警告
この作品は<R-18>です。
18歳未満の方は
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今回から、璃砂子にとって最大の強敵・ギャルの授業が中心になっていきます。
2006年という設定なのですが、今の子たちって、
当時よりもずっとすごいことになっていますよね(-_-;)
エロフだとか、なんだとか…
第6話 ギャル――早熟な仔悪魔たち
#6 ギャル――早熟な仔悪魔たち
午後八時――
それは私にとって四時間目の授業時間にあたっていた。
正直、いささか気が重い。私はドアを引く手をためらった。
理由はすぐにわかる。
ガチャッ
私は意を決して教室に入った。
「よっ、璃砂子、うっす」
部屋いっぱいに響きわたる歓声――私は思わずため息をついた。
ホワイトボードを囲んで馬鹿騒ぎを演じているのは、
里佳と同じ中三の女の子たち――愛梨と塔子。
キラキラのビーズを散りばめたド派手なミュール、
ジャラジャラと吊り下げたケータイの飾りつきストラップ、
そしてお尻まで見えそうな超ミニのスカートに、
ブランド物のアクセサリ――ギャル。
それにしても――私は思う。
あやたちが中学を卒業し、塾を巣立っていった二年半前――
あの頃が、私にとって一番たのしい時期だった。
この数年で――そう、ほんの二、三年の間に、
子どもたち、特に女の子の質は大きく低下した。
うちの田舎でギャルのはしりが出現し始めたのは、今からおよそ五年前。
やがてこの現象は低年齢化して、
2006年の今では、女子中学生までもが「ギャル」を自称する始末――
それもテレビでよくとりあげられるようなステレオタイプのそれ――
まさかこんな田舎にまでギャルが浸透するなんて、
正直なところ、滑稽でもあった。
けれど、そんな余裕はすぐに吹き飛んだ。
年々増加する中学生ギャル――それは全くのエイリアンだった。
とは言うものの、一口にギャルといってもさまざまで、
外見が同じだからといって、頭の中までみな一様とは限らない。
大部分のギャルは、みんな私によくなついてくれた。
家や学校では問題児としてマークされている子でも、
その素顔は本当にかわいらしかった。
明るくて元気で――一緒にいて楽しくさえあった。
全ての子がそうであったなら、私だってこうまで悩むことはなかったと思う。
けれど、次第に明らかになってゆくギャルの精神構造を前に、
私は、しばしばどう対処していいかわからないケースに直面するようになった。
そんなことは、以前では考えられないことだった。
どこの塾でも、基本的にギャルはご法度。
ギャル行為は、たいていの塾の入会規約でNG。
もちろん、それはうちの塾でも同じ。
騒々しいギャルたちの行動が、これに抵触しないはずがない。
けれど、寛容というのかなんというのか――
うちの塾は、どういった子であれ受け入れてきた。
よその塾を追い出された生徒でも、拒むようなことはしない。
少なくとも、ギャルが、
直接に他の生徒の授業を妨害したりするようなことはないのだし……
(怖がっている生徒はいたけれど)
問題は生徒に対する悪影響というよりは、
むしろ彼女たちを担任する当の講師――つまりは私への影響のほうだった。
他の講師では手に負えないということで、
今ではすっかりギャルのお守りを押しつけられてしまった私。
正直、いささかそれが悩みの種でもあった。
けれど、私にもこれまでにどんな生徒ともうまくやってきたという自負がある。
彼女たちだって同じ人間なのだから、
きっとどこかで通じあえるはず――そう思うことにしている。
「ひゃははははは、ウ、ウケるー」
私の思いも知らず、狂ったように笑い続ける愛梨。
まったく、今日はいったい何の騒ぎなのか――
私は眩暈を抑えながらホワイトボードに目をやった。
「な、なにこれッ?」
その瞬間、私は思わず声をあげた。
そこに描かれていたのは、モジャモジャの曲線とゾウさん――
そう、毛の生えた「男性自身」。
いや、問題はそれじゃない。
その「男性自身」には矢印がしてあって、
そこに赤のマーカーで「塾長」と書かれていた。
そして、吹き出しにはこう書かれていた。
今からリサ子に突撃しまーす
「ちょっ……誰よ、こんなこと書いたのはッ」
私は速攻で「リサ子」の部分を消した。
「別にいーじゃん、璃砂子」愛梨が笑いながら言った。
「だって塾長、絶対に璃砂子のこと狙ってるって。
あの目は絶対にそーだって、ハハ、キモっ、ウケる」
「そんなわけないでしょう?」私は言った。
「とっとと席について。せっかく夏期講習に来ているんだから、
少しは成果を出さないと、あなたたちだって困るでしょ?」
「つーか、ウチら、明日から東京行ってくるしー、
勉強なんかしてねーしー」
だったら何のために高いお金払ってまで塾に来ているのよ――私は心の中で毒づいた。
塔子はケータイのメールに夢中だった。
おっとりとした子で、愛梨の紹介で塾に入った塔子。
もともとは人見知りする性格で、最初に見学にきた時も一言も口をきかず、
不思議な表情で私の様子をうかがっていた。
そういえば、去年の夏に夏期講習で出会った生徒もそうだった。
今にして思えば、入塾したての頃の愛梨にもそんなところがあった。
会話自体が少なく、あるいは、何かを警戒しているようにも見えた。
むしろ私たちは彼女に気を遣っていたくらいだ。
私たちが敵ではないと理解したのだろうか、やがて愛梨は傍若無人にふるまうようになり、
塔子も自分のしたいように行動するようになった。
けれど、騒いだりわめいたりしない分だけ、塔子のほうがかわいげがあった。
塾長も彼女たちには手を焼いていた。
しかし、叱ったところで聞きやしないし、
さほどの悪意もないことがわかってきたので、あまり口うるさく注意するのはやめにした。
しかし、ある父兄は不快さを隠さずにこう言った。
「まったく、しょうがねえな、ああいうのは。
また今は学校の先生たちが生徒たちを叱らないもんだから……
ほら、最近は何かあると、すぐ教育委員会だのなんだでしょ?
ちょっとしたことですぐ親たちが騒ぎ立てるもんだから――」
世間の反応なんてそんなもの――そのことに彼女たちは気づいていない。
前に塾長が愛梨を叱った時、
彼女はこんな棄て台詞を吐いて、私たちを唖然とさせた。
「ていうか、ここに通ってること自体が恥ずかしいから。
こんなとこに通ってるって知られたら超バカにされるし。
それにウチらの中学では、みんなここが塾だってこと知らねーし」
塾長や私がいるのも構わずに、言いたい放題の愛梨――
こいつの常識はどうなっているのだろう?
愛梨にはデリカシーのかけらもない。
遠慮も気遣いも、期待するだけ無駄だった。
確かに、大手に比べればうちの知名度は低い。
本格的な学習塾じゃないと思いこんでいる人だっている。
でも、うちはれっきとした進学塾。
隣町からも評判を聞きつけて通ってくる生徒だっている。
志望校がどこだろうが、それに見合うだけの指導はきちんとできる。
なのに……
いずれにしても、愛梨の言葉は私の胸にグサリと突き刺さった。
しょせん私たちの仕事なんてそんなものなのか?
生徒たちには何も伝わってはいないのか――
そうなのかもしれない。
けっきょく私たちは、嫌な勉強を押しつけるだけの親の手先。
保護者と結託して子供をたきつけ、
それでおまんまにありついている俗悪な受験産業――ほとんど寄生虫。
そう思われても仕方がないのかも知れない。
「おい、塔子」
愛梨の声が私を現実の思考に連れ戻す。
塔子は講師用の回転椅子の上に腰掛けて、塔子と同じ目線でクルクルとまわっていた。
「おまえ、パンツ見えてんぞ。露出狂か、おまえ?」
「ちょっと愛梨、なに見てんだよ、こいつはー」
塔子はあわててスカートの後ろを持ち上げた。
「ねえ、先生、こいつキモいよね? 変態だよね、愛梨って」
「はっ、なに言ってんだ」愛梨は否定せずに言った。
「おめーこそ、男とやる時にうぉーんとか言って喘いでるくせして、超ウケる」
「ちょっと、愛梨、ウチ、違うから。そんなこと言ってないから」
塔子は助けを求めるような眼差しで私の顔を見た。
その無邪気な瞳に、困惑した私の姿が大きく映し出された。
塔子は手足のスラッとした美人で、
その大人びた私服姿はまるで高校生のよう――
いや、私の高校時代を基準にして考えれば、女子大生のようにも見える。
どこかとぼけたようなキャラクターがユニークで、
私は決して彼女のことが嫌いではなかった。
打ち解けてくるうちに、塔子は私に甘えるようになり、
私と塔子はタッグを組んで愛梨の冷やかしに対抗することさえあった。
まるで子供のような塔子だけれど、なにしろ今の子たちは外見からして違う。
旧世代の私たちとは違い、スラリと伸びた四肢はまるで欧米人のように美しい。
彼女たちが私たち大人を馬鹿にする気持ちもわかるような気がする。
そんな塔子は、一つ年上の先輩とつきあっているようだった。
彼女たちの仲がどの程度まで進展しているのか、それはわからない。
塔子は性格的にも穏やかな子だから、きっと男の子たちからも人気があるに違いない。
それに比べると、愛梨には少しひねくれたところがあった。
だから今現在は男がいない。
「それよりも、おめー、璃砂子にあのこと訊いてみたら?」
愛梨は思い出したように言った。
「え、ウチが訊くわけ?」塔子は眉をしかめて愛梨に応えた。
「そんなに訊きたかったら、愛梨が自分で訊けばいいぢゃん」
「ウチは別に関係ないし……
でも、おめーは、先輩を喜ばせるために知っといた方がよくね?」
「いったい何のこと?」
よせばいいのに、私は思わず訊いてしまった。
「璃砂子ってさー」愛梨は表情を変えずに言った。
「男とやる時って、声って出す?」
「えっ……」私は絶句した。
「ええーっ、先生って男とそんなことする人なのー?」
悲鳴にも似た塔子の声。
「わかった、アレだ。うぉーんだろ、うぉーんって言ってみ、璃砂子」
愛梨はおかしそうに笑った。
どうしよう――私はこの会話を止めなくてはと思った。
「でも、あの時にしーんとしてたら、逆におかしくね?
やっぱ、声は出すんぢゃね?」
私の困惑をよそに、臆面もなく自説をぶちあげる愛梨。
「それよりも、先生がそんなことしてたなんて……
なんかウチ、先生って清らかな感じしたから、まぢショックだよ」
椅子の背もたれから身を乗り出して、塔子が愛梨に語りかける。
「でも、璃砂子が男とやるなんて、なんかキモくね? ありえねんぢゃね?」
愛梨は首を左右に振りながら塔子に応えた。
私にだって男性経験はある。
だけど、こんなふうに明け透けにエロを語る悪趣味はない。
私だってセックスに興味がないわけじゃない。
そう、女だって、男の人のように、時にこういう会話で盛り上がる。
特にあの子たちの年頃は、女の子のほうが男の子よりも先に大人になる。
実際、女子のほうがはるかに進んでいるんだから――
けれど、ギャルのエロ話についてゆけるほど、私の精神は鈍感じゃない。
私はいま恋人もいないし、性体験だってそれほどに豊かじゃない。
言っておくけれど、私は決してブサイクなんかじゃない。
子どもの頃から、「かわいい」とか「美人」とか言われてきた、
人並み以上の容姿の持ち主だ。
「璃砂子先生、きれい」
「璃砂子先生って美人」
そう言ってくれる子だって少なくはない。
あやも私にこう言ってくれた。
「りさこ、結婚しないの? りさこくらい美人だったら、
恋人だって選り取りみどりでしょ?」
その言葉を聞いて、私は心の底から嬉しくなった。
けれどそう言われる機会も、年とともに明らかに減った。
まあ、この年になって、今さらかわいいだのなんだのはないだろう。
私はもうすっかりオバサンだ。
同世代あるいは年配の人たちから見れば、どうにか美人の範疇かも知れないけれど、
彼女たちのようなギャルたちからすれば時代遅れのガチガチ女、
一昔前のアイドル顔――どうせその程度の存在なのだ。
「それはそうとして」
私は口撃の矛先をかわすかのように言った。
「深津さんはどうしたのかしら?
今日はお休みみたいだけれど、病気でもしたのかしら」
「ああ、あいつ? なんかまた男のとこぢゃね?
なんか外せない約束があるとか言ってたし」
「約束?」私は半ば呆れながら言った。
「いくら約束があるからって、
友だちと遊ぶのは塾を休む理由にはならないと思うけど……」
「あ? 知るかよ、そんなの。里佳に訊けっての」
いちいち毒づく愛梨。それが彼女のノリだった。
それにしても、ここのところ頻繁に自習に来ていた里佳が、
肝心な授業そのものを休むなんて……いったい何を考えているのだろう?
「里佳、また変な男にひっかかっちゃったんじゃないの?」
涼しげな声でとんでもないことを言い始める塔子。
「里佳ってメールで知り合った人とばっかつきあってんぢゃん?
よくないよね、そういうのばっかって」
「まあ……最初は顔の見える相手とのほうがいいと思うけれど」
「だよね」私の言葉に何度も頷く塔子。
「別にいんぢゃね? そんなの人の勝手だし」
愛梨は興味なさげに爪をいじっていた。
それにしても、この子たちの周辺はどうなっているのだろう?
この塾に通う同じ年頃の生徒たちとはまるで別世界、
そのことに何の違和感もないかのような彼女たち。
一番まともに近いと思われる塔子でさえ、出会い系で夜遊びの相手を物色していると聞き、
私は頭がどうにかなりそうだった。
彼女は年上の社会人にケータイのアドレスを教えていた。
もっとも、男に教えるのは捨てアド――
用がなくなったら、すぐにアド変してさようなら――そのくりかえし。
塔子だけじゃない。そういう生徒は他にもいた。
別に何か悪いことをするわけではない。
ただ、色々と遊びに連れていってもらえるのが楽しいから――
彼女たちはそう言っていた。
そして飽きてしまったら、男からの電話にも出ないし、
メールも返さない――ほとんど「たかり」だ。
どうして?
あんないい子たちが、なぜそんな浮ついた遊びに手を出すのだろう?
彼女たちは、それを悪いとは思っていないし、危ういとも思っていない――
その感覚が信じられなかった。
私はそんな小悪魔たちと向き合っていかなくてはならない。
その中で私の役目を果たしていかなくてはならないのだから――
「あいつらの授業をやらされてる先生って、
ときどき可哀想になるんだよね。ほとんどイジメだからね、アレ」
ある男子生徒は、私に向かってそう言った。
そうかも知れない――私は思わず苦笑した。
だが、もしそうであったとしても、私は彼女たちを憎む気にはなれなかった。
すべては私自身の問題。
私さえしっかりしていれば、きっと彼女たちの役に立つことができる――
そう信じたかった。
第6話 終
ギャルから解放されて一安心の璃砂子。
でも、これから思わぬ逆襲が…。
ギャルの子って、どうして他人の性的コンプレックスを衝いてくるのだろう?
もしかして、本能的なものなのかも知れないですね。
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