キョン子ちゃん43
翌朝。
俺は午前6時にキョン子に叩き起こされた。やれやれ、まだお役御免とは、どうやらいかないようだ。なんなんだ。7時起床じゃないのか?
「早めに準備にかかることにしたの! キョンくん、そこに座りなさい!」
欠伸をしながらベッドに座ると、キョン子は何やらチューブを取り出し、変な臭いのするどろどろした液体を俺の頭にぶちまけ、わしゃわしゃとかき混ぜ始めた。なんだなんだ。
「脱色するわ。キョンくんには変装してもらうから。」
何だって! おいおい、起き抜けにいきなり変装なんてどういう展開だよ。というか、生徒指導に引っかかるじゃないか!
「あとで染め直してあげるからそのへんは安心して。」
言うとキョン子は俺の頭をラップでくるみ、
「しばらくそのまま!」
と、言い残して立ち去った。仕方がないので雑誌などぱらぱらと拾い読みしていたが、なかなか戻ってこない。かなり待たされて、ようやく戻ってきたキョン子の手にはバスタオルがあった。
「シャンプーして薬剤を流してきて! ついでにお風呂に!」
へいへい。
風呂から上がってみると、鏡の中に、ほとんど金髪に近い頭の、それが全然似合っていない、途方にくれたような表情の男子がいた。要するに俺だ。ああ、このままだと間違いなく校門で立番に捕まって生徒指導室へ直行だな。伝説によれば、一昔前なら、頭から墨汁をぶっかけられたそうだが・・・。何にせよ、立番に捕まるところから激しく遠慮したいね。俺は。
で、やれやれと風呂場を出たところで妹と鉢合わせた。
「なーに、キョンくん、その頭。」
妹は思う存分けらけらと笑い転げ、俺はというと、反対にあまり愉快からぬ心境だった。
部屋に戻ると、キョン子は開口一番、
「朝食をとってきて!」
朝早くから急かされ通しで、なんだか落ち着けない気分でトーストなど手早くかじり、俺はそそくさと部屋に戻った。・・・朝食の間中、妹が笑い死にしそうになっていたせいでもある。笑い過ぎで窒息寸前の有り様だった。・・・そんなに変か?
部屋ではキョン子が待ち構えていた。
「仕上げをするわ。座って。目を閉じて。」
へいへい。存分にどうぞ。
塗り付けたり、描いたり、こすりつけたりが暫く続き、
「終わったわ。」
やれやれ、どんな風体にされたことやら。・・・あっ?!
鏡を覗いて俺は驚いた。見知らぬ男が鏡の中から俺を見返している。俺だと気付くのにちょっと時間が要った。大したもんだ! ・・・キョン子、正直、お前は大したもんだ!
「ふふふ、キョンくん、人を見分けるときに注目する特徴というのは実のところそんなに多くないわ。それを悉く外してしまえばいいのよ。わりと簡単なことよ。骨格だけで人を見分ける訓練を受けてるとか、そういう特別な技量のある人が相手だとまた話が変わってくるけどね。さあ、時間もちょうどいいわ。キョコちゃんは先に行ってるから、さあ、あたしたちも行きましょう!」
キョン子は薄い茶色の小さなレンズのサングラスを取り出し、俺に手渡した。
「さあ、これが最後の仕上げ。これをかけてれば、大概気が付かれないわ。」
キョン子よ、お前は変装しないのか?
「あたしは普通に参加するからよ。それを忘れちゃ困るわ!」
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