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毎日が詰まらなくて
毎日が色あせていた
無駄に広いベッドから起き上がるとシャワーを浴びる。金色に脱色した髪は痛みすぎていてキューティクルがボロボロだ。
そういえば、出の髪は柔らかそうだった。黒い髪に光が差して白い光沢が出来ていて、俺の髪とは違って手入れがされていた。
出と出会えてから学校に行っても、喧嘩しても、仲間とバカやっても、何をしても気持ちがスッキリしなくなってしまった。
これでは昔と一緒だ。何をしても楽しくなくて、ただ、毎日を楽しそうに笑ってる入を見るのが凄く苛立たしかった。周りの人間全員巻き込んで笑う入は、俺にはどうしても受け付けなかった。それを親友に言った事はなかった。アイツ等は入の事が好きだから、きっと「なぜ好きになれない」と逆に聞かれそうで、そうしたら俺はきっと「入みたいな女が嫌いな事知ってる癖によく言う」と決まった言葉を吐き捨てるんだろうな。
昔、親友のアイツ等と出逢う前に入みたいな女が俺の傍に居た。そいつは、よく笑う奴で、クラスの人気者だった。何事にも一生懸命で、努力を怠らない。掃除や、ウサギの餌やりも積極的にやっていた。そいつの事を俺は、好きだった。でも、そいつは誰にも気のあるようなそぶりを見せていて、何人の男がそいつが自分の事を好きだと勘違いしたかは知れない。
夏の暑い日の放課後、教室に残って、友達と談笑していた俺にそいつはいきなりやってきて、綺麗な顔を歪ませて、俺に言う。
「どうしてみいちゃんを振ったの」
俺の勝手だろう。そう思ったが、言葉を選びながら優しい口調で言う。
「好きじゃないから」
「どうして好きじゃないの?みいちゃんはあんなに篠田君の事が好きなのに!」
「……………は?」
唖然とした。この女は、何を勘違いしているのかはわからないが、俺が誰と付き合おうとアンタには関係ない。それどころか、好かれる努力したのに断るなんておかしいとさえ思っている顔だ。
何がおかしいって、好きになった奴に良い所を見せようとする努力をするのは普通じゃないのか。それともなんだ。そういう努力をした奴は必ず報われなきゃいけないのか。それじゃあ、異性にモテる奴は大変すぎるだろ。
「なんで、自分の気持ちを抑えて付き合わなきゃいけねぇわけ?アンタは努力したからって、誰とでも付き合えるわけ?」
「そ、そういう事、言ってるわけじゃない…!」
「言ってるだろ」
「私はただみいちゃんの事を思って」
「そういうのさぁ、そのみいちゃんって子から見たら迷惑なんじゃないの?」
誰からも好かれる女。その女が怒りにフルフルと震えて涙を堪える。
「篠田君って…最低な、人だったんだね……っ!」
人気者のその女がそう言えば、俺の周りから人が遠ざかるのは当然で、どんなに理不尽で、理屈が通らなくて、矛盾だらけの言葉もその女の口から出る事でその効力は発揮される。
“信頼”とはそういう事なのだろう。と幼いながらにそう思った。
中学を卒業して、その女と離れて今度は入に出会った。関わりたくない人種の女。嫌いで、もっとも嫌悪すべきタイプの女。入の何もかもがダメで、近くに居るだけで吐き気がして、食欲もどんどんなくなって、拒食状態に陥る前に親友の一人が言った。
「お前、転校しろ」
「転校…?」
「あぁ。お前に、入の存在は強すぎる。だから、入と離れる為に転校しろ」
その一言で、適当な高校に編入して、髪を脱色して、バカな仲間とつるんで、楽しくワイワイやっていたら、吐き気が治って、食欲も戻ってきて、順風満帆だった。
なのに、出の存在が俺の心をかき乱す。
授業をサボって、空き教室に居れば思い浮かぶのは出の姿。捻くれていて、純粋で、アホで………ずっとそんな感じで、空き教室で考え事していた。それで、俺が出の事が女として意識している事に気付いた。
「木村」
「…っは、はい!」
「真柴出について調べろ。ついでにこれ」
黒い革地のカバンからデジカメを出して、木村に投げ渡す。
「こ、これは…!」
「出を撮れ」
「…………………………え?」
長い沈黙の後、信じられない事を聞いたと言わんばかりの呆けた顔をする木村にデコピンをお見舞いしてやる。
「いだああああああああ!!!!!!!」
「特に、球技大会、マラソン大会、学校祭は特に念入りに。後、体育と調理実習も欠かせず取れよ。出のジャージ姿に、出のエプロン姿なんて萌えるだろ」
木村が更にどん引きしていたのを知っていて、あえてそれを無視した。
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