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催眠術で女子高生!?(5) by 抹茶レモン
ガシャンと会場中の照明が消える。
「皆さん、こんばんは!」
ざわついていた会場がシン……と静かになる。
パッ、とスポットライトがステージを照らす。
どこから出てきたのか、ステージ中央に立っていたのは盛岡だった。
彼はまたしても黒いスーツをきっちり着込んでいる。
「私は盛岡。この館の主人であり、本日のショーの主催者。以後、お見知りおきを……」
「さて、皆さんにはこれから摩訶不思議な世界をご覧になってもらいます。その世界は現実では考えられないでしょう……。しかし、皆さんが見るのは本物です。私が保証しましょう」
『早く始めろよぉ!』
観客の中には気が短い奴もいるようだ。
「わかりました……それでは早速皆さんに催眠術を見てもらいましょう」
『一人でできるのかよ!』
これは失礼、と盛岡。
「もちろん私だけでは、催眠術なんてできません。催眠には術をかける人ともう一人、術をかけられる人を必要としますからね」
盛岡が話し終えても観客は物音一つたてない。皆、盛岡の話す言葉に集中しているのだ。
「貴方にお願いしましょう!」
盛岡がそう言うと、スポットライトが一人の観客を照らし出した。
「えぇ! お、オレ!?」
男性は驚いたように声をあげた。自分が対象になるとは全く考えていなかったのだろう。
「それではこちらにどうぞ!」
盛岡に言われるまま男性はおそるおそるステージに上がった。
「ではこの椅子にお座りください」
何か仕掛けがあるのではないかと警戒しつつ、椅子に座る男性
それを確認して、盛岡が立ってくださいと言った。
「あ、はい……」
スッと立ち上がる男性。
「あの、これが何か?」
「ただの確認です。もう一度すわってください」
またですか、と再び椅子に座る男性。
「皆さん、今から初歩中の初歩の催眠術をお見せします」
まってました、と言わんばかりに観客が一斉に注目。
「いいですか? 私が1,2,3,4,5と数えたあとに指を鳴らします」
このように、と盛岡は指を鳴らした。パチン、乾いた音が会場に響いた。
「すると、貴方はさきほどのようには立てなくなります。わかりましたか?」
会場全体に伝わるよう、説明する盛岡。
「はい」
よろしい、と満足そうにうなずく。
「では、目を閉じてから『私は指を鳴らすと立てなくなる』と10回言ってください」
「10回は多くないですか?」少し不満そうな男性。
「それもそうですね、5回で結構です」
そのとき観客席のほうから『早くしろ!』という声。
声を無視して男性は言われ通りに
「私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる……」と丁度5回呟いた。
「ちゃんと言いましたね? それではいきます、1,2,3,4,5……はい!!」
パチン、と再び乾いた音が。
「どうぞ? 立ってみてください」
盛岡はさもおかしそうに微笑んでいる。
「それじゃぁ…………あ、あれ?」
男性は立ち上がろうと試みる、がさっきは立ち上がることができたはずなのに立てない。いや、指一本動かすことさえできない。
慌てる男性、その顔は真っ赤になっている。
ざわざわ、と騒がしくなる会場。
「あぁ、立っていいですよ?」
盛岡がそう言った瞬間、男性の身体が椅子から離れた。その勢いで地面に倒れこむ男性。
『はははっ!!』観客から笑い声があがる。
「みなさん面白かったでしょうか? しかし、これはまだまだ序の口これからもっと――」
「インチキだ!」と会話を遮るようにだれかが叫んだ。
スポットライトが一人の男性を照らし出す。
その男性は他の観客が見つめる中、続けて言った。
「私は教師をやっているものだ。私は30年も真っ当に教師をやってきた。そんな私に言わせれば、こんなのはインチキに決まってる!!」
その男性の発言を皮切りに、
『そうだ、そうだ! インチキだ!』
『どうせ、その男はグルなんだろ! この詐欺師め!』
次々にインチキ、グルなどといった言葉が飛び交う。
するとそれまで笑っていた盛岡が無表情になった。
「座れ!!」
盛岡がそう叫んだ瞬間、さっきまで怒鳴っていた連中がフッと、糸が切れた人形のようにその場に座り込んだ。
彼らの目はせわしなく動き続けている。どうやら気絶はしていない。それでも全員が全員立ち上がることが出来ない。そう、盛岡が言ったとおりに『座っている』のだ。
そして、盛岡が口を開いた。
「皆さん!」いったん観客を見渡す盛岡。
「私は、皆さんをこのショーに無理やり連れてきたわけではありません。それにここに入るとき、私は金品を所望しましたか!?」
静まり返る会場。
「そうです、所望していない。もちろん盗んでもいない。つまり、皆さんがここに入ったのは、皆さん自信の意思によるものです! お分かりですか?」
もう一度見渡し、観客の顔色を伺ってから、ふぅ~……とため息をつく。
「ご気分を害された方、また私を詐欺師だと思う方は遠慮なくお帰りください」
歩け!! と盛岡が言うと、さっきまで身動きが出来なかった連中が一斉に立ち上がった。そして、かなりぎこちない歩き方で会場に一つしかない扉へと向かい、自らと手でその扉を開け、会場をあとにした。
「さぁ、他の方もどうぞ! 私は止めはしません!」
ぞろぞろと他の観客たちも動き始めた……。
そして、会場には盛岡を含め三人が残った。
(さて、どうするかな……)
残ったのはもちろん俺とタカスケだ。
「いくぞ」
「…………」
二人で奴がいるステージに上がる。
向こうも残ったのは俺たちだと気づいたようだ。
俺がどうしようかと迷っていると、先に盛岡が俺たちに話しかけてきた。
「君たちは残ってくれましたか」
さらに、あのときと同じ笑みを浮かべて歩み寄る。
「………………」
「そんなに警戒することはないでしょう?」
さらに近寄る盛岡。
「あんなもの見せられたら誰だって警戒する!」
タカスケが強気に出る。
「タカスケ君、あんなのものとは失礼ですね」
気にも留めない盛岡。
『ッ!!』
驚きを隠せないタカスケと俺。
(こいつがタカスケだと分かっている!?)
「あぁ、失礼。二回会っただけなのにニックネームで呼ぶのはだめですね」
すみません、と謝ってはいるが顔は笑っている。
それにしても、と一旦言葉を区切ってから盛岡は苦笑気味に言った。
「皆さんひどいですよね……。せっかく頑張って用意したのに帰ってしまうなんて。なんと嘆かわしい……」
はぁ……、と大袈裟にため息をつく。
「あぁ、もちろん」
両手で俺たち二人を指す。
「あなた方お二人は別ですよ?」
『………………』
返す言葉が見つからず、沈黙する。
「あ、あれは――」とタカスケが口を開いた。
言いたいことは俺にもわかる。
おや? という顔して、すぐまた見るものを不快にさせる笑みに戻す。
「えぇ、もちろんあれは本当に私の力です。決して詐欺ではありませんよ。さらに、今この場で、タカスケ君に貴方の首をしめさせることもできます。もちろん逆も」
やってみましょうか、と盛岡は付け足した。
「遠慮しておきます」
(タカスケ、余計なことは喋るなよ。ここは俺に任せてくれ)
(あぁ、わかった……)
奴に聞こえないよう、小声で会話する。
「いやですね、別にタカスケ君が何を言おうと私は怒りませんよ?」
耳がいいのか、心が読めるのかどっちなんだ。
それにしても、と盛岡は呟いた。
「貴方は不思議な人だ。私は大抵の人の心が読めるのに貴方の名前だけは全く読めない。もしかしたら貴方も特別なのかもしれない」
貴方も、というところに妙な引っかかりを覚えたが、とりあえず奴の話を聞こう。
「特別?」
そうですねぇ、と盛岡は手を顎に当てて考え始めた。
「例えば私。私は見かけこそ普通そのもの……」
(いや、十分変だ)
なにせ、真夏の夜中に背広をきちんと着込んでいる。普通ならそんなものは着ていられないだろう。
「しかし、私には類稀なる能力がある。そう、人を操りその心を読めるという能力が」
「でも、俺は何の能力も持ってない」
「そこです!」盛岡は急に声を張り上げた。
「貴方はおそらく天使のような存在なんです!」
突然意味不明なことを言い始める。
「安心してください。天使といっても悪魔を倒せる能力があるということはありません。私が言いたいのはあくまで天使のような体質があるとうことです」
「天使とはどういうことだ?」
ふふっ、と盛岡が軽く笑う。
「いずれ分かります……!」
「さっきから……」
黙っていろと言ったはずのタカスケが喋りだす。
「意味不明なことばっか言いやがって!」
そう言って盛岡につかみかかろうとする。
「止まれ!!」
「ッ!!」
突然動きを止めるタカスケ。
どうしたんだ! と言おうとするが、口が動かない。
(まさか俺ごと動きを……!)
はぁ、とため息をつく盛岡。
「あなた方ならわかってくださると思っていたのに、仕方ありませんねぇ……」
何をするつもりだ、そう言いたいがやはり口は動いてくれない。
「タカスケ君、君はもう二度とここにこないでください。もし、再びここにくるようなことがあれば……」
盛岡は最後まで、言わなかった。単なる脅しのつもりなのか、それとも言えないようなひどいことをするつもりなのか。
「そうそう、貴方は別にきてもらっても構いません。貴方がくるのなら彼がきても……まぁ大目に見ましょうか」
最後に、と盛岡が俺の元へさらに歩みよってきた。
お互いの距離は30cmもないだろう。
「プレゼントですよ」
盛岡は右手の中指で俺の額の真ん中を押した。
(こいつ、一体何のつもりだ……!)
そしてすぐにその指を離す。
「私が貴方に何をしたのか、それはいずれ分かります」
それでは、ともう一度ステージの中央に立つ盛岡。
「また会いましょう! ……帰れ!」
奴が言い終えた途端、目の前が真っ白になった。
「ここは」
俺は気づくと自宅の前にいた。
(身体は…………動く)
しばらく自分の身体に変なところがないか確認する。
(特にない、か)
ここでただ立っているだけでもいられない、と扉に手をかける。
「ただいま~……」
ゆっくりと静かに玄関の扉を開いて中に入る。
家の中には明かり一つついていなかった。多分、母さんも父さんもすでに寝付いたあとなのだろう。
できるだけ足音を立てずに自分の部屋へと移動。
そして、黒ジャージのままベッドに入る。
(そういえば)
タカスケは自分の家にいるのだろうか。
(電話してみるか)
そう思い、部屋に置いたままだった携帯電話を取った。早速電話をかけてみようとしたが、猛烈な眠気が襲ってきた。
画面に何が表示されているか全く分からない。
(なんだ……この、眠気は……?)
少しだけ睡魔に抗ったものの、そのまま瞼を閉じてしまった俺。
眠りにつく前に浮かんだのはあの盛岡の顔だった。
(あいつは何者なんだ……?)
ぼうっとした頭でそれ以上考えることもできず、俺は完全に睡魔の手へとおちた。
〈続く〉
「皆さん、こんばんは!」
ざわついていた会場がシン……と静かになる。
パッ、とスポットライトがステージを照らす。
どこから出てきたのか、ステージ中央に立っていたのは盛岡だった。
彼はまたしても黒いスーツをきっちり着込んでいる。
「私は盛岡。この館の主人であり、本日のショーの主催者。以後、お見知りおきを……」
「さて、皆さんにはこれから摩訶不思議な世界をご覧になってもらいます。その世界は現実では考えられないでしょう……。しかし、皆さんが見るのは本物です。私が保証しましょう」
『早く始めろよぉ!』
観客の中には気が短い奴もいるようだ。
「わかりました……それでは早速皆さんに催眠術を見てもらいましょう」
『一人でできるのかよ!』
これは失礼、と盛岡。
「もちろん私だけでは、催眠術なんてできません。催眠には術をかける人ともう一人、術をかけられる人を必要としますからね」
盛岡が話し終えても観客は物音一つたてない。皆、盛岡の話す言葉に集中しているのだ。
「貴方にお願いしましょう!」
盛岡がそう言うと、スポットライトが一人の観客を照らし出した。
「えぇ! お、オレ!?」
男性は驚いたように声をあげた。自分が対象になるとは全く考えていなかったのだろう。
「それではこちらにどうぞ!」
盛岡に言われるまま男性はおそるおそるステージに上がった。
「ではこの椅子にお座りください」
何か仕掛けがあるのではないかと警戒しつつ、椅子に座る男性
それを確認して、盛岡が立ってくださいと言った。
「あ、はい……」
スッと立ち上がる男性。
「あの、これが何か?」
「ただの確認です。もう一度すわってください」
またですか、と再び椅子に座る男性。
「皆さん、今から初歩中の初歩の催眠術をお見せします」
まってました、と言わんばかりに観客が一斉に注目。
「いいですか? 私が1,2,3,4,5と数えたあとに指を鳴らします」
このように、と盛岡は指を鳴らした。パチン、乾いた音が会場に響いた。
「すると、貴方はさきほどのようには立てなくなります。わかりましたか?」
会場全体に伝わるよう、説明する盛岡。
「はい」
よろしい、と満足そうにうなずく。
「では、目を閉じてから『私は指を鳴らすと立てなくなる』と10回言ってください」
「10回は多くないですか?」少し不満そうな男性。
「それもそうですね、5回で結構です」
そのとき観客席のほうから『早くしろ!』という声。
声を無視して男性は言われ通りに
「私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる、私は指を鳴らすと立てなくなる……」と丁度5回呟いた。
「ちゃんと言いましたね? それではいきます、1,2,3,4,5……はい!!」
パチン、と再び乾いた音が。
「どうぞ? 立ってみてください」
盛岡はさもおかしそうに微笑んでいる。
「それじゃぁ…………あ、あれ?」
男性は立ち上がろうと試みる、がさっきは立ち上がることができたはずなのに立てない。いや、指一本動かすことさえできない。
慌てる男性、その顔は真っ赤になっている。
ざわざわ、と騒がしくなる会場。
「あぁ、立っていいですよ?」
盛岡がそう言った瞬間、男性の身体が椅子から離れた。その勢いで地面に倒れこむ男性。
『はははっ!!』観客から笑い声があがる。
「みなさん面白かったでしょうか? しかし、これはまだまだ序の口これからもっと――」
「インチキだ!」と会話を遮るようにだれかが叫んだ。
スポットライトが一人の男性を照らし出す。
その男性は他の観客が見つめる中、続けて言った。
「私は教師をやっているものだ。私は30年も真っ当に教師をやってきた。そんな私に言わせれば、こんなのはインチキに決まってる!!」
その男性の発言を皮切りに、
『そうだ、そうだ! インチキだ!』
『どうせ、その男はグルなんだろ! この詐欺師め!』
次々にインチキ、グルなどといった言葉が飛び交う。
するとそれまで笑っていた盛岡が無表情になった。
「座れ!!」
盛岡がそう叫んだ瞬間、さっきまで怒鳴っていた連中がフッと、糸が切れた人形のようにその場に座り込んだ。
彼らの目はせわしなく動き続けている。どうやら気絶はしていない。それでも全員が全員立ち上がることが出来ない。そう、盛岡が言ったとおりに『座っている』のだ。
そして、盛岡が口を開いた。
「皆さん!」いったん観客を見渡す盛岡。
「私は、皆さんをこのショーに無理やり連れてきたわけではありません。それにここに入るとき、私は金品を所望しましたか!?」
静まり返る会場。
「そうです、所望していない。もちろん盗んでもいない。つまり、皆さんがここに入ったのは、皆さん自信の意思によるものです! お分かりですか?」
もう一度見渡し、観客の顔色を伺ってから、ふぅ~……とため息をつく。
「ご気分を害された方、また私を詐欺師だと思う方は遠慮なくお帰りください」
歩け!! と盛岡が言うと、さっきまで身動きが出来なかった連中が一斉に立ち上がった。そして、かなりぎこちない歩き方で会場に一つしかない扉へと向かい、自らと手でその扉を開け、会場をあとにした。
「さぁ、他の方もどうぞ! 私は止めはしません!」
ぞろぞろと他の観客たちも動き始めた……。
そして、会場には盛岡を含め三人が残った。
(さて、どうするかな……)
残ったのはもちろん俺とタカスケだ。
「いくぞ」
「…………」
二人で奴がいるステージに上がる。
向こうも残ったのは俺たちだと気づいたようだ。
俺がどうしようかと迷っていると、先に盛岡が俺たちに話しかけてきた。
「君たちは残ってくれましたか」
さらに、あのときと同じ笑みを浮かべて歩み寄る。
「………………」
「そんなに警戒することはないでしょう?」
さらに近寄る盛岡。
「あんなもの見せられたら誰だって警戒する!」
タカスケが強気に出る。
「タカスケ君、あんなのものとは失礼ですね」
気にも留めない盛岡。
『ッ!!』
驚きを隠せないタカスケと俺。
(こいつがタカスケだと分かっている!?)
「あぁ、失礼。二回会っただけなのにニックネームで呼ぶのはだめですね」
すみません、と謝ってはいるが顔は笑っている。
それにしても、と一旦言葉を区切ってから盛岡は苦笑気味に言った。
「皆さんひどいですよね……。せっかく頑張って用意したのに帰ってしまうなんて。なんと嘆かわしい……」
はぁ……、と大袈裟にため息をつく。
「あぁ、もちろん」
両手で俺たち二人を指す。
「あなた方お二人は別ですよ?」
『………………』
返す言葉が見つからず、沈黙する。
「あ、あれは――」とタカスケが口を開いた。
言いたいことは俺にもわかる。
おや? という顔して、すぐまた見るものを不快にさせる笑みに戻す。
「えぇ、もちろんあれは本当に私の力です。決して詐欺ではありませんよ。さらに、今この場で、タカスケ君に貴方の首をしめさせることもできます。もちろん逆も」
やってみましょうか、と盛岡は付け足した。
「遠慮しておきます」
(タカスケ、余計なことは喋るなよ。ここは俺に任せてくれ)
(あぁ、わかった……)
奴に聞こえないよう、小声で会話する。
「いやですね、別にタカスケ君が何を言おうと私は怒りませんよ?」
耳がいいのか、心が読めるのかどっちなんだ。
それにしても、と盛岡は呟いた。
「貴方は不思議な人だ。私は大抵の人の心が読めるのに貴方の名前だけは全く読めない。もしかしたら貴方も特別なのかもしれない」
貴方も、というところに妙な引っかかりを覚えたが、とりあえず奴の話を聞こう。
「特別?」
そうですねぇ、と盛岡は手を顎に当てて考え始めた。
「例えば私。私は見かけこそ普通そのもの……」
(いや、十分変だ)
なにせ、真夏の夜中に背広をきちんと着込んでいる。普通ならそんなものは着ていられないだろう。
「しかし、私には類稀なる能力がある。そう、人を操りその心を読めるという能力が」
「でも、俺は何の能力も持ってない」
「そこです!」盛岡は急に声を張り上げた。
「貴方はおそらく天使のような存在なんです!」
突然意味不明なことを言い始める。
「安心してください。天使といっても悪魔を倒せる能力があるということはありません。私が言いたいのはあくまで天使のような体質があるとうことです」
「天使とはどういうことだ?」
ふふっ、と盛岡が軽く笑う。
「いずれ分かります……!」
「さっきから……」
黙っていろと言ったはずのタカスケが喋りだす。
「意味不明なことばっか言いやがって!」
そう言って盛岡につかみかかろうとする。
「止まれ!!」
「ッ!!」
突然動きを止めるタカスケ。
どうしたんだ! と言おうとするが、口が動かない。
(まさか俺ごと動きを……!)
はぁ、とため息をつく盛岡。
「あなた方ならわかってくださると思っていたのに、仕方ありませんねぇ……」
何をするつもりだ、そう言いたいがやはり口は動いてくれない。
「タカスケ君、君はもう二度とここにこないでください。もし、再びここにくるようなことがあれば……」
盛岡は最後まで、言わなかった。単なる脅しのつもりなのか、それとも言えないようなひどいことをするつもりなのか。
「そうそう、貴方は別にきてもらっても構いません。貴方がくるのなら彼がきても……まぁ大目に見ましょうか」
最後に、と盛岡が俺の元へさらに歩みよってきた。
お互いの距離は30cmもないだろう。
「プレゼントですよ」
盛岡は右手の中指で俺の額の真ん中を押した。
(こいつ、一体何のつもりだ……!)
そしてすぐにその指を離す。
「私が貴方に何をしたのか、それはいずれ分かります」
それでは、ともう一度ステージの中央に立つ盛岡。
「また会いましょう! ……帰れ!」
奴が言い終えた途端、目の前が真っ白になった。
「ここは」
俺は気づくと自宅の前にいた。
(身体は…………動く)
しばらく自分の身体に変なところがないか確認する。
(特にない、か)
ここでただ立っているだけでもいられない、と扉に手をかける。
「ただいま~……」
ゆっくりと静かに玄関の扉を開いて中に入る。
家の中には明かり一つついていなかった。多分、母さんも父さんもすでに寝付いたあとなのだろう。
できるだけ足音を立てずに自分の部屋へと移動。
そして、黒ジャージのままベッドに入る。
(そういえば)
タカスケは自分の家にいるのだろうか。
(電話してみるか)
そう思い、部屋に置いたままだった携帯電話を取った。早速電話をかけてみようとしたが、猛烈な眠気が襲ってきた。
画面に何が表示されているか全く分からない。
(なんだ……この、眠気は……?)
少しだけ睡魔に抗ったものの、そのまま瞼を閉じてしまった俺。
眠りにつく前に浮かんだのはあの盛岡の顔だった。
(あいつは何者なんだ……?)
ぼうっとした頭でそれ以上考えることもできず、俺は完全に睡魔の手へとおちた。
〈続く〉
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長編になるのでしょうか?
早く自分も掲載してくれるようがんばりますね。
つづきに期待です。