昔々
ついてない・・まったくついてない、私はイラついている。 まったく昨日気合入れて学校休んで、美容院に行って、さ・ん・ま・ん円もかけて金髪にしてストレートかけてトリートメントもバッチリしたっていうのに・・んーもう愛子さんから頂いたこのバラの刺繍の入ったセーラー服もみんなみんな! 没収された なに?この毛染めメ・メ・メンズ・よ・うナメテンのかコノヤロー 殺す ぜーたいころす
「ねぇねぇ聞いたきいた」
「なに?」
「おケイよおケイ」
二人は生徒指導室のある3階のトイレで歯を磨いていた。ヨウチャンはグジュグジュッとうがいを済ませると、出口から進路指導室を覗いた。
「又やっちゃったらしいよ」
「また?」
目を丸くし ため息をつくと、真紀は左の奥歯を磨きながら鏡越しにヨウチャンの様子を伺った。
「髪の毛染めちゃってまっきんきんなんだって」
ヨウチャンの一言に一瞬吹きそうになり、真紀はうがいをしてヨウチャンの後ろについた。
「で?」
「で」
ヨウチャンは、片目をつぶり進路指導室に指をやった。
「何考えてんだか」
「さぁ」
深刻な真紀に、ヨウチャンは明るく答えた
「色黒に金髪でしょー・・・合わないでしょーフツウ。せめて茶髪くらいにしとけばねぇー・・っあ!ねぇねぇ真紀、ぜったいおケイの事だから眉毛黒だよ、黒、黒」
「うん」
「それにうちらの制服ってさ水色だよ」
「うん」
「おかしいよねー」
「うーん」ヨウチャンは恵子の姿を、あれこれ想像しては笑った。
真紀は、頷いてはいたが内心恵子の処罰、進路指導室で何が起こっているのか気が気ではなかった。しかし自分に何も出来る筈も無く、結局いつも通りヨウチャンの聞き役となった。
ぜったいぶっ殺す 何ではげ・・っていうほどはげてないけど ブタ・・・っていうほど太っちゃいないけど 何でオヤジそうそうオヤジよ、なんでオヤジのいる前で着替えなきゃならんわけ
金とるぞ
金金金!
「田中終わったか」
「っあ」
ジャージに片足を突っ込んだとき、奴は声をかけてきた。
「わるいわるい」
AーもうAーー
「セクハラだ!セクハラ、セクハラ」
大きな叫び声に、ヨウチャンは駆け出し指導室のドアを開けた。
真紀もおろおろと指導室に向かう。
5秒も立たないうちに、野次馬で指導室の前はびっしりと埋め尽くされた。
真紀は廊下に取り付けてあるベンチに上がり、中の様子をい伺った。
私をかばうように、ヨウチャンは学年主任の戸塚と言い争っていた。
真紀はただ見ていた…私を…
しばらくすると、他の先生達もやってきた。
ヨウチャンは、怒鳴りながら泣き出した。
野次馬達の視線は冷たいものとなり、統一された意思は先生達の言葉をせき止める。
いくら論理、理屈を考えようが意思の塊の前では、焦りという感情が駆け回るだけで覆す言葉など誰一人出てこなかった。
戸塚は腕を組み目をつぶっていた、日本人得意のだんまりである。これしか方法が無い、というかオーソドックスに適切な対応なのかもしれない。
沈黙が続いた ヨウチャンは私に抱きついた。私は野次馬に目をやると、真紀を探し睨み付けた
真紀は身をすくみベンチから降りると教室に向かった
「真紀」
怒鳴り声が空気を壊した
「いくよ」
私は、ヨウチャンの頭を撫でながら真紀の元へ歩いた。野次馬も先生達も、誰も止めなかった
教材室をすぎ階段をすぎ三人はトイレに入った
「つかれた」
「ヨウちゃんありがとー」
二人の変わりように真紀は目をパチクリさせた。
「真紀あんた帰ろうとしたでしょう」
「っえ!あっだって」
「もうおケイいいって、分るわけ無いでしょあんな遠くにいたら」
「え、見えてたの?」
「うん、怒鳴ってるとき何回かサイン送ったけど、真紀おケイばっか見てて全然気付かないんだもん。しまいには佐藤とか江原とかくるし、江原うるさいじゃん話し長いしさー」
「だから泣いたの」
「うん」
「えぇ!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。武器よ武器、弱いものにはみんな よ・わ・い・の。ねぇおケイ」
「うん?うんうん」
「おケイ知ってたの」
「うん」
「っていうわけでー、カラオケね」
「え」
「昨日で反省会も終わり、無事演劇祭は終わったわけで。今日から部活は休みなのだ」
「だからカラオケ?」
「うん?おケイなにしてるの」
「うん?おしっこ」
ヨウチャンは、鬼の形相でドアをこじ開けてきた
「おケイ、あんた私のプリン食べたでしょう」
「うーん?…食べた」
「真紀…どこいくの」
「きょ、教室」
「又逃げるの」
「え?だって…歌うのは…」
「私、聞くのはおケイ、払うの真紀いつも通りよ」
二人とも毎度の事ながらに、陽子の勝手なわがままに振り回され、3時から10時までカラオケにヨウチャンの歌を聴き、最後は何時も、朝が来るまでマクドナルドで陽子の話に付き合わされていた。 親友だった考えるばっかの真紀にはヨウチャンはまぶしく、考えないで動く私が羨ましくほっとけなかった
ヨウチャンもつらい事も楽しい事も二人がいないとダメだった
…そして私も力になってくれる真紀そして・・・
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。