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キョン子ちゃん44
 ふと気が付くと、なんてことだ、もう8時半じゃないか!

 「まずいぞキョン子。」
 「なにが?」
 「これじゃ間に合わん。」
 「平気よ。車で行くから。」

 こともなげにキョン子は言う。はて、タクシーでも拾うつもりなのかな? 玄関から表へ出ると、はたしてタクシーが待っていた。・・・新川さんの車が。キョン子にせき立てられて乗りこむと、助手席には森さんもいた。後部座席にはすでにキョコが収まっていた。満員のタクシーが発進すると、森さんが俺に声をかけた。

 「おはようございます。・・・ずいぶんとステキなお姿ですね。」

 やっぱり森さんにも変に見えますか。

 「いえ、そういうわけでは。今日はよくいらして下さいました。お二人は集合場所に向かわれますので、あなたは私と行動していただくことになります。よろしくお願いいたしますね。」

 それは、と口を開こうとしたちょうどそのとき、タクシーが停車した。駅のすぐ近くだが、駅前からは見通せない場所である。

 「じゃあキョンくん、あたしたちは行ってくるわね。」
 「んじゃなキョン。のちほど。森さん、よろしくお願いします。」

 言い残して2人は降りていった。車は再び発進し、踏切で線路を横断して駅の反対側に到着した。

 「では、行きましょう。」
 「お気をつけて、行ってらっしゃいませ。」

 森さんに促され、新川さんに見送られて、俺はふだんめったに利用しない改札口のほうに歩いていった。ふいに、森さんが髪をほどいた。ずいぶん印象が変わるもんだ。と、見知らぬ女の人が近づいてきた。すらりと背が高く、そして非常な美人だった。とっさに誰かの変装なのかと思ったが、その可能性はないことにすぐに気付かされた。こんなに背の高い女の人は俺の周囲にいない。どうやら森さんの知人のようだ。驚いたことに、件の女性は俺にこんなふうに声をかけた。

 「あなたがキョンさんですね。お噂はかねがね。」

 そして右手を差し出してきたので、とりあえず握り返した。どこかで会ったことがありましたっけ?

 「いいえ。まあ、話は後にして、今はとりあえず急ぎましょう。時間がありません。」

 森さんが俺に切符を差し出した。電車に乗るのですか?

 「入場券です。」

 これで駅構内を通り抜けて、降車客を装う、と。

 「その通りです。」

 ずいぶん凝ったまねをするんですね。

 「初歩的な手ですけれどもね。用心に越したことはありません。」

 駅構内は乗り換え客でごった返していた。本線のホームから階段を上がってきた乗客がぞろぞろと支線ホームへの階段を降りていく。そういえば競馬が開催中なのか? よく知らんが。

 「これを。」

 森さんが俺の手に何かを押し付けた。競馬新聞だった。

 「顔を隠すときにでも使ってください。」

 やれやれ、金髪にサングラスに競馬新聞か! どこからどう見ても、ろくでもないアンちゃんの一丁あがりだ! 見破られたらさぞかし弁解に苦労するだろうな。・・・特にハルヒには。くわばらくわばら。

 「涼宮さんの目にはなるべくふれないほうがよいでしょう。」

 俺もまったく同感です。

 「さあ、急ぎます。」

 改札を出ていつもの喫茶店へ向かう。おなじみの集合場所には、ハルヒの後ろ姿が見えた。俺たちは早足に店内へと進んだ。



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