ここからは、本編で書くとダラダラしそうで書けなかったおまけになります。
アーチャー達がデート中に出会った人物たちのアレコレについてです。
第七話 おまけ アーチャーの場合
〜慎二の場合〜
「そこにいるのは遠坂じゃないか。なんだよ。衛宮なんかとデートしてるのか?」
休日、大勢の人でにぎわうヴェルデの中。間桐慎二は、向こう側から歩いてくる見覚えのある二人に気がついた。
「衛宮、髪脱色してガングロって、いつの時代の人間だよ。そんな奴と付き合うくらいなら、僕と一緒に遊ぼうぜ」
彼にとってはこれ以上ないというくらいの笑顔で髪をかきあげ、ポーズを決めて話しかける。
「ん〜〜、せっかくのデートなのに普段着じゃやっぱりちょっとアレよね」
凛は、隣のアーチャーが身につけている衣服を上から下まで吟味するように見る。長袖のTシャツにジーンズという、味も素っ気もない普段着。
「それはつまり、着せ替え人形にするという意味か?」
何をされようとしているのか察したらしい。アーチャーは呆れ気味に息を吐き出す。
話すうちに並んで歩く二人は、前方の少年を通り過ぎていく。
「どうせなら、オシャレな店でお茶なんか飲んでもいいし」
その二人の後ろについて、更に話しかける慎二。
「それも楽しそうね。覚悟はいい?」
凛は挑発気味に笑顔を向ける。
「だろう。だから、衛宮なんか放っておいて、デートしようぜ、遠坂」
「ふむ、了解したマスター。キミのことだから何を言ってもやめる気などないのだろう?」
その挑発を、真っ向から受け止めてみせるアーチャー。
「……………………………」
「分かってるじゃない、アーチャー」
ふふふふふと、二人で笑いあう。
「む、む、無視するなーーー!!!!」
慎二はその二人の前に回り込んで、半分涙目で声を上げ自己主張。
「あら、間桐くん、いたの。それじゃあね」
凛は本気で気がつかなかったわ、といった様子でサラリと慎二の言葉を流して軽く手を振りつつ、彼の横を通り過ぎる。
「…………どうせ、僕は空気みたいなもんだよ。影が薄いよ……」
彼女たちが通り過ぎたあと、しゃがんで床にのの字を書いている少年の姿があった。
〜穂群原三人娘の場合〜
「おー、そこに道行くは、遠坂じゃん」
後ろから声をかけられ、振り返ると穂群原三人娘がいた。日に焼けた肌と黒髪の一見少年にも見える少女――蒔寺 楓が、ちぎれんばかりに手を振っている。
「遠坂さんも遊びに来てたんだね。あれ、ところで隣にいるのって?」
ほにゃとした笑顔で安らぎの空間を作る三枝柚紀香。彼女には隠れファンも多い。そのファンが実は英雄だったりすることを彼女自身知らないのは、幸なのか不幸なのかは神のみぞ知るというところ。
「おそらくは、衛宮某ではないのか?」
断言できずに首をかしげるのが、氷室鐘。肩まである艶やかな髪と銀縁の眼鏡が理知的な雰囲気を醸し出しているが、眼鏡の奥の瞳は好奇心で爛々と輝いていたりする。
彼女が凛の隣にいる人物を断定できなかったのは、普段見知った少年と色違いだったからだ。髪の毛は脱色しているというよりも、光に透けるような白銀で、肌も日本人離れした浅黒い色をしている。
彼に浮かぶ表情も、常のお人よしが人格化したようなものというよりも、どこか厭世的で皮肉げである。
「ん〜〜つかさぁ、むしろこの間のレッドの人に似てね?」
「レッドとは、あの子猫を助けた時に正義の味方について一家言を語った御仁か」
「あ〜〜、似てる似てる〜〜」
3人は手がかりもなにもなしに、ほぼ正解とも言える結論にまでたどり着く。
「……何よ、アーチャー。彼女たちに会ったことあるの?」
アレコレ言いあう彼女たちに聞こえないよう、隣のアーチャーに凛は声をかける。
「先日、少しな」
表情を変えずに答えるが、ほんの少しだけイヤそうな雰囲気が滲み出ている。おそらく彼女たちの出会いとやり取りに関して、失敗したというほどのものではないが、何かしら思うところでもあったのだろう。問い詰めてみたい凛ではあったが、それは次の機会に回すことにする。なぜならば……
「ふむ、しかし衛宮某と言われれば、違うとも言い切れんな」
「おっ、そうか、もしかしてコスプレって奴か!?」
「そっか〜〜、衛宮くん、あのお兄さんに憧れてたんだね〜〜」
と次から次へと、3人があながち的外れではないような、それでいてまったくもって見当違いなことを言ってくれるからである。
凛は、隣のアーチャーを横眼で見るが、彼は両腕を組んで我関せずと言った様子。助け船を出す気はサラサラない。むしろ、意趣返しの意図すら感じられる。
「ええっと、……彼は衛宮くんでは、なくて……」
凛は大概の事ならばサラリとやってのける。が、突発的な事態にはもっぱら弱いという弱点も持っている。次から次へと的確であったり、あさっての方向にずれたことを言われ、言い淀んでしまう。
「けど、すっげ~~似てるな」
「うん。衛宮くんにも似てるけど、お兄さんにもよく似ているよね」
「ほう……では、もしや親戚というやつではないか?」
『かしましい』
漢字で書くと姦しい。女三人よれば、やかましいの意。
「あ、ある意味、その正義の味方な人と親戚のような、そうでもないような……」
そんなかしましさに押され、凛が隣を気にしながらなんとか口にする。
隣からは、この状況を非常に面白がっている気配が感じられる。
「親戚かぁ。つことは、あのレッドの兄ちゃんにも連絡取れんのかよ」
「あの御仁とは一度、話をしてみたいと思っていたところだ」
「ネコちゃん元気かなぁ」
穂群原三人娘に囲まれ、返答に苦慮しながら
――――あとで覚えてなさいよ、アーチャー
と心に誓う凛であった。
〜キャスターの場合〜
「ね、アーチャー、あれってもしかして……」
凛は隣のアーチャーの腕を掴み人差し指で、自分の見ている先を指し示す。
「キャスターだな。それがどうした」
アーチャーの方はすでに彼女の存在に気がついていたらしい。驚く様子もなく答える。
「どうした、じゃないわよ。だって、彼女の様子……ほら」
明らかに、周囲を警戒している様子がうかがえる。だが英霊とはいえ基本的にはお姫様な経歴を持つ方である。警戒の仕方が非常に拙い。
キョロキョロと忙しなく周囲を見回し、オドオドと落ち着きなく、コソコソと一軒の店の中に入っていく。
「放っておけばいいだろう。今のキャスターはぬるい幸せに浸っていれば満足な主婦そのものなのだから」
アーチャーはキャスターにひとかけらの興味も抱かない。
「む、ノリが悪いわね。気にならないの? 稀代の魔術師メディアが人から隠れて一体何を買い物しようとしているのか」
「ならんね。どうせ大したものではない」
だから、やめておけと忠告するのだが、彼女の耳には一切聞こえていない。
「行くわよ、アーチャー」
「やれやれ」
普段ならば身長差もあり、力の差もあるためこうまで強引に引きずられることもないのだが、現状が現状。かくてアーチャーは諦観し、凛に引きずられるままキャスターの跡をつけることになった。
「………………失敗した」
顔に手を当て、低い声で悔恨の言葉を口にする凛。
「だから言っただろう。やめておけと」
くっと喉を鳴らして、意地の悪い笑みを浮かべるアーチャー。
「だって、まさか、あのキャスターが、こんなところで、あんなことをしているなんて思ってもみなかったのよ。今見たモノが夢だったという方がまだ信じられるわ」
むしろ、夢であることを願うような言葉。
「そう、なら今すぐに夢の世界へ案内してあげようかしら」
その凛の後ろに立つ女性の影が一つ。
「……遠慮しておくわ。それと、魔力を高めて背後に立つの、やめてもらえないかしら」
固い歯車を無理やり動かすような動作で、凛は振り返る。
そこにいるのは、魔女な奥様。聖杯戦争時のローブではなく、どこにでもいそうな主婦が身につける普段着を着ている。だが、彼女から噴き上がる魔力の渦は、間違いなく神話の時代でも最高峰を謳われる魔女のモノ。
「そう。なら、等価交換よ、魔術師。ここは引き下がってあげるから、今見たモノを他言しないことね」
「了解したわ」
それだけの条件で見逃してもらえるのならば、これほど破格な話はない。凛はコクコクと機械仕掛けの人形のように頷いた。
むしろ、彼女としては記憶から消し去りたい出来事だったのである。
かの魔女メディアが、ゴスロリな服を試着して、世にも幸せそうな笑みを浮かべる姿。それは、まさに魔術師としての凛からみれば『壊れた幻想』とでもいえる代物であった。
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