女奴隷への道 第一章『SMクラブ』  (作:優理子さん)



 誠は東京で一人暮らしをする大学3年生の男の子だ。周囲からはそこそこイ
ケメンとささやかれているのだが、本人はいたってマジメな性格らしく、そん
な自分の容姿には気づいていない。大学の講義もマジメに受けており、理系な
ので周囲に女子学生もいなくて、女性には縁のない生活を、大学と自分の部屋
との往復で過ごしていた。
  誠は中学生の頃からSMに興味があり、今ではSM雑誌やDVDなども自
分の部屋に置いて毎晩眺めたりしている毎日だが、まだ経験はない。誠が興味
があるのは緊縛である。麻縄に締め付けられて蠢く白い肌がなんとも色っぽい
と思う。ぜひ生身の女性を縛りたいと思うのだが、なかなか女性と知り合う機
会もなく、かと言ってバイトで生計を立てている身なのでSMクラブ通いもま
なならない。かくしてSMの実体験は無いままに大学3年生までになり、未だ
にSMは小説やDVDの画面の中にとどまっている。
  しかし、普通の男の子は女性を縛って虐めたい、セックスしたいと思うの
だろうが、誠は違っていた。誠は縛られた女性が緊縛の気持ちよさを味わうの
がうらやましく思えていたのである。ネットでのSMサイト、SMビデオやS
M小説を見ていても、誠はいつも縛られ責められている女性の方に自分を感情
移入させて見ていることに最近自分でも気づいてきた。自分は男性なのに、縛
って責める男性の側に感情移入はしてないのだ。
  自分でも縛りを練習したいと思い切ってSM雑誌の広告記事を頼りに六本
木のSMショップに行き、SM用の縄を買ってきて自分の部屋で自分を縛って
みた。身体に縄をかけるのはそれほど難しくない。足も縛れる。猿ぐつわも出
来る。しかし、手を縛るのは難しい。なんとか自分の二の腕に縄をかけ、縛り
付けても肘から先の手は自由である。自分一人だとどうやって手首を縛ればい
いのか、見当がつかなかった。誠にとっては縛りとは後ろ手の縛りである。し
かし、後ろ手に縛るのは自分一人の自縛では非常に難しいのだとわかってきた。
やはり生身の女性を縛りながら縛りの練習をしたいものだ、と一人暮らしの部
屋の中で毎晩思うようになっていた。
  この時点で、誠はまだ自分がどんな存在か、気づいていなかった。M女性
に感情移入しながらSMビデオを見ているのに、漠然と自分は男だからSなん
だろうと思っていたのである。事実、試しに借りて見てみた女王様がM男性を
責めるビデオにはまったく感情移入出来ず、10分ほど見てすぐにビデオを止
めてしまったくらいである。だから、自分はM男性ではなく、S男性なんだろ
うなと思っていた。

  どうしても生身の女性とSMしたい。そう思えてきた。彼はバイトもして
いたので、さすがに一回SMクラブに行くくらいのお金は持っていた。ここで
行けば、あと半年は行けないかなぁとか思いながらも、なけなしのお金を使っ
て、SMクラブに行ってみる決心をして、ネットでいろいろ探してみた。する
と、SとMとで値段が違うことに気づいた。自分がS男性として行くよりも、
M男性になる方が安い。誠としてはその差1万円はバカにならない。情けない
話だが、その1万円の差が無視できないのだ。M男性として行けば、来月にも
う一回行けるかもしれない。そんな計算をし始めた。
  自分のことを振り返ってみた。自分はSMビデオとかを見ていて、いつも
M女性の方に感情移入させていることに気がついた。それならばM男性なのか
もしれない。男だからSだというのは、思いこみなのではないかと。いや、そ
れよりも、自分がM男性ならば安上がりでSMが出来るという安易な思いがあ
った。
  そこで、思い切ってネットで探した中で家からも近い場所にあるSMクラ
ブに思いきって行ってみた。いったいどんな場所なんだろうと思っていたが、
中は案外狭く、聞いてみると外のホテルを使ってプレイするのだという。ホテ
ル代は男性客持ちなので、これで持ち合わせのお金は全部ふっとんでしまうと
思ったが、ぎりぎりなんとかなると素早く計算した。店長の男性がアルバムの
ような物を持ってきて女性を選んでくれというので、ページをめくりながら、
なんとなく好みの女性を一人選んで「この人を」と指さした。すると、店長さ
んが奥に行き、さっきからずっと聞こえていた明るい女性達のおしゃべりが一
瞬消えて、一人の女性がやがて目の前に現れた。「行きましょ。」
  その女性に縄で縛られ、鞭打たれ、蝋燭を垂らされて、SMプレイの初歩
をひとわたり味わってみたが、プレイの最中に一瞬見えた女性に責められてい
る自分の姿に、一気に醒めてしまった。違う。何かが違う。違うんだ。その女
性には申し訳なかったけれど、結局は射精することは出来ずに時間が来た。そ
の女性は「ごめんね」と優しく言ってくれたが、その女性のせいではないと思
えてきた。何かが違うんだと。

  落ち込んでのSMクラブからの帰り道、誠は自分はSMの気はないのでは
と考えてみた。しかし、自分の部屋に帰ってから持っている何枚かのSM物の
DVDから気に入っている一枚を見ていると、やっぱりSMはしたい。SMに
興奮する自分がいた。では、さっきの違和感はなんなのだろう。やがて、彼は
目の前のSMビデオの画面を見ていて気づいたのである。女だ、と。
  さっき相手をしてくれたSMクラブの女王様が悪いのではない。鏡で見た
自分が女じゃなかったからダメだったんだ、と思った。責められるのは女性で
ないと美しくない。誠は緊縛が好きだったが、特に股縄が美しいと思っていた。
自分は男だから股間に股縄が食い込む感触は味わえないし、当然さっきのSM
クラブでも女王様は股縄はしなかった。しかし、鏡で見て股縄が無い緊縛姿は
どうも魅力が無く思えた。自分が責められるなら、女性でないとダメだと。な
らば、今度は自分がS男性になってM女性を縛って責めればいいのだが、さっ
きのSMクラブで味わった、自分が後手に縛られて鞭打たれるのに、何とも言
い表せない快感があることは認めざるを得なかった。M側の快感は感じること
が出来る。もう一度味わいたい。でも、自分は男だからダメだ、と。考えは堂
々巡りになってきて、いつのまにか寝てしまった。