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キョン子ちゃん56
 それは藤原だった。頭をかかえ、憔悴し、進退窮まったふうで、悩みに悩んでいるようだった。俺の姿を認めると藤原は言った。

 「・・・どうした。バカみたいな頭して。本物のバカみたいだぞ。」

 ・・・お前だって人のことは言えなかろう。

 「む、・・・なるほど、ああ、そうだ。そうだったな。」

 藤原は頭に触りながら言う。俺はおや、と思った。嫌みな調子がなんだかトーンダウンしている感じだ。だいぶ弱ってるようだ。そのとき、誰かがすっと俺の横に立った。振り向くとそれは星さんだった。

 「『藤原君』、今の気分はどう?」

 藤原は力なく答える。

 「離陸直前にエンジンを2ついかれたような気分ですよ。」
 「そう。」
 「僕を逮捕しに来たんですか?」
 「どうかな。」
 「・・・いいですよ、逮捕してください。」
 「それはまたどうして?」
 「・・・僕はもう、なにもやることがないんです。」
 「そう?」

 次の瞬間、思いがけないことが起こった。



 ・・・俺は航空機の操縦席にいる。副操縦士だ。機長、現在の天候は快晴、風向風速は210の3ノット。

 「旅客は定員いっぱい、貨物は満載、燃料は満タン。限界重量ほぼいっぱい。滑走路長さはぎりぎり、滑走路を外れると人口密集地。」

 後ろの航空機関士席からキョコの声がする。

 「ミラクル航空333ヘビー、滑走路22左より離陸を許可します。」

 キョン子管制官が告げる。了解、ミラクル航空333、22左より離陸。離陸前チェックリスト完了。

 「よし。エンジンを離陸出力に。」

 藤原機長がエンジンレバーを操作する。エンジン出力加増、現在85パーセント、まもなく最大出力。現在最大出力です。V1。・・・第3エンジン出力低下! 第4もです! 火災発生!

 「ロテイト! もうV1だ! とりあえず上がる!」

 了解、ロテイト・・・V2・・・ポジティブ・レイト。第3エンジン、第4エンジンが停止しました。ギア・アップします。ギア・アップ。ギア、上がりました。

 「緊急事態を宣言! 戻るぞ!」

 了解、メーデー、メーデー、メーデー、こちらはミラクル航空333、緊急事態発生。第3、第4エンジンが火災により停止、緊急着陸を要請します。

 「ミラクル航空333ヘビー、緊急事態宣言を了解しました。121・5で空港空域管制と交信してください。」

 空港空域管制、こちらはミラクル航空333、第3第4エンジン火災停止、緊急事態を宣言します。緊急着陸を要請します。

 「ミラクル航空333ヘビー、緊急事態宣言を了解しました。可能ならば旋回してヘディング220度で飛行してください。」

 ミラクル333、ヘディング220了解。

 「燃料を投棄!」
 「了解、燃料投棄!」
 「なるべく急いで。」
 「OK。・・・投棄開始。現在投棄中。」
 「ミラクル航空333ヘビー、どの滑走路を要求しますか? 現在もっとも近いのは12右です。」

 ええと、現在燃料投棄中です。投棄が完了しだい、滑走路を要求します。

 「了解。それではお好きな滑走路へどうぞ。ミラクル航空333ヘビー、すべての滑走路において、着陸を許可します。」
 「ご搭乗の皆様に、機長よりお知らせします。・・・」

 藤原機長の緊急放送の間に、エンジンの様子を見に行っていたキョコが戻ってきた。

 「第3第4とも、見たところ大きな故障は見えない。煙も吹いてないし、火がでてるわけでもない。ただ、再起動を何度も試しているけどうんともすんともいわない。再起動はどうやら無理だ。」
 「よし、では第3第4なしでいく。推力が偏るが、この際仕方ない。燃料投棄打ち切れ。降りるぞ。」
 「了解。」
 「12右でいく。管制、こちらミラクル航空333、12右に着陸します。緊急用機材の準備を要請します。機体が停止しだい、緊急脱出します。」
 「ミラクル航空333ヘビー、12右を了解しました。ローカライザーに乗ってください。緊急用機材はすぐに用意します。」

 現在降下中・・・ギア・ダウン、フラップ、5度。・・・まもなく接地・・・接地。フラップ40度、スポイラー展張、第1第2、逆噴射。ブレーキ。・・・停止しました。

 「よし、エンジン消火レバーを引け。」

 引きました。

 「よし、出よう。緊急脱出!」

 俺は操縦席から立ち上がった。どこからか声が聞こえる。

 「事故原因はマルチプル・バードストライク。乗客乗員は全員生還。負傷者なし。貨物損害なし。機体の損傷は最低限。総合的な損失は最小限に抑えられた。」



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