キョン子ちゃん53
まあそんなことはいい。よく考えると、昼食がまだだった。俺はキョン子とキョコにハンバーガーでも食べていかないか、と誘った。2人は承諾し、俺たちはおなじみのハンバーガーショップに腰を落ち着けた。さて、これからどうなるんだ?
「なにが?」
なにって、・・・ハルヒや佐々木についてさ。あと、橘は?
「ハルちゃんについては心配いらないわ。もう佐々木ちゃんとの対立は、その可能性は、なくなったから。」
どうやってあの2人を、こんなに早く友人関係にできたんだ?
「なに、なんでもないことさ。あたしは2人を引き合わせるにあたって、共通の話題や趣味についてリサーチした。その結果、数学に関して並々ならぬ関心を、共通して持っていることがわかった。だからあたしは、導入として、文芸部会報にハルちゃんが寄稿した理論をあげて、佐々木ちゃんに意見を求めた。佐々木ちゃんは強く興味を惹かれたみたいだった。あとはまさしく、一瀉千里というところ。あっという間に意気投合さ。図書館に行ったのも、そのへんの調べもののためだよ。」
そのリサーチ能力に、俺はまず感心させられることしきりだ。
「まあね。」
「それにしても、橘ちゃんには気の毒なことになっちゃったわね。仕方がないのだけれど。」
半死半生に見えたぞ。精神的に。
「いまや神は消え失せ、教団は消滅。彼女の人生からは、目的が失われてしまった。精神的に半死半生になってしまっても仕方ない状況なのは確かね。」
おい、大丈夫なんだろうな。折れちまったりしないだろうな。
「こういう場合、判断を急ぐべきではないのだけれど、」
キョン子は珍しく前置きし、
「たぶん、大丈夫。彼女はまだ若いから。青春はまだ半ば。今ならまだ、そんなに深い傷にはならないはず。確かに、三年もの時間を結果として空費してしまったけれど、まだ、モラトリアムには残りがある。まだ、十分取り返せる。彼女は彼女で、比較的タフな子だから、時間はかかるかも知れないけれど、立ち直れる。その余地は十分ある。」
・・・お前には珍しく断定を避けるじゃないか。
「さすがに宗教家が神と教団を同時に失うなんて事象はあたしも今まで一度も見たことないもの。どちらか片方というなら、別に珍しくもないけど。」
情報不足、か。未知数ってわけだ。
「とりあえず、現状としては、ひどいショックを受けて落ち込んでいるのは確か。しばらくは放心状態が続く。今は重圧で心がたわんでいる。たわみが解消して立ち直るか、たわんだまま固まってしまうか、折れてしまうか、今の時点で確たる予想をたてることはできない。」
・・・そうか・・・。
「・・・あたしの個人的な予想としては、」
どうなる?
「立ち直るわ。彼女、基本的には楽天家だから。今回のことは確かに手ひどい痛手だけれども、いつまでもくよくよとはしていない・・・あくまでも予想だけど・・・あくまでも・・・。」
希望的観測。だな?
「そうよ。・・・避けられないことだったとはいえ、・・・心が痛むわ。」
・・・。俺はすぐには返事できなかった。こいつはこいつなりに、形としては橘を陥れてしまったことに後悔を覚えているようだった。しかし、キョン子よ、率直に言うが、それは偽善的な態度とは言えまいか。キョン子は俯いていた顔を上げた。泣いていた。
「そうね。確かに。」
キョコはキョン子の涙を黙って拭ってやっていた。・・・言い過ぎたかな。なにかいたたまれない気分になっていたところに、まさしく天使のvoiceが降ってきた。
「あれ? 三人揃ってお食事ですか?」
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