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キョン子ちゃん55
 その後、キョン子とキョコが、会合の首尾についてかいつまんで話した。といっても、ハルヒと佐々木が意気投合、万事順調、今後心配すべき事項は特になしといった、当たり障りのない事項に限ってであったが。今日一日にあったその他のごたごた、俺の会合秘密偵察、朝比奈さん誘拐計画の再試行とその頓挫、「組織」の混乱と崩壊、橘の絶望、なかんずく、星さんのことについては、すべて伏せられた。とりわけ星さんがらみのすべてのことについては、絶対話すわけにはいかない。そんなわけで、朝比奈さんのこの件に関する認識はいささか皮相なものにとどまることになったがそれはやむを得ない。そういうわけで朝比奈さんはすっかり安心し、新しい友誼の締結をわがことのように喜んだ。涼宮さんに新しい友達ができるのはとてもよいことです、と、朝比奈さんは言った。その後はこれといった話は出ず、他愛ないおしゃべりが大半俺に関係なく進み、朝比奈さんとわが姉妹はまことに仲良さげに過ごしていた。食事が終わると朝比奈さんは別れを告げて去り、さて、俺達も帰ろうか、ということになった。その時、俺は少々思うところがあって、いつものSOS団の集合場所に立ち寄る気になった。キョン子も同じ印象を抱いたらしく、キョコも有り得る可能性に反対はしない様子だった。俺達は揃って、そちらに足を向けた。



 果たして、いつもの集合場所には人影があった。花壇の縁に、橘が腰掛けていた。暮れ模様の空の下、夕暮れの薄明かりに照らされて、まったく途方にくれて、精根つきはてた様子で。俺たちが近づいても、まったく気づいた様子もなかった。膨らんだ革製の鞄が傍らにあり、橘はその肩紐を手に握っている。おそらく引きずってきたのだろう、鞄は少し汚れていた。俺たちがそばで立ち止まると、橘は顔を上げ、ゆっくりと俺たちを見た。虚ろな眼差しだった。網膜に俺たちが投影されているのか疑わしくなるくらいだった。橘はよろりと立ち上がり、ゆらゆらと歩きはじめた。手の中から肩紐が滑り落ちた。そのまま去っていこうとする。おおい、橘! 荷物は!

 「そんなものいりません。」

 意外にはっきりした声が返ってきた。

 「あげます。」

 橘は言い残して去った。しかし、そんなわけにもいくまいが。とりあえず預かっておこうと持ち上げようとしてみて驚いた。滅茶苦茶重たいのである。さあどうしよう。とりあえず三人がかりでも持ち歩くのはつらそうだ。引きずっていくほかないな。・・・その前に、これ、中身は何だ? なにかがぎっしり詰まっているのは確かだ。隙間がないくらいに。鞄の口には鍵がかかっている。鍵はない。鞄は意外に頑丈で、破ったり鍵を壊したりするのは無理そうだった。仕方がない。ここは長門を頼るほかないな。で、歩きだそうとすると、人目につかない隅のほうで、もう一人、落ち込んでいる人物を発見した。


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