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第12話:輝かしい人たち〜髪の色〜
「なぁ、にぃちゃん。」
イエルが水面を見ながら、声をかけてきた。
今凛たちは水面で、自分達の作った葉でできた船で競争している。
「なんで、にぃちゃんの髪の毛白いの?」
言われて、初めて気づいた。
  自分は確か、黒い髪だったはず。
  いつのまに真っ白になってしまったのだろう。
「おっかさんが、髪の色のことは聞くなって言ったんだけど、気になって。」
イエルの妹、リュウラもこくこくと頷いている。
「髪の毛が白いのって珍しい?」
「お年寄りなら見たことあるけど、にいちゃんぐらいの年だと見たことない。」
じゃぁ、ここでは様々な色の髪はあっても、生来の色が白というのはないのか。
と凛は納得した。
「でも、こっちでは僕らみたいな髪の色でも珍しいみたいだけどね。」
ということは西李壇と森涼ではない、ここは黒髪・茶髪以外は珍しいようだ。
「ねぇ、なんで・・?」
「なんでだろうね・・。」
ぼうっとリュウラの無邪気な問いを聞き流した。

 そういえば前に聞いた事がある。
 あまりにもショックな出来事があると、髪の色をなくしてしまうらしい。

「ショックな出来事ねぇ・・・。」
凛はじっと流れていく笹舟を見つめた。
長い髪の毛が落ちてくる。
うっとおしい。
切ろうか。

「凛汰にぃ、髪の毛切るの?」
凛はミラーテさんから、散髪用のはさみを借りていた。
「うん。邪魔だからね。」
「結構、綺麗なのに・・・。」
もったいなさそうにリュウラは凛の髪の毛を触った。
「男の人がのばしててもしょうがないよ。」
 本当は女だけど、苦笑しながらその言葉は胸のうちにしまった。
女だという事実は今のところ、ミラーテさんしか知らない。
「男の人でものばしてる人もいるよ。」
「リュウラ、もしもよかったら、髪切ってくれない?」
「・・・いいよ。」
暇でしかたないのだろう。
こんな小さな子に頼むのは心もとないが、とにかく肩まで切ってくれればいい。
リュウラの暇潰しにもなるだろう。
「見ててね。綺麗に切ってあげるから。」
「楽しみにしてる。」
リュウラの小さな手が凛の髪の毛を掬った。

鏡を見てみると、思いのほか綺麗に仕上がっていて、別にわざわざ自分で切りなおすこともなさそうになっていた。
肩よりも上で、完全なショートカットになっていた。
「リュウラ。上手いじゃん。」
本当に驚いて、鏡の中の自分をじぃっと見る。
普通の美容師さん並だ。
「えへへ。得意なんだ、こういうの。」
照れながら、リュウラは笑って答えた。
「切ってくれて、ありがとう。」
「うん。」

 髪を切ったのは、他にも理由がある。
 決別だ。
 とにかく、この数日間でやっとわかった。
 もう、あの・・・父と母がいる世界はないんだ。
 もう、私は普通の人間ではないのだ。
 それを自覚して、今度は前に進まなければならない。
 過去には帰れない。
 突然で、パニックになりそうだったけど、やらなくちゃ。
 まだ、時間はある。
 地球を生き返らせる・・・その約束は生きているうちに必ず果たさないと。


 目標があって、約束があってよかった。
 それがある間は、きっと私は前を向いていられるだろう。


凛は目を閉じた。


     もう、あの夢のような父と母との生活をおくることはできない。
     けれど、あのなかで暢気に育ってきた私のできる助力がこれなのだろう。



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