社説:再稼働新基準 全原発に影響する拙速
毎日新聞 2012年04月08日 02時33分
言い換えれば、すでに電力会社が実施した緊急安全対策やストレステストを整理し、時間のかかる対策の先送りを認める口実を与えたのが今回の基準の中身ではないだろうか。大飯原発の再稼働を急ぐあまり、最初からクリアできる基準をまとめたようにさえ見える。
原発のリスクを見据え、脱原発依存を進めるのが政府の方針だったはずだ。そうであれば、初めから不合格を想定しないような基準を作るべきではない。それぞれの原発の弱点を比較し、リスクの高い原発の再稼働を否定することまで考慮に入れて作ってもらいたい。
さらにひっかかるのは、「津波や地震で核燃料が損傷しないことを国が確認する」という今回の基準の考え方だ。福島原発事故の教訓は、想定外に備える必要性だったはずだ。福島を襲った津波だけにとらわれていては足をすくわれる。炉心が溶融するような過酷事故が起こりうることを念頭におけばフィルター付きのベントや免震棟がないためのリスクも適切に評価すべきだ。
枝野幸男経産相は「電力に余裕があれば再稼働の必要はない」との見方も示している。電力の需給見通しをよく説明することなく、再稼働ありきの基準を急ぐばかりでは、国民の信頼は遠のくばかりだ。