女奴隷への道 第二章『ランジェリーショップ』 (作:優理子さん)



  翌朝は大学の講義は午前中だけで午後は休講だったので、帰り道にふと人
混みが恋しくなって久しぶりに新宿に出てみた。いろんな店を見ているうちに、
女性服の店に目が行ってしまう自分に気づいていた。女性の服…、女性の服を
着れば、女性みたいに見えるかな。女性みたいに見えれば、M側で責められて
も絵になるかな、と。歩いていて、女性下着の店の前に来た。思わず足を止め、
中に並んでいる色とりどりの華やかな女性下着をずっと眺めたい衝動に駆られ
たが、店内の女性店員や女性客が変な目で自分を見ていることに気づき、恥ず
かしくなってその場を急いで離れた。

  自分の部屋に帰ってからいろいろ考えた。何を考えたかというと、さっき
のランジェリーショップは新宿の有名なデパートだったからダメだったんだ。
どこか、お客の少ない場末のランジェリーショップを探さなきゃと。自分の住
んでいる近くなら、そんなランジェリーショップが駅の反対側の裏通りにある
ことに気づいた。新宿とは比較にならないが、少々の飲み屋は歓楽街っぽいち
ょっとしたお店はある駅前なのだ。ランジェリーショップもそうした歓楽街に
働く女性相手にそこそこ売り上げはあるのだろうと思った。だとしたら、午前
中なら店内は閑散としているはずだ、と考えた。

  翌朝、朝食をそそくさと済ませると、駅の反対側のランジェリーショップ
に行ってみた。締まっていた。シャッターには『午前11時〜午後11時』と
書いてある。そうだろうな。彼は一度自分の部屋にもどると、11時少し前に
待ちきれないように出かけていった。ランジェリーショップはちょうどお店を
開けているところだった。自分よりは少し年上の、22,3歳くらいの若い女
性の人がシャッターを開けると鍵を開けてお店の中に入っていった。美人とま
では言えないがショートカットのボーイッシュな感じのサッパリした感じの女
の子で、スタイルは抜群だった。その子をお店の近くでこっそり見ながら、そ
の女性を抱きたい、縛りたいという欲望より、その女性のスタイルがうらやま
しいと思っている誠がいた。「いいなぁ〜…」誠は思わずつぶやいていた。
  幸い、近くに人通りは無かったので、お店の外から穴の空くほどウィンド
ウに展示されている女性下着を眺めていた。色とりどりに女性下着。その一つ
一つを自分の頭の中で自分に着せて、似合うかどうか想像していた。やがて、
誠に気づいたその女性店員が「あの… 何か?」と優しく声をかけてきた。誠
はびっくりし、慌てて全力疾走でその場から走り去ってしまった。
  でも、どうしても女性下着が忘れられない。手持ちのSM物ビデオを見て
みた。裸の場面より、今度は下着姿の場面ばかりを見た。こんな下着姿になり
たい。自分がこんな下着姿になってるところを想像し、激しく自慰をした。翌
朝も、その翌朝も、あるいは帰り道も、いつもかならず、そのランジェリーシ
ョップの前を通って陳列されている女性下着を眺める日が続いた。
    ある日の午前中、その日は大学の講義は夕方だけなので、昼はゆっくりし
ようと駅前まで来て、やはりあのランジェリーショップの前に足を止めて見入
ってしまった時のこと。

「中に入る?」

びっくりした。声がした方向を振り返ると、あの若いランジェリーショップの
店員さんがにっこり笑ってこちらを見ている。ドギマギしながら

「あ…あのぉ…」

としどろもどろになりながら応えようとすると、その女性店員は

「いいのよ。わかってるから。そうなんでしょ?」

「え? あの いえ、その…」

「いいから、中へどうぞ。この時間はお客さんは誰もいないし。」

誠は誘われるままに、ついにランジェリーショップの中に入った。その中は想
像を遥に超えるお花畑のような華やかな世界で、あたり中に華やかな色とりど
りのショーツ、ブラジャー、キャミソール、ストッキング、ガーターベルト、
ウェストニッパーといったランジェリーが並べられていた。誠は何も考えられ
ず、女性店員の存在さえ忘れてそのランジェリーの群れをじっと見入っていた。

「あなた…自分で着たいんでしょ?」

「え?」

「わかるわよ。プレゼントを買いに来る人と顔が違うもの。今、一つ一つのラ
ンジェリーを眺めながら、自分が着けたらどんなかな、と考えてたでしょ? 
ちがうかしら?」

図星だった。誠は顔を赤らめ、うつむいて女性店員の顔が見れなくなってしま
った。知られてしまった。誰にも、いや、自分にさえわからなかった性癖を、
この女性に知られてしまった、と。

「あ、ごめんね。困らせるつもりじゃなかったのよ。毎日ずっと通い詰めてい
たから、気になっていたの。なんか、助けてあげられないかなって思って。女
性の下着を着けたいっていう人、案外多いのよ。あなただけじゃないわ。ゆっ
くり見ていっていいのよ。買うならお手伝いするわ。」

ここまでばれてしまったのだから、この人から女性の下着を買いたかった。で
も、正直今はお金がなかったし、もう少しがまんと思った。それに、女性の下
着を着たからってどうだというのだ。欲しいし、着たいけど、自分は着てどう
したいんだろうと思った。

「え、ええ、実は、そうなんです。」

「やっぱりね。でもあなたは小柄だし、ごつい感じじゃないから、お化粧した
ら女の子に見えるんじゃないかなぁ。なんか、試着してみる?」

「あ…あの…今日は…見るだけで。 いいですか?」

「いいわよ。ゆっくり見ていっていいわ。私は整理することがあるから、なに
かあったら声をかけてね。」

結局この日は1時間くらいこのランジェリーショップにいた。

「また、いつでも遠慮無く来てね。」

女性店員に明るく送り出され、気恥ずかしいような、少し肩の荷がおりたよう
な、ホッとした気分でランジェリーショップを後にした。このとき、近くでじ
っと誠を見つめる視線があったことに彼は気づいていない…

その後、女性店員と話せるようになったという気安さもあり、店内にお客さん
がいない時を見計らって時々は店内に入ってランジェリーを見させてもらうよ
うになった。華やかな女性下着を見ていて、自分が来て似合うかなとか考えて
しまっているのに気づいた。

「あなたは、いつも女性の下着を着けてるの?」

女性店員に聞かれて、誠は答えた。

「いえ、持ってません。でも…興味があって…」

「うふふ。興味があるのね。そうよね。着けてみたいということは、カワイイ
女の子になりたいのかな?」

「なれるかなぁ…」

「なれるなれる。あなたなら大丈夫よ。きれいな女になれるわよ。そしたら、
いい男がいっぱい声かけてくるわよ。」

誠はびっくりした。考えたこともなかった。

「え?男の人??」

「あら、違うの?こんな女性の下着を着けるっていることは、男に人に抱かれ
たいっていうことでしょ?ホモ、というのかしら。」

「ち、違います。男の人となんて、考えたこともなかったです。」

「あら、あなたは違うの? じゃ、なぜ女の下着を着けたいの?女の下着って
男の気を惹くためにあるのよ。」

そう言われて誠は戸惑ってしまった。そんなこと、考えたこともなかったので
ある。女性の下着に興味あること、女性の下着姿に憧れること、女性の下着姿
に自分もなってみないと思うことと、性的興味の対象が男性ということは、誠
にとってはまったく別問題だった。自分が女性に憧れを抱き、自分が女性のよ
うになれたらなと思う願望の中に、自分以外の男性はなかったからだ。

「違います…。よく、わからないけど、男の人に抱かれたいなんて、考えたこ
ともなかったです。ただ、こんなきれいな下着を着けてみたくて…」

「へぇ。そうなんだ。女はね、セクシーな下着を着けるのは、男の気を惹くた
めなのよ。あなたは違うのね。ふ〜ん。」

女性店員はよく理解出来ないという感じで会話を打ち切ってしまった。

  誠はちょっとショックだった。今まで、なんとなく女性の下着に魅力を感
じてきた。それは憧れの女性に少しでも近づきたいということでもあったし、
理屈抜きに女性の下着を見ていて、目が離せない魅力があった。誠はまだ女性
経験は無いので、女性の下着から生身の女性の肉体を想像することはない。想
像したくても、経験が無いので出来ない。だから、女性の下着になんとなく惹
きつけられてしまう。自分でもなぜかわからない。そんな感じなのだ。
  だから、さっきのように女性の下着を着けることは、男性に抱かれたいか
らとズバリ言われてしまうと、戸惑ってしまったのだ。決してそうではない。
女性経験も無いけど、少なくとも同性である男性に抱かれないなんて、思った
こともなかった。自分にホモッ気はない。だとしたら、なんのために女性の下
着を身につけるのか。女性の下着を身につけるなら、男に抱かれなければいけ
ないのか。誠は今まで考えたこともなかった世界の入り口を不意に覗いてしま
った気分だった。
  女性に憧れてはいるが、女性になりきることは、女性として男性に抱かれ
ることだったのか。誠はSMクラブでの経験を思い出していた。M男性として
責められる自分の姿が美しくなくてショックだった。それで、女性の下着に目
が行った。自分が女王様に責められるM女性の役割をすれば満足と思っていた
のだが、よく考えてみたら、女王様が責めるのはM男性であろう。となれば、
M女性の役割を自分がしたら、自分を責めるのはS男性…!