「人工衛星」と称する事実上の長距離弾道ミサイルを発射した余韻が冷めやらぬ14日午前、中国人民銀行(中央銀行)が突如、人民元の変動幅拡大を発表した。一見、無関係に思える二つの事象の背後には、人民元を外交カードとして最大限に活用してきた中国のしたたかな戦略が浮かぶ。
変動幅の拡大自体は時間の問題とみられてきた。「人民元制度の改善を続け、上下両方向に変動が大きくなるようにする」。温家宝首相は3月に開いた全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の記者会見で、こう言明していた。「制度の改善」が変動幅の拡大を指すことは衆目の一致するところだった。
■異例の発表タイミング
市場にとって驚きだったのは、発表のタイミングだ。人民銀がこれまで土曜日の午前中に重要な政策変更を表明した例はない。
なぜこの時間を選んだのか。伏線はあった。米財務省は人民銀の発表の直前に、主要貿易相手国の為替政策に関する半年ごとの報告を、期日の4月半ばから当面先送りすると表明。中国を「為替操作国」に認定するかどうかが常に焦点になる同報告の延期は、中国から人民元の変動幅を拡大するとの事前連絡を受けて決めた可能性が高い。
米議会や産業界では、中国が人民元相場を実勢より低く保ち、輸出の拡大を後押ししているとの不満が根強い。今秋に大統領選を控えるオバマ政権は、変動幅の拡大を中国から勝ち取った「戦果」として宣伝するだろう。その意味で、中国はオバマ政権に「貸し」をつくったと言ってもおかしくない。
国連安全保障理事会は13日、北朝鮮によるミサイル発射の強行を「遺憾」とする報道向け談話を発表した。日米は北朝鮮にさらなる圧力をかけるべく、同国との関係が深い中国に影響力を行使するよう求めている。しかし、中国は北朝鮮をいたずらに刺激したくないのが本音だ。
■米の圧力かわす材料に
国連安保理の緊急協議を受け、クリントン米国務長官は同日、中国の楊潔●(ち)外相と電話で協議した。北朝鮮のミサイル問題がテーマだったが、楊外相はこの場で人民元の変動幅拡大も伝えた可能性がある。クリントン長官がミサイル問題で断固とした態度を取るよう楊外相を説得していたとすれば、変動幅拡大は米側の圧力をかわす格好の材料になったに違いない。
「対米関係の核心である人民元政策は温家宝首相でも王岐山副首相でもなく、胡錦濤国家主席の直轄だ」。北京の外交筋は「人民元」の持つ政治的な特殊性を指摘する。だとすれば、変動幅拡大の発表を最終的に決済したのも胡主席だったはずだ。変動幅の拡大が北朝鮮によるミサイル発射の翌日だったことは、偶然の一致と思えない。
(前中国総局、政治部次長 高橋哲史)
クリントン、ミサイル問題、温家宝、北朝鮮、胡錦濤、人民元、王岐山
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