<ちいさな宝物・3>(アスキラ幼年設定小説)
*小さな宝物*【三日目】 〜キラ〜
アスランがプラントに行くまで、後四日。
順調にアスランはマイクロ・ロボットのハムスターを組立て行き、僕は横でプログラミングする。
「とっとこ走って、壁の隅っこ見上げて、ヒマワリの種噛るハムスターがいいと思う!」
そう、僕はおもいっきり力を込めながら力説したのを覚えてる。
そんな僕を、宝石のエメラルドのような深緑の優美な双眸が呆れたと言わんばかりに向けられた。
アスランの顔に、いつも書いてあるんだ。
またキラの我が儘が始まったって。
「あのな……キラ」
アスランの瞳が、キッと僕を睨み付ける。
これは、いつも僕を叱り付ける時の顔。
母さんといっしょだ。
僕は、この後にお冠のアスランから言葉の爆弾が落とされるの解ってるから、咄嗟に耳を塞いで目を閉じる。
「キラ、何でそんな無駄な機能付けたいんだよ!いっつもいっつも無駄事ばっかり言って、やっぱり辞めたー!って投げ出すし。いつも突き合わされる俺の気にもちょっとはなれよな!!」
思わず叫んだアスランの声が、塞いだ手の間から漏れてくる。
「ちょっとは聞く気出したらどうなんだよ!」
そう言って、アスランが僕の右手を掴み上げる。
アスランから逃げようとした瞬間、僕はフローリングで足を滑らすして、後ろのソファー目掛けて倒れ込む。
僕の手を掴んでたアスランも、右に同じで……バランスを崩して二人とも倒れ込む。
「え!?」
お互いの声が、調度同じ時に呟かれるけど、それはあっと言う間だった。
どさっ!!
とっさに目を閉じた僕には、アスランの手の温もりしか解らない。
「うっ……」
お互いに、同じうめき声を上げながら上体を起こす。
僕はそーっと瞼を恐る恐る押し上げると、そこには、夕闇のような真っ青な髪を乱したアスランが、同じように状況把握しようとしていた。
真ん前にアスランの顔があった事で、僕は意識しすぎてどきどきしていたけれど、冷静なアスランは自信の乱れた髪を欝陶しそうに、整った繊細な指で優美に書き上げる。
そんなアスランに見取れていたのもつかの間、僕の視線と アスランの視線が交わる。
「キラ……大丈夫か?」
アスランにそう言われて、やっと状況把握し始めた僕の目には、アスランが僕に倒れかかっているようにしか見えない。
「だ、大丈夫!アスランこそ、巻き込んでごめん!」
そう言って、僕は慌てて体制を立て直そうとしたけど、でも…アスランがそんな僕の腕を掴んで放さない。
「アスラン……?」
きょとんとしながら、僕はアスランを見つめる。
アスランはそっと、何も言わずに僕に全体重を預けてくる。
抱き着かれて、僕は真っ赤になって、頭の中がグチャグチャになって…どうしたらいいか解らなくなる。
「キラ」
甘く、溶けるような声で、アスランは僕の名を呼ぶから……僕はさっきと同じようにアスランを意識して、耳まで真っ赤になる。
「あ……アスラン!?」
僕が慌てふためく顔を見て、アスランがぷっと小さく吹いた。
それを見て、僕は更に恥ずかしくなってきた。
だって、アスランはクラスの中でも成績トップで、女の子の憧れの的でキャーキャーいつも騒がれてて、みんなの人望も信頼も厚い。
それだけじゃ無く、毎回アスランはその真面目で優秀なところを買われて、クラス長や生徒会にはいつも名前が他薦で上がってくる人物だ。
でも、生徒会はやらなかったんだ。
アスランいわく、僕と遊びたいから生徒会からの熱い勧誘やみんなの他薦を断ったそうだ。
先生からも勧められていたみたいだけど、それも丁重に断ったっていってたっけ。
とにかく、アスランは僕を優先してくれる。
付き合いが長いからかな?四歳の頃から、僕等は何をするにも一緒だから……それが当たり前だと思ってたから、断ったと言われて正直びっくりした。
でも、優しく笑んで…キラの為に、キラと一緒に居たいから断って来たって言われた時には、嬉しさと気恥ずかしさが混ざりあった気持ちだった。
「アスラン、もしかして……どこか…頭とか打った!?」
これでも、精一杯心配して言ってるのに、アスランはまだ笑ってる。
笑いながら、アスランはぎゅって僕に抱き着いて来るけど、僕は緊張したり、どうしたらいいか解らなくて……ずっとパニックに陥っていた。
不意に、アスランがやっと言葉を紡ぎ出す。
「ごめん、ごめん。…キラの身体が温かかったから、ついつい抱き着いちゃった。ビックリさせちゃったね。ごめん…」
「びっくりなんて…したけど、でも…そんな謝られる程じゃないから」
だから安心してって言ったら、アスランはにっこり笑んでいた。
「ハムスターの機能だけど、キラにくっついてて思ったんだ、床をちょろちょろ走って、手や肩に乗るのが好きで、ポケットで眠ったりするの。で、温もりも感じられたらいいかなって……」
だって、僕等が始めて力を合わせて作るんだからと花のように優しく笑むアスランに、僕は目を奪われた。
「それに、このハムスターは俺達の初めての合作…言わば子供みたいなものだから、せっかくなら可愛らしくかつ本物みたいにしたいんだ」
アスランは、僕に甘える犬の様に顔を間近まで寄せて、見つめてくる。
「どう?」
苦笑いしながら、向日葵の種を食べるのは大変だからねと、僕にそっと耳打ちしながら微笑むアスランが可愛くって、綺麗で……見とれる。
「うん……いいんじゃないかな」
そう呟くアスランは僕の胸にさらに顔を埋め、本当になつっこい大型犬……ゴールデンレトリバーみたいに僕にくっついて来たと思ったら、そのまま動かなくなった。
「え!?」
アスランを、僕は耳まで真っ赤な顔でまじまじと見つめる。
規則正しく紡がれる寝息に、やっとアスランが眠っていることに気付く。
宵闇色の絹糸が、陶器のようにキメ細かな肌にぱらぱらとかかっている。
僕はアスランの髪の色が大好きなんだ。
夕焼け後の夜の空の色だから。
昔、初めて会った時に「カッコイイよね」と言ったら、アスランは「キラの髪色の方が、普通っぽくっていいよ!絶対にね」とエメラルド色の瞳で笑んでくれた。
いつも僕に優しいアスラン。
どんな時でも、ずっと側に居てくれた。
悲しいときも。
苦しいときも。
楽しいときも。
嬉しいときも。
辛いときも。
いつも……僕が先に泣いちゃうから、アスランが泣いた顔を見たことは無い。
アスランは……悲しくっても、いつも唇を噛んで耐えている。
そして、僕を慰めてくれるんだ。
昔、テレビかラジオで言っていたフレーズを僕は思い出す。
二人姉妹の妹は泣き虫で、姉は面倒見がいいと評判。
何をするにも一緒だけど、怒られたり、悲しい出来事があると妹がすぐに泣くから、姉は泣けないのだと。
本当は一緒になって泣きたいのだけれど、「泣く」のは早い者勝ちだから……後に残った方は、泣きたいのをぐっと堪えて我慢するのだという話。
ー泣くのは早い者勝ちー
だから、アスランも同じ様に我慢しちゃうのかな?
僕が先に泣くから。
これでも……って言っても、みんなやアスランは笑うかもしれないけど……僕は我慢しているんだよ。
泣かないように耐えていても、僕の身体のはずなのに…知らないうちに涙が出ちゃうんだ。
これまで、空を見上げたりして堪えてみたんだけど、それでも涙は溢れ出してきちゃうんだ。
そんな時、必ずアスランはいつも温かい手を差し延べてくれるから……だから大好きなんだ。
いや、甘えちゃいけないって僕だって解ってる。
みんなに「男の子だろ!泣くな」って言われるけど……。
アスランはそんな僕さえも「キラは感情が繊細だからね」と慰めてくれるアスランに頼ってしまう。
だから、マイクロ・ロボットのハムスターもこうして手伝わせているんだもん。
「やっぱりアスランには敵わないや」
僕はそう言いながら、アスランを抱き寄せてベッドから毛布を手繰り寄せる。
もともと敵いっこないってわかってはいるんだけど……でもずっと側に居てほしかった。
アスランが居ない毎日なんて考えられないし、考えたくない!
「大好きだよ……アスラン」
そっと、藍色の髪に触れながら、僕はアスランの身体に毛布を掛けた。
アスランが寒くない様に毛布を掛け、ゆっくりと僕の身体をアスランの下から引き抜く。
「まだ残ってるプログラミングをしなきゃ!」
半分は自分に言い聞かせる為、もう半分は寝ているアスランに向けてぽつりと呟く。
そんな僕に、ハムスターの機能でいいことを思い付いたんだ。
朝早く、僕は温かい温もりを感じながら目を覚ます。
あっ、そういえば僕はプログラミングの途中で寝てしまったんだった!
そう思ったら、僕の目の前に何か小動物の気配がする。
なんか……小動物がもぞもぞして……!!!
僕はびっくりした。
目の前で……ってゆーか、僕の鼻先でもぞもぞしてたのはあのマイクロ・ロボットのハムスターで、キョトンとつぶらな瞳で僕を見上げながら首を傾げて見つめていたんだ。
昨日の時点ではまだ本体はアスランが完成させてなかったハズなのに。
そう思いながら、僕が驚いて口をぱくぱく金魚みたいにしてたら、そっと後ろから抱きすくめられ、知ってる懐かしい香りとともに昨日も感じた温もりにつつまれた。
「あ…アスラン……」
「おはよう。キラ。昨日はかなり頑張ったみたいだから、僕からのプレゼント。僕たちの合作、ペットロボハムスター……名前は何にする!?キラ」
そう優しく耳元で囁かれて、僕はくすぐったい気分になる。
何か……これって新婚夫婦に初めての子供が出来た心境!?
「はむ●郎!!」
元気良くそう言う僕に、アスランは罰と言わんばかりに耳元にキスを落として行く。
「あっ……アスラン!?」
「太郎はダメ!そんな形に作ってないから。俺はハムゥでいいんじゃないかと思うけど……キラはどう思う?」
アスランがそう微笑みながら、僕に問い掛けてくる。
改めて、朝日にキラキラと透ける宵闇を思わせる青い髪、南国の海面のような明るいエメラルドグリーンの瞳、キメ細かくて幼年時代から触り心地の変わらない肌は白く透き通っていて、初めて会った時から僕の視線を奪い尽くしたままの姿でアスランは僕を見つめる。
大好きな親友は極上のビスクドールみたいだと大人たちは言っているけど、あのお人形よりももっとアスランの方が綺麗だと思う。
男の子に綺麗なんて変かもしれないけど……少なくとも僕はそう思う。
天は二物も三物もこの学年トップの親友に分け与えているのだと、僕はそう思えてしょうがない。
「ちゅっ!」
僕がアスランに見とれているうちに、アスランいわく「はむぅ」は僕の肩に上って来て小首を傾げて見つめていた。
「あっ……アスランの案でいいよ……はむぅで」
そう告げる僕にアスランは優しく額に口づけをする。
その優しさにいつまでもまどろんでいたくって……僕はアスランの腕の中で瞳を閉じる。
いつまでも……この時が続けば良いのにと、僕は望まずにはいられなかったんだ。
ねぇ……アスラン……。
「キラ……大切にしろよ。俺たちの合作なんだから」
そう言って、いつもみたいに僕に微笑んでくれるアスランに僕も笑み返す。
「アスラン……大切にするよ。ありがとう」
僕はそっとはむぅを両手で包み込み、そっとその温もりを感じる。
本当に……すごいなぁアスランは。
真面目に感動している僕を優しく見守りながら、アスランはハッと何かに気付き、僕の肩を優しく叩く。
「朝食……食べよっか。キラ」
「う……うん」
そう、照れながら今さらだけど学校のことをすっきりさっぱり忘れていた僕が居た。
アスランは僕の手を握り、一緒に行こうといつものように僕をひっぱっていってくれる。
「うん」
満面の笑みをいっぱいに浮かべて、僕はアスランの後を付いて行く。
いつもの、アスラン家にお泊まりするときと同じ朝が僕を包み込む。
僕は……アスランと別れることよりも……今はこのいつもの光景を、空気を、雰囲気を楽しまずにはいられなかった。
*続く*
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