人民元:対米ドル相場の変動幅0.5%から1%に拡大
【北京・井出晋平】中国人民銀行(中央銀行)は14日、人民元の対米ドル相場の変動幅を、1日あたり上下0.5%から1%に拡大すると発表した。変動幅の拡大は07年5月以来で、16日から実施する。国際社会から求められている人民元の国際化と自由化に向けた改革の一環。
中国は、輸出に有利になるよう人民元の為替レートを一定の水準で管理している。そのため、人民元の価値が相対的に低く中国製品が「不当に安い」と米国などから批判を受けてきた。変動幅の拡大は長期的には人民元の上昇につながるため、国際的な切り上げ要求を和らげる狙いもあるとみられる。また、人民元による決済も増大しており、国際化に向けて弾みをつける狙いもありそうだ。
中国は、05年から一定の範囲内で為替レートを変動させる「管理フロート制度」を採用。人民銀行が毎日、対米ドルの基準価格を、前日比上下0.5%の範囲で設定している。
◇圧力回避、インフレ抑制へ
常に市場の上昇圧力にさらされている人民元において、1日あたりの変動幅を拡大することは、事実上中国当局が人民元相場の上昇ペースの加速を容認したことに等しい。背景には、11月に大統領選を控える米国が「中国が人民元相場を不当に低く抑え、自国の輸出を支援している」と批判を強めていることがあり、5月に開かれる米中戦略・経済対話を前に、圧力をかわす狙いがあるとみられる。
さらに、国内の政情安定を優先する中国当局にとっては家計に影響の大きいインフレの抑制が喫緊の課題。人民元が上昇すれば輸入品の物価を抑えられることに加え、巨額の人民元売り・ドル買い介入が国内の資金余剰を生んで不動産価格の高騰を招いているとの指摘もあり、人民元上昇は中国当局としても避けられない政策転換だった。
一方、米国は13日に、半年に1度議会に提出する外国為替報告書の公表を「国際会議などの進展状況を評価する」として延期すると発表し、米中対話前の中国側の出方を見守る姿勢を示していた。米国としては今後中国が実際に1日あたりの上昇をどこまで容認するかを注視し、対応を検討するとみられる。【坂井隆之】