ヒロインにはなれない
私の学校には目立つ人がいる。
白くなるまで脱色した髪。前髪には蛍光ピンクのメッシュが二本入っていて、制服はパンク風味に改造されている。見た目は奇抜だけど、その人はいつも人の輪の中心にいて、楽しそうに笑ってる。どこにいても目立つから、学校では知らない人はいない。私の一つ上、3年生の原田守先輩。まもっちゃんと呼ばれる彼はいつも人に囲まれている。
私は、人見知りな所があって、友達もそんなにいない。携帯のアドレス帳も空欄が目立つ。だから、原田先輩みたいにいろんな人とすぐに友達になれるのは凄いと思うし、憧れる。
桜が満開になった頃。
私は、日直の仕事を終えて帰ろうと廊下を歩いていた。校庭に満開の桜が見えた。
(そういえば、公園の桜が綺麗だってお母さんが言ってたっけ)
通学路の途中にある公園の桜が綺麗だと朝、お母さんが言っていたのを思い出して、帰り道に寄ろうかと思案する。
ふと、白が視界をかすめた。鮮やかな蛍光ピンクも見えた気がする。
(原田先輩?)
あんな特徴的な色彩を持つ人はこの学校では一人しかいない。階段から足音が上から聞こえる。
うちの学校は四階建てで、今私がいるのは四階だ。先輩が上がっているのは屋上に続いているけど、鍵がかかっていて入れないはずだった。
だけど、ガチャリとドアが開く音がした。そしてドアが閉まる音と静寂。
しばらく茫然と突っ立っていたけど、なんだか、知ってはいけない事を知ってしまった気がして、私は早足で学校を後にした。
公園に寄ろうという考えは見事に頭から消し飛んでいた。
次の日の昼食。
教室で仲のいい恵理子とお弁当を広げていると、中庭に原田先輩がいた。上から見下ろしているから顔は見えないけど、あの特徴的な髪ですぐに分かった。
「何見てるの?」
「原田先輩」
「本当だ。あの人、目立つよね」
「うん…」
昨日の事を話そうかとも思ったけど、止めておいた。あれはもしかしたら原田先輩ではないかもしれないし、無闇に話す事でもないと思ったからだ。
「原田先輩っていつも人に囲まれてるよね」
ぷすりと海老フライをフォークで刺して、恵理子が呟いた。
「疲れないのかな」
「えっ?」
ドキリとした。恵理子を見ると、呑気に海老フライを食べている。
「…なんで、そう思うの?」
「ん?」
きょとんとする恵理子に、「なんで、疲れないのかなって思ったの?」
「なんでって…あの人、いつもニコニコして話を盛り上げてるじゃん。ムードメイカーみたいな。だけど、ずーっとそうしてるのって疲れると思うんだよね。私には無理。」
「…そっか」
訝しむ恵理子に、私は何でもないよと笑った。
その日の夕方。
私は自習室で時間を潰して、校舎に人がいなくなるのを待つ。そして、屋上へ続く階段を上がる。
掃除のされていない階段は埃がたまっていて、少し汚い。やってはいけない事をしているという背徳感に胸がドキドキした。
屋上の扉は簡単に開いた。驚きとやっぱりという確信。初めての屋上は新鮮で、不思議な感じがした。
もぞりと人が動いた気配がして、見上げると給水塔の所に人の足が見えた。
「…屋上は立ち入り禁止ですよ」
答えはない。
「寝てるんですか?」
返事はない。
「風邪ひいちゃいますよ」
やっぱり、返事はない。
少し寂しかったけど、邪魔するのも悪いと思って「屋上に入れるのは誰にも言いませんから」と一応言っておいて私は屋上を後にした。
もしかしたら、先輩は一人になるために屋上に行くのかもしれないと思ったから。
私は沈黙をする事にした。
だって、私が憧れてるのは、皆に囲まれて笑ってる先輩なんだよ。
私の先輩は疲れない。
私の先輩は奇抜な格好でも優しい人。
私の先輩はいつも笑ってる。
先輩は一人になんてなろうとしない。
先輩は先輩でなくてはいけないんだ。
そして今日も先輩は沢山の人に囲まれて楽しそうに笑ってる。
私はヒロインになれなかった。
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