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1.理想の太股
 私の名前は、くらふじとうこ。年は十六。
 倉庫の倉、藤の花の藤、透明の透に子供の子。
 出身国は日本、関東生まれの関東育ち。両親の仕事の都合で引っ越した事もあるけれど、変わったことといえば海が遠くなって山が近くなった事ぐらい。どっちの県も関東圏内だ。だから関東育ち。
 家族旅行や修学旅行とかの行事以外で、自ら進んで見知らぬ土地に行くような事はしない。なにしろ、同じ年代の女の子達が憧れを寄せる、都会の一等地に建つ服飾専門店にだって行ったことがない。
 行き交う人々は、私のことなんて目にも留めないだろうし、まして注視することも無いだろう。それでも、人前に出るのは苦手としている。
 自分の容姿に自信が持てないせいもあるかもしれない。

 ファッション雑誌で見る、毒もっていったっけ。なんか感じが違うけれど、まあいいかな。
 その毒もの子達が着るから可愛く見えるのであって、自分で着てみようなんて思い立った事は、まるっきり無い。
 今のお小遣いで買える額でないというのもあるんだけれど。
 それに服の種類がありすぎて、正直どれを着ていいのかが分らない。私としては、礼装とはいかななくても、それに近い感じのブラウスとスカートで常にこざっぱりとしていたい。
 けれどその姿を想像すると、そこにいるモデルは私のはずなのに腑に落ちない。実際に鏡で見たら、きっとお腹を抱えて笑い転げてしまうだろう。
 胸元にある大きなリボンと、すぐ上の襟から頭を出した私。
 笑い転げるには充分な理由が、そこにはある。
 結局のところ、絵柄入りのTシャツにデニムのズボンという、センスの欠片もない服装から脱出できないでいる。
 おしゃれらしくデニムって言ってみるけれど、続く言葉がズボンであれば付け焼刃感は拭えないよね。
 
 ズボン。

 身に染み付いた田舎臭さは、拭ったところで取り除けない。



 ああ、でもね、髪の毛には気をつかっているの、と彼女は言う。
 笑い転げるなんて言うものの、彼女は彼女なりの努力をしている。
 服装に合わせる為に、鎖骨に届くくらいには毛先を伸ばしていた。頭頂部には光の輪というのだろうか、天使の輪とも呼ぶ光の反射。それを出す為に、毎日念入りに櫛で梳かしている。
 本心は茶色に脱色してみたいと思う。だけどそれをやれば、学校で生活指導を受ける様に言いつけられるのは間違いない。髪を痛めつけてやる事でもないかと考え直してからは、脱色や染める事に興味が無くなった。


 透子は小柄な体型で、時としてぽっちゃり系と評されることもある。
 しかし、指数に合わせれば標準的範囲内だ。足も太股って言われるぐらいには、お肉をつけている。あんまり細すぎても、皮と骨ばかりに見えて気持ちが悪い。
 お昼のテレビ番組の大物司会者曰く、腰回りからの曲線美がないと美しい太股とは言えない、らしい。これを聞いた日から、透子は部分やせの運動の手を抜くようにした。
 
 ほどよく太股。

 地味な印象しかない透子の、唯一の目標だ。
 





「だから、こんなに歩いちゃいけない気がするの」
 もう一歩も歩けない、足が棒なんだ、と駄々をこねたい気分だ。聞いてくれる人はいないけれど、そう訴える。
「っていうか、此処はどこですかー!?」
 透子の叫び声は、ただ通り過ぎていった。


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