ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
キョン子ちゃん49
 車はしばらく走りつづけて、とある高層ビルの地下駐車場に滑り込んだ。車を降り、エレベーターに乗り、かなり上層の階まで登る。エレベーターを降りてすぐのところに喫茶店があった。明るい店内にほかに客の姿はない。席につくと森さんは、

 「申し訳ありませんが、報告書をあげないといけませんので、暫く失礼します。ここはわれわれ『機関』の人間専用の喫茶室です。従って、さしあたって話題に制限はありません。」

 と言い、携帯を取り出してメールを打ち出した。俺は知人氏に問う。

 「未来人のかたですか?」
 「なぜ、そう思うのですか?」
 「藤原を怯えさせたところからみて、未来の・・・警察の人ですか?」
 「警察とは違いますけどね。ある種の取り締まりをしているのは確かです。彼は恐らく、この記章を見て、逮捕されると勘違いしたのでしょう。」

 確かに、知人氏の服には風変わりなデザインのバッジがついていた。

 「でも、そういうバッジをつけたままにしておくのは禁則事項なのでは?」
 「厳密にはたしかにその通りですね。しかし、この記章の意味はこの時代の皆さんにはわからないでしょう。ついでに言っておくと、彼の容疑は『脱走』です。」
 「あいつは犯罪者なんですか?!」
 「いいえ。いわば軍人としての脱走者です。帰着指定時間に、所定の集合場所に現れず、その後復命もしていない。だから脱走です。あなたがたのほうでは『脱柵』という言い方もすると聞いていますが。」

 未来人らしい女性はそう言うとコーヒーカップを傾けた。俺は質問を続ける。

 「あなたは朝比奈さん側の人ですか?」
 「まあ、そうですね。」
 「ひょっとして、上司ですか?」
 「いいえ。わたしはいわば同僚にあたります。」
 「朝比奈さんについて、聞いてもらいたいことがあるんですが!」

 俺は思わずかなり大きな声で言い、続いて朝比奈さんの窮状を訴えた。なぜ、なにも知らせないままで、あんな危なっかしい人を一人にしておくのか? 複数の人間を周囲に配置しておいたほうがいいのでは? なぜ、あんなにも不自由な立場に留めておくのか? 俺は思いつく限り訴えた。知人氏は黙って聞いていた。俺が話し終えてとりあえず黙ると、彼女はゆっくりと答えた。

 「いろいろとご存知ですね。ちょっと失礼。・・・『タイムプレーンデストロイデバイス』。・・・ふむ、これが言えるということは、あなたにかかった禁制はかなり弱いようです。ではお話ししましょう。結論から言って、彼女の待遇はあらかじめ決定済みのものです。私が抗弁したからといって、変化することは決してないでしょう。」
 「なぜです!」
 「先ほど私は『いわば同僚』と申し上げました。実際のところ、それは書類上、階級が同じだというだけのことです。仮に、私が自分の上司に今の言葉を伝えたとして、『そうか。わかった。この話は私が預かる。以後気にするな。』とか言われて、まあそれで終わりです。それというのも、彼女の地位は非常に独特で、我々の職場のトップであっても手が出せないのです。ちなみに、私の上司がそのトップですが。彼女は、なんというか、最上層部直属とでもいうべき人間なのです。それに、われわれは彼女に直接接触してはならないと命令されているのです。・・・いま、『われわれ』と言いましたが、複数の人間がこの時代には配置されています。・・・これ以上は言えません。以後このことに関しての質問はお断りします。」



+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。