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キョン子ちゃん48
 店を出た俺たちは駅前広場をゆっくりと一周した。はて、どこに行く気なのかな? その時、知人女性氏が何気ない感じで言った。

 「尾行がついてますね。」
 「やっぱり。」

 森さんが答える。

 「目標は?」
 「恐らく私でしょう。あなたも彼も彼らは知ってるはず。見慣れない私の正体を究明する気とみえます。」
 「どうします?」
 「二手に別れましょう。奴は必ず私についてきますから、ちょっとまいてから合流します。」

 そう言うと知人氏は急に方向を変えて立ち去った。俺と森さんはなお暫くそのまま歩いていた。不意に森さんが言った。

 「私達もつけられてますね。」

 なんでまた。

 「橘さんのお仲間です。見覚えがあります。顔を知られている人間を尾行につけるとは。あるいは知られていないつもりか・・・。」

 俺や森さんを尾行してどうしようというんでしょう?

 「彼らは自分たちの目論見がいまや崩壊しつつあることに気づいたようです。ちょっと失礼・・・。」

 森さんは携帯を取り出してしばらく操作していたがやがて、

 「ただいま入った情報によると、彼らのいわゆる『組織』上層部から、関係者全員に尾行をつけよとの指示が出たようです。あと、一貫性に欠ける一連の指示が次々と出されています。おや、これは・・・『朝比奈みくる再誘拐準備』と『涼宮ハルヒ襲撃準備』の指示も出ました。・・・たった今出ました。彼らの焦燥感はただならぬものがあるようです。上層部が暴走し始めています。もう長くはもたないでしょう。さあ、忙しくなります。我々の方でも『重大緊急総動員態勢』の指令が入りました。急がねばなりません。とりあえず尾行をまきます。しっかりついてきて下さい!」

 そう言うと森さんは小走りに走りはじめた。歩道橋を駆け上がり、駆け降り、駅構内に飛び込んだ。森さんは俺の手にどこからか取り出した切符を押しつけた。俺たちは改札を通り、西行きの本線ホームに降り、すぐさま素早く反対側の階段を駆け上がった。そして何食わぬ顔を装って支線のホームに降り、発車間際の電車に飛び乗った。電車が動きだすと森さんが言った。

 「うまくまけました。」

 俺はもう心臓バクバクのヘトヘトだった。・・・よかったですね。何はともあれ。森さんはまた携帯を取り出した。

 「『朝比奈みくる再誘拐』は実行指示が出ました。」

 なんだって! なんて奴らだ!!

 「でも安心して下さい。朝比奈みくるさんには指一本触れさせません。」

 是非ともそうあってほしいもんです!

 「大丈夫です。第一、実行部隊は朝比奈さんの所在を確認できていません。自宅にはいません。現在彼女の土地勘があると思われる場所を捜索中のようですが、まあ、空振りでしょうね。」

 というと?

 「とりあえず降りましょう。」

 電車は競馬場の最寄り駅に到着していた。電車から大挙して降りてゆく乗客たちに俺たちも混ざり、改札を出、ただし競馬場には行かないで通りに出た。そこには新川さんの車が待っており、知人氏がすでに後部座席にいて、新聞に目を通していた。

 「お待ちしておりました。」
 「やあ、来ましたね。」

 森さんは助手席に、俺は後部座席に乗りこむ。

 「新川、センターへ。」
 「承知いたしました。」

 森さんの短い指示を受けて、車は走り出した。



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