キョン子ちゃん57
気が付くと、俺はもとの駅前にいた。藤原、星さん、俺、キョコ、キョン子、全員がもとの場所にいる。長い時間経ったような気がしたが、暮れていく日の光の具合はさっきと変わりなく、すべてはほんの一瞬に起こったかのようだった。・・・今のは何だったんだ?
「みごとな決断です。『藤原君』。」
「・・・なかなか懐かしいものを見せてくれるじゃないですか。」
藤原が言う。
星さんが答える。
「あなたの果敢な決断と的確な操縦あったらばこそですよ。」
「持ち上げてくれますね。あれは運がよかったんですよ。クルーのみんなも、本当によくやってくれましたし。・・・ああ、それにしても懐かしいな。空を飛ぶのは嫌いじゃない。久しぶりに見せられてみると、パイロットが天職だったような気がしてきますよ。」
「あなたのパイロットとしての能力は決して隅に置けないものだったと聞いていますよ。」
「よして下さい。今更そんな・・・。それより、僕を逮捕しに来たんでしょう? この上は逃げも隠れもしませんよ。お縄を頂戴しますよ。」
「『藤原君』、いい覚悟ですよ。でもね、逮捕命令が来てないんです。だから逮捕はできない。出頭しなさい。逮捕される気になったのなら、そっちを勧めますね。」
「そうですか・・・。」
しばらく、沈黙があった。
「・・・もう少し、考えさせてもらっていいですか?」
「構わないけれど、あんまり時間がないかもしれませんよ。」
「・・・わかってます。でも、もう少し、もう少しだけ・・・。」
「・・・いいですよ。でもね、そろそろ、あの果敢な決断を、人生の選択においても、発揮してみたらどうかとも思いますね。」
藤原はなんとも答えず、立ち上がると、うなだれて、ゆっくり立ち去っていった。星さん、あの、さっきのは何だったんですか?
「航空シミュレーターですよ。さっきのは彼のパイロット時代の、もっとも真価を発揮したフライトの再現です。ただ、再現とはいっても、あくまでシミュレーターですから、判断を誤ると墜落の可能性もあったんですが。彼一人に見せれば事足りるんですが、せっかくお三方がおられますから、ちょっと混ざってもらいました。彼の技量も能力も、決断力も、鈍ってはいないようですね。」
知りもしないことをしたり喋ったりするのは変な感じでした。
「あなた方は『オートシナリオ』設定でしたから。必要なデータはすべてシステムが提供してくれますからね。半径5メートルくらいの中に居れば、シミュレートシステムに巻き込むことができるのですよ。未来式の流儀を、ちょっとだけ、ご披露してみたわけです。何せ頭の中だけで起こっていることですから、例えて言うなら、みんなで同じ夢をみているようなものです。このとおり、ほとんど時間もかかりません。あ、大丈夫ですよ。禁則事項にはかかりません。禁則にかかるなら、そもそもシステムに巻き込めませんからね。」
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