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キョン子ちゃん52
 意外にも、その場の雰囲気は実に冷静で、どことなく白けたような空気すら感じるほどだった。森さんが携帯を見ながら言う。

 「非常動員解除。全員センターに集合、・・・緊急大会。・・・申し訳ありません。お宅までお送りするつもりでしたが、全体緊急会議が急遽開かれることになりました。会議終了までお待ちいただくか、個別にお帰りいただくかということになります。私も新川も、必ず出席しなければなりませんので・・・。会議終了はいつになるか分かりませんが、」

 いや、大丈夫です。帰れます。

 「・・・それでは、大通りに出るとバス停があります。本数は結構あったと思います。ご不便かけますが。」

 いやいや、気にしないで下さい。お世話になりました。・・・そのとき、俺はふと、知人氏の名前を聞いていないことに思い当たった。あの、失礼ですがお名前は・・・?

 「私ですか。私の名前は・・・『ホシ ノゾミ』と申します。名刺をお渡ししておきましょう。」

 受け取った名刺には『星 臨』とあり、携帯番号が記されていた。

 「朝比奈みくるに関係して何か変わった事がありましたら、どうぞ、いつ何時でもすぐにお知らせ下さい。」

 知人氏は、いや、星さんはつと立ち上がり、俺のそばにやってきて、俺の手を驚くほど強い力で握りしめた。

 「朝比奈みくるのそば近くで、直接彼女の力になってあげられるのは、事実上あなたただ一人です。・・・どうぞ、私たちの朝比奈みくるを、よろしくお願いします。」

 俺がさて、何を言ったものかと思っていると、森さんが、

 「では、こちらへ。」

 森さんは俺たち3人を玄関まで送ってくれ、車を出せないことをしきりに気にしながら、別れを告げた。俺たちも挨拶を返し、表通りに向かった。角を曲がったちょうどそのとき、バスが発車していくのが見えた。やれやれ。・・・時間表によると、次までは30分近くある。仕方ないなと手持ち無沙汰にしていると、不意に、黒塗りの高級車が目の前に止まった。窓が開き、鶴屋さんが顔を出した。

 「やあっ! きょうだい三人お揃いでどうしたい? バスを待ってるようだけど、駅前まででよければ送ってあげるよ!」

 俺たちは素直に好意に甘えさせてもらうことにし、何分か後には駅前に降り立っていた。ありがとうございました。鶴屋さん。

 「あっはっはっ! 気にしなくていいっさ! あの路線は昔から比べると本数はだいぶ減ってるし、遠回りだしね。困ったときはお互い様っさ! ・・・ところで・・・、」

 鶴屋さんは俺の顔を穴があくほどしげしげと見つめた。あ、あの、鶴屋さん?

 「キョン君、だよね?」

 はあ、そうですけど。・・・あの、俺の顔に何かついてますか? するとふいに、大爆笑が始まった。な、なんだなんだ。鶴屋さんはひとしきり笑い転げると、笑いすぎで涙を浮かべながら、

 「キョ、キョン君! その格好、全然似合ってないにょろ!!」

 そうだった! すっかり忘れてた。俺は変装してたんだ。・・・鶴屋さんは朝方の妹のように、思う存分笑い転げ、ようやく落ち着くと言った。

 「キョン君、キョン君はね、いつものスタイルが結局一番似合ってると、お姉さんは思うにょろ。」

 言い残し、鶴屋さんは高級車といっしょに風のように去った。・・・そうか、そんなにも似合ってないか・・・。



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