「そんな注意の仕方じゃ、生徒は聞いてくれませんよ」
「でも中原先生、こいつらはこんな格好で……」
「怒鳴ってるだけじゃ何の解決にもならないです。水沢、前田。少しずつでいいから、ちゃんと直せよ。あまり菊地先生に迷惑かけないようにな」
中原は私たちを交互に見た。菊地は依然ムッとしている。
「分かったら、もう帰っていいぞ」
私たちは返事だけして職員室を出た。美咲は溜め息を漏らしている。
「中原ってうるさそうだけど、意外といいヤツだったね」
美咲の言葉に頷いた。
「まぁ、どうせ直す気はないけどさ」
そうだ。注意されるのはいつものことだから、直す必要もない。
そんなことを考えていると、前から潤也が歩いてきた。
「呼び出し終わった?」
「うん。今日の菊地、いつもより機嫌が悪くてさ。あたしたち、八つ当たりされたみたい」
潤也は「それはお疲れ」と笑った。
「――えっと。お邪魔しちゃ悪いし、あたしは帰るね」
私たちに軽く手を振ると、美咲は足早に廊下を曲がっていった。そんな姿を見たら、何となく美咲を傷付けているような気がした。
「俺たちも帰るか」
潤也の言葉に引き戻され、私は慌てて頷いた。――と、職員室から中原が出てきた。
「あ、中原じゃん」
潤也は親しげに、中原に声をかけている。
「岡本か。最近、真面目に勉強してるみたいだな。四月の学力テストの結果、良かったじゃないか」
「そうなんだよ。俺、成長しただろ」
「でも、まだまだ伸びるぞ。ちゃんと勉強しろよ」
中原は潤也に微笑むと、職員室横の階段を上がっていった。
「潤也、中原と親しいの?」
「一年のとき担任だったんだ。迷惑かけてたから、未だに心配されてんの」
「いいヤツなの? 潤也が教師と親しくするなんて」
「うん。菊池よりよっぽど話せるヤツだよ」
「そうなんだ」
別にそんなの、どうでもいいことだけど。
いつものように学校を出て潤也と歩く。駅のすぐ近くまで来ると、駅近くにあるショッピングセンターの看板が目に入った。
「ねぇ潤也、ちょっとあそこ寄っていい?」
「いいよ。何か買うの?」
「ちょっと見るだけ」
潤也と手を繋ぎながら、ショッピングセンターに足を踏み入れる。向かう先はコスメ関係の売り場だ。でも見たいのは化粧品じゃなくて、ヘアカラー。私は適当に選んだ黒染め用ヘアカラーを手に取った。
「髪の毛、黒くするの? 菊地に怒られたから?」
「違うよ。ただの気紛れ」
「そっか。ま、恵の好きなようにしなよ」
潤也の言葉に頷くと、私は手にした黒染め用ヘアカラーを買った。
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