キョン子ちゃん61
「心理的杖にすがる人たちは、実はその杖のことをそんなに信じていない。だから、自己正当化のために、賞賛の度合いが不自然に高く、激しいものになる。そして、すべては正論。ご趣旨まことにごもっとも。でもね、キョンくん、彼ら彼女らは人に向かって話していても、実は独り言を言っているだけ。反論など、はなから聞く耳がない。彼らが聞きたいものはただ一つ。自分の声のこだま。彼らが得るもの、それは限りない自己満足感。善を行っているという確信による快い酩酊。つまり、話している相手に、自分自身への奉仕を強要しているのと同じ。彼ら彼女らの発する独特の鬱陶しさの原因は即ち、それ。奉仕を強要されて愉快からぬ気分になるのはごく当たり前のこと。」
なるほど、解ったよキョン子。どうして橘が鬱陶しく感じるか。自分では説明がつけられなくて困っていたんだ。ありがとうよ。
「どういたしましてキョンくん。じゃ、おやすみ。」
ああ、おやすみ。キョン子は自室に退いた。・・・しかし身も蓋もない見解であることだ。シニカルと言ってもいいくらいだ。あいつは俺と同い年・・・だよな。ここのところ当たり前のようにそばにいるからつい忘れそうになるが・・・キョン子。
お前はいったい、誰だ。
俺はしばらくつらつらと考え事の後、自室のベッドにもぐりこんだ。目がさえているような気がしていたのだが、正真正銘気のせいだったらしい。横になるとほぼ同時に、俺は眠りの中に落ちていた。
翌朝。俺はまたしても目覚ましの鳴る前に叩き起こされた。なんなんだいったい。俺の惰眠を妨げた張本人キョン子は、俺の頭を矯めつ眇めつし、呟いた。
「やっぱり・・・染めむらになっちゃったわ。」
そして何かを俺の頭の何ヶ所かに塗りつけ始めた。なんだそれは。
「白髪染めよ。」
やれやれ。白髪染めのお世話になるのはまだ当分先の話だと思っていたんだがな。
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