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催眠術で女子高生!?(3) by 抹茶レモン
カタカタカタカタ……カチャ。
思いついたワードを打ち込み検索する。
『ウェブ検索結果 約1,570,000件』
(これはまた多いな)
パソコンの画面に表示される記事の題名だけを読み、それらしいものでなければすぐさまスクロールして次の記事を読む。
そんな作業を一時間ほど俺はやっている。
学校の奴らが聞いたらさぞ俺を面白がるだろう。恐らく、お前オタクみたいだな、だとかいいな~そんなことする時間があって、と嫌味たらしく言われるに違いない。無論、俺はこのことを他人に言うつもりは無いが。
そんなことを何故やっているか、もちろんきたる日曜日に開かれる(とタカスケは思っている)催眠ショーの情報を集めるためだ。
というのは理由の半分で、残りの半分は暇つぶしだ。
暇つぶしをしている時間があるなら勉強した方がいいと教師は言うだろう。しかし、勉強なんて授業を真面目に聞いていれば、ほとんどのことは理解できる。授業とは本来そんな感じのもののはずだ。
タカスケに言わせれば俺みたいなのを天才というらしい。
言いにくいがそのタカスケは勉強が全くできない。 あえてどのくらいできないかは言わない。一応あいつとは友達みたいな関係だからな。まあ、一応だが。
さて、それほどまでの時間を費やして成果は出たか、答えは「いいえ」だ。
検索して出てきたものは大抵、過去に催眠ショーが行われたとか、どこの誰かも知れない評論家が催眠について語ったものだったり、催眠愛好家らしき人物が立ち上げたと思われる変なサイトやそれらに似ているものばかりだ。
(それだけ同じことを考えている人がいるということなのか……)
検索ワードを変えたり、違う検索サイトで調べても結果は同じ。
インターネットが普及していてもまだまだ不便なことは多いようだ。
それから少しして……。
「…………」
やはり収穫は無し。
(やめようか……)
たしかにここら辺がやめどきなのかもしれない。少しだけだが目がチカチカしてきた。まあ、1時間も耐えれたんだから俺にとっちゃあいい方だ。
(だけど、気晴らしにはもってこいかな?)
たしかに、タカスケも言っていた「気晴らしに」と。
(あいつの言った通りのことをしているな)
そんなことを考えいたらははっ、と笑ってしまった。
あいつの言った通りに何かやるなんてこと、今まで無かったからな。
(ただ単に、俺がほとんど何もしなかっただけか)
(疲れてるんだな……)
さすがに腹も減ったしな、そう思ったとき、
「英ちゃ~ん、ご飯よ~」と母さんが俺を呼ぶ声。
まるで俺がそう思ったのを感じ取ったかのようなタイミングの良さだ。
(まぁ、テレパシーなんてないけどな)
いったん作業をやめ、下におりる。すると、いつの間に帰っていたのか父さんもいる。
俺はいつもどおりのテーブルの席についた。向かい側に座る父さんは、新聞を広げて熱心に読んでいる。
俺の父さん、現場で作業をするため日焼けしている堀の深い顔、数本白髪がある短く切りそろえた髪、色白で童顔の俺とは対照的だ。よく、時代劇をやった俳優に似ていると言われるそうだ。誰に似ているかは自分たちで考えてくれ。
「………………」
俺とは全く似てない。いつ見ても似てない。一時期、本当に自分が息子なのかを疑ったほどだ。
「………………」
俺がしばらく見つめていると、新聞から目を離し、
「どうした?」と一言。
「いや、顔が似てないなと」
よっぽど俺が見ていたのが気になったらしい。
「それは言わないって約束だ……」
少しだけ恥ずかしそうに小声で言った。
それは、中学生のころだったか。一度だけ、「俺って父さんと母さん、どっちより?」と聞いたことがある。
父さんは「母さんだな」とだけ言った。
すると母さんは「そうよねぇ、英ちゃんは私に似て可愛い顔立ちだからねぇ」と言った。
だがこの後が問題だった。母さんは「そうよ、この顔で男なんだから女になればもっと可愛くなって、色んなお洋服なんて着せちゃって……うふふ……!」
と妄想モードに入った。そこで俺と父さんが二人同時に俺の女装姿を想像し、非常に気まずい時間を過ごした。それ以来そういう話題は我が家では禁止、俺も自分の容姿については深く考えないことにした。
「そろそろご飯たべましょうか」
と回想に浸っていたところに母さんが来た。
「うむ、いただきます」と父さん。
「いただきます……」それにならい俺も食事を始める。
『…………』
黙々と食事を続ける。
そこで俺はふと思い出した。
(日曜のことでも伝えるか)
父さんは見た目の通り(俺の偏見かもしれないが)時間というものに厳しい。仕事が仕事だからだろうか。
「父さん」
「何だ?」
エビフライを取ろうとした箸を止め俺の方を見る。
「今週の日曜、夜10時に出かけるんだけど……」
「なんだ、そんなことか」
俺から視線を逸らしつつエビフライを取る父さん。
良かった。出かけるなとでも言われるんじゃないかと思ってたから少し安心した。
(もし行けなかったら、あいつがどんなことを言ってくるかたまったもんじゃないからな……)
「で、何故遅くなる?」
「催眠ショーがあるんだってさ」
あくまで簡潔に応える。
「なにぃ? 催眠だとぉ!?」
父さんは眉をひそめてにらんできた。
今度は母さんも目線を俺に合わせてきた。
この反応は予想外だった。適当に相槌で終わると予想していたのに。
(や、やばい。まずいこと言ったか?)
父さんの目線がとても痛い。
「た、タカスケがどうしてもって言うからさぁ……」
必死に弁解を試みる。
『……………………』
気まずい沈黙。温かい家庭にはあってはいけない空気だ。そんな中、いつもは頼りない母さんが助け舟を出してくれた。
「そのタカスケ君って放課後一緒に話してた子?」
(いい質問だ、母さん!)
「そ、そう! タカスケが一緒に行ける彼女がいないからって俺に泣きついてきてさ! 一応友達だし、仕方なく行くことに……」
いまいち説得力に欠けるが事実だ。
「ふ~む……」と短く唸り、何か考える父さん。
「お前がそんなものに興味を示すとはな……」
「興味はないけど、あいつのためだと思ってさ」
タカスケ、すまないことをした。これで父さんの中にタカスケ=変な奴という方程式ができたかもしれない。
「まぁ、そういうことなら仕方ないな」と再び箸を動かす父さん。
「向こうの親御さんに迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってるって」
なんとか誤魔化すことができたようだ。
『……………………』再び沈黙。
そういえば、目の前にいる父さんは催眠みたいなものを信じているのだろうか。
気になったので早速聞いた。
「父さんはさ、催眠って信じるタイプ?」
「知らん」
考える必要も無く即答。今度は俺の方に見向きもしなかった。
(興味なしってことか)
「そうだよな。催眠なんてありえないよな……」
『……………………』
その後の食事は再び会話するようなことは無かった。
〈続く〉
思いついたワードを打ち込み検索する。
『ウェブ検索結果 約1,570,000件』
(これはまた多いな)
パソコンの画面に表示される記事の題名だけを読み、それらしいものでなければすぐさまスクロールして次の記事を読む。
そんな作業を一時間ほど俺はやっている。
学校の奴らが聞いたらさぞ俺を面白がるだろう。恐らく、お前オタクみたいだな、だとかいいな~そんなことする時間があって、と嫌味たらしく言われるに違いない。無論、俺はこのことを他人に言うつもりは無いが。
そんなことを何故やっているか、もちろんきたる日曜日に開かれる(とタカスケは思っている)催眠ショーの情報を集めるためだ。
というのは理由の半分で、残りの半分は暇つぶしだ。
暇つぶしをしている時間があるなら勉強した方がいいと教師は言うだろう。しかし、勉強なんて授業を真面目に聞いていれば、ほとんどのことは理解できる。授業とは本来そんな感じのもののはずだ。
タカスケに言わせれば俺みたいなのを天才というらしい。
言いにくいがそのタカスケは勉強が全くできない。 あえてどのくらいできないかは言わない。一応あいつとは友達みたいな関係だからな。まあ、一応だが。
さて、それほどまでの時間を費やして成果は出たか、答えは「いいえ」だ。
検索して出てきたものは大抵、過去に催眠ショーが行われたとか、どこの誰かも知れない評論家が催眠について語ったものだったり、催眠愛好家らしき人物が立ち上げたと思われる変なサイトやそれらに似ているものばかりだ。
(それだけ同じことを考えている人がいるということなのか……)
検索ワードを変えたり、違う検索サイトで調べても結果は同じ。
インターネットが普及していてもまだまだ不便なことは多いようだ。
それから少しして……。
「…………」
やはり収穫は無し。
(やめようか……)
たしかにここら辺がやめどきなのかもしれない。少しだけだが目がチカチカしてきた。まあ、1時間も耐えれたんだから俺にとっちゃあいい方だ。
(だけど、気晴らしにはもってこいかな?)
たしかに、タカスケも言っていた「気晴らしに」と。
(あいつの言った通りのことをしているな)
そんなことを考えいたらははっ、と笑ってしまった。
あいつの言った通りに何かやるなんてこと、今まで無かったからな。
(ただ単に、俺がほとんど何もしなかっただけか)
(疲れてるんだな……)
さすがに腹も減ったしな、そう思ったとき、
「英ちゃ~ん、ご飯よ~」と母さんが俺を呼ぶ声。
まるで俺がそう思ったのを感じ取ったかのようなタイミングの良さだ。
(まぁ、テレパシーなんてないけどな)
いったん作業をやめ、下におりる。すると、いつの間に帰っていたのか父さんもいる。
俺はいつもどおりのテーブルの席についた。向かい側に座る父さんは、新聞を広げて熱心に読んでいる。
俺の父さん、現場で作業をするため日焼けしている堀の深い顔、数本白髪がある短く切りそろえた髪、色白で童顔の俺とは対照的だ。よく、時代劇をやった俳優に似ていると言われるそうだ。誰に似ているかは自分たちで考えてくれ。
「………………」
俺とは全く似てない。いつ見ても似てない。一時期、本当に自分が息子なのかを疑ったほどだ。
「………………」
俺がしばらく見つめていると、新聞から目を離し、
「どうした?」と一言。
「いや、顔が似てないなと」
よっぽど俺が見ていたのが気になったらしい。
「それは言わないって約束だ……」
少しだけ恥ずかしそうに小声で言った。
それは、中学生のころだったか。一度だけ、「俺って父さんと母さん、どっちより?」と聞いたことがある。
父さんは「母さんだな」とだけ言った。
すると母さんは「そうよねぇ、英ちゃんは私に似て可愛い顔立ちだからねぇ」と言った。
だがこの後が問題だった。母さんは「そうよ、この顔で男なんだから女になればもっと可愛くなって、色んなお洋服なんて着せちゃって……うふふ……!」
と妄想モードに入った。そこで俺と父さんが二人同時に俺の女装姿を想像し、非常に気まずい時間を過ごした。それ以来そういう話題は我が家では禁止、俺も自分の容姿については深く考えないことにした。
「そろそろご飯たべましょうか」
と回想に浸っていたところに母さんが来た。
「うむ、いただきます」と父さん。
「いただきます……」それにならい俺も食事を始める。
『…………』
黙々と食事を続ける。
そこで俺はふと思い出した。
(日曜のことでも伝えるか)
父さんは見た目の通り(俺の偏見かもしれないが)時間というものに厳しい。仕事が仕事だからだろうか。
「父さん」
「何だ?」
エビフライを取ろうとした箸を止め俺の方を見る。
「今週の日曜、夜10時に出かけるんだけど……」
「なんだ、そんなことか」
俺から視線を逸らしつつエビフライを取る父さん。
良かった。出かけるなとでも言われるんじゃないかと思ってたから少し安心した。
(もし行けなかったら、あいつがどんなことを言ってくるかたまったもんじゃないからな……)
「で、何故遅くなる?」
「催眠ショーがあるんだってさ」
あくまで簡潔に応える。
「なにぃ? 催眠だとぉ!?」
父さんは眉をひそめてにらんできた。
今度は母さんも目線を俺に合わせてきた。
この反応は予想外だった。適当に相槌で終わると予想していたのに。
(や、やばい。まずいこと言ったか?)
父さんの目線がとても痛い。
「た、タカスケがどうしてもって言うからさぁ……」
必死に弁解を試みる。
『……………………』
気まずい沈黙。温かい家庭にはあってはいけない空気だ。そんな中、いつもは頼りない母さんが助け舟を出してくれた。
「そのタカスケ君って放課後一緒に話してた子?」
(いい質問だ、母さん!)
「そ、そう! タカスケが一緒に行ける彼女がいないからって俺に泣きついてきてさ! 一応友達だし、仕方なく行くことに……」
いまいち説得力に欠けるが事実だ。
「ふ~む……」と短く唸り、何か考える父さん。
「お前がそんなものに興味を示すとはな……」
「興味はないけど、あいつのためだと思ってさ」
タカスケ、すまないことをした。これで父さんの中にタカスケ=変な奴という方程式ができたかもしれない。
「まぁ、そういうことなら仕方ないな」と再び箸を動かす父さん。
「向こうの親御さんに迷惑をかけるんじゃないぞ」
「わかってるって」
なんとか誤魔化すことができたようだ。
『……………………』再び沈黙。
そういえば、目の前にいる父さんは催眠みたいなものを信じているのだろうか。
気になったので早速聞いた。
「父さんはさ、催眠って信じるタイプ?」
「知らん」
考える必要も無く即答。今度は俺の方に見向きもしなかった。
(興味なしってことか)
「そうだよな。催眠なんてありえないよな……」
『……………………』
その後の食事は再び会話するようなことは無かった。
〈続く〉
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