文部科学省所管の独立行政法人である宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2012年3月29日、目に見えない放射性物質による汚染状況を可視化できる特殊なカメラを開発しました。宇宙技術を転用し、放射線量が局所的に高いホットスポットを簡単に識別できることから、除染作業の効率化が期待されます。
<出所>北陸電力
放射線を出す能力を「放射能」と言い、この能力を持った物質のことを「放射性物質」と言います。このことを懐中電灯に例えると、光が放射線、懐中電灯が放射性物質、光を出す能力が放射能に該当します。
2014年に打ち上げ予定の次期X(エックス)線天文衛星「ASTRO-H」に搭載し、宇宙空間に降り注ぐ放射線の一種であるγ(ガンマ)線を感知する「半導体コンプトンカメラ」という特殊なカメラを地上用に改良しました。視野角が180度と極めて広く、東京電力が福島第一原子力発電所内で使っている機種を大きく上回ります。また、半導体コンプトンカメラで捉えた画像を、通常のデジタルカメラで撮影した画像と重ね合わせると、放射性物質の分布が一目瞭然で分かり、放射性セシウムから放出される相対的なγ線量の高低を色合い(高い方から赤、黄、青など6色)で表示し、ホットスポットを高い精度で特定でき、放射性物質の種類によって画像上に色分けされる(セシウムが赤色、ナトリウムが青色、バリウムが緑色)など“放射能の見える化”に成功しました。
JAXAは2012年2月、同じ文部科学省所管の独立行政法人である日本原子力研究開発機構(JAEA)等と協力して計画的避難区域になっている福島県相馬郡飯舘村草野地区で実証試験を行い、最大21m離れた場所からγ線を検出しました。また、放射性セシウムが溜まり易い側溝や路面の継ぎ目、山林の周辺等で汚染が深刻な状況であることも確認しました。
世界初となるJAXAの開発は、放射性物質の分布を超広角かつ短時間で把握できるマイルストーン(画期的な出来事)であり、民主党政権の事業仕分けで削減対象となったJAXA、そして宇宙技術が原発事故にも役立つことを立証しました。JAXAは今後、実用化に向けた研究を鋭意進める方針で、これが怪我の功名となり、禍(わざわい)を転じて福と為(な)し、福島県内で本格化する除染作業や福島第一原発の廃炉作業、災害廃棄物である放射性瓦礫の処分作業等に活かされることを希求します。
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前・公益財団法人日本生産性本部主任研究員