2007.6/21、本文加筆
2007.8/19 3人称から1人称への一部変更による修正、タイトル変更、及びpast編追加。
10/1 本文一部修正
プロローグ:それが始まりの日だった
『あなたの望むメイドさん、お作りします。』
こんなチラシが入っていたのは、春休みが始まって間もない頃だった。
そして春休みはそろそろ終わるというある日、俺たちは幸樹に呼び出され、嫌々ながらもこうして集まっていたのだ。
俺、恵麻、由真、晃の4人を見回しながら、幸樹は興奮気味に言った。
「これ、絶対応募しねえとな!!」
・・・そもそも、メイドだ?そう思いつつも友人として俺は、鼻息の荒い幸樹を諌める。
「幸樹、お前鼻息が荒いぞ。とりあえず落ち着け。そして、このチラシよく見てみろ」
・・・何故、俺がお前の趣味に付き合わなきゃいけないんだ。この時、俺はそう思った。
そこで、未だに興奮が冷めない幸樹を落ち着かせようと俺は、事の発端となったチラシをもう1度幸樹に見せる。
チラシの詳細はこうである。
応募期限3月末まで
対象者 日本国民であればOK
応募方法 葉書に住所、年齢、電話番号、そして、どういうタイプのメイドが欲しいかを書いてポストへ
商品 オーダーメイドP1
(中略)
限定1名様
当選結果は、発送をもって変えさせていただきます
企画:(株)ハンドメイデン
「いやー、そんなこと言ったってほしいじゃん、景?」
「何故、俺に振る?」
改めて、チラシを見せて現実を再確認させたにもかかわらず、幸樹は現実を見ようとしない。
いち早く感想を漏らしたのは、その表れだろうな。
その上、くねくねしながら同意を求められても気持ち悪いだけだ。
俺は、内心話すのも嫌になるが、それ以上に周りは話はおろか、その存在すら認めようとしていない。
・・・お前らな、説得くらいしろよ。
「景もほしいだろっ!!」
「いや、断定するな」
繰り返すな。いらない。それに、何故俺なんだ。
幸樹は俺の反応がいまいちだったのを見ると、じっと俺を見つめると納得したように言った。
「それもそうだな、景は既に妻がいるから、仕方ないよな」
「は?いないぞ、そんな・・「ええっ!?そんな〜、照れます」
「あはっはっ、いいねえ。オシドリ夫婦。」
幸樹が話を変えると、途端に恵麻や由真が悪乗りを始める。もちろん、俺の言うことなど聞いてもいない。
みんな完全に俺の意見は無視か・・・。それに、恵麻も由真も冗談でそういうことを言うと、俺が傷つくということを知らないのか。
・・・俺は、意外と打たれ弱いんだぞ。誰も信じてはくれないが。
「恵麻は妻じゃない。幼馴染だ。つまらない冗談は止めておけ」
「うぅ〜」
俺の言葉に恵麻が何だか不満そうにしているが、こういうことははっきりしておかないと誤解を招きかねない。
その後、しばらく誰も話をすることが無い様で、皆が退屈そうな雰囲気になっていた。
すると、晃が急に呟くように言った。
「・・・僕は応募したいな」
晃の言葉に思わず俺は、だらけていた姿勢を正し、目を見開く。
「・・・正気か?晃」
・・・今まで会話に入ってこないと思ったら、こいつもメイド好きだったとは。
俺の晃の見る目が変わった。
「え〜と?変態さんなの?綿野君」
だが、晃を見る目が変わったのは、他の3人も同じことだった。失望したのが2人。見直した奴が1人。
「うっ・・・」
晃は恵麻にすぐに言い返せずに言葉に詰まるが、何かうまいことでも言って、恵麻たちを丸め込むつもりだろう。
何か、必死に考えている。
「藍羽さん、上総野さん。よく考えてみてよ。このメイドは世界に1つしかないんだ。もし当たれば・・・」
「男のロマンだっ、違うか?」
「・・・いきなり話に割り込まないでよ。まあ、そんなとこなのかもしれないけど、売ればそれなりにお金にはなると思うよ。ま、どうせ当たりはしないんだし、物は試しってとこかな」
晃が恵麻たちを説得しようと話していると、幸樹が急に口を挟む。男のロマンって・・・お前のロマンを世界中の男に押し付ける気か?
それに晃が、何だか必死になっているが、理由は分からなくもない。メイド好きなんていうレッテルは張られたくないよな。
俺は晃の話を聞いて、それもありかと思う。切手代くらいしかかからないから、宝くじを10枚買うよりは安上がりだ。
「ということで全員で応募だっ!!」
幸樹が、これを好機と見るや、突如立ち上がり、勝手に宣言をする。
1人だけ妙にテンションが高いからだろうか、俺たちは置いてけぼりだ。
有頂天になった幸樹の突然の宣言に由真はこめかみを押さえながら言う。
「あんた、こんなことのためにあたしら呼んだわけ?」
すると、幸樹は由真の言葉に、さも当然と言わんばかりに言葉を返した。
「いいだろうが、由真。俺たち友達だろ。それに応募者は1人でも多いほうがいいだろっ」
「・・・」
晃が賛成して見方が増えたせいか、何だか堂々としている。
それに、あまりにはっきりと言い切るものだから、普段は強気な由真も圧倒されている。
・・・執念って恐ろしいな。俺は、幸樹を見てそう思わずにはいられない。
晃も、幸樹に追随するように言った。
「僕は幸樹に賛成だよ。折角だし応募しようよ」
・・・確かに悪くないかもしれない。
幸樹の執念に影響されたせいだな。俺は応募するくらいなら悪くないと思ってしまっている。
俺は、晃に確認を取る。
「つまり売って5人で山分けするということか」
「まあ、そういうこと。」
「なら、俺も賛成しようか。まあ、それに遊びということなら、それも構わないだろ」
俺が賛成に回ると、恵麻も由真も驚いたような顔をする。幸樹ですらも驚いていたが、すぐに俺の手を握り、涙を流しそうな勢いで感謝された。
だが、幸樹には悪いが、そもそも当たるわけもないし、応募するくらいなら問題はないというのが俺の率直な考えだ。実際、幸樹の部屋に来てからトランプゲームしかしていないしな。
そうと決まれば、恵麻たちも巻き込まないとな。
俺たちだけで、応募しても面白みに欠ける。
そこで、恵麻たちにも参加を勧める。
「う〜ん、景君が賛成するなら私も賛成するよ」
「まあ、どうせ遊びだし」
色々と言っていた割には、あっさりと賛成してくれたので俺は拍子抜けした。
・・・まあ、たぶん誘ってくれるのを待っていたのだろう。
「何故!?俺が勧めたときには賛成しないのに景が勧めたら賛成なんだっ!それに俺は売らんぞ。絶対に売らんっ!!」
・・・おい、まとまりかけた話を崩そうとするな。
俺が、そう思ったときだった。目の前を、足が通り過ぎた。
「うるさいっ」
「ぐへっ」
俺が蹴られるのかと、思わず固まった。が、いつまで経っても衝撃が来ないので目を開く。
どうやら由真の回し蹴りで幸樹が吹っ飛び、壁にぶつかったらしい。
壁からずり落ち、気絶している幸樹を、見てさすがにやりすぎだと思うが、そんなことを言ったら二の舞になりそうだ。
ついでに言うと由真は今日は丈の短めのスカート。
白のパンツが見えましたなんて俺は全く言うつもりもない。
それに、見てもいない。ああ、見ていない。
だが、幸樹が吹っ飛ばされたことなど微塵も感じていない恵麻が急に大声を出した。
「私できたよ〜」
俺たちは何事かと恵麻の方に視線を集中させる。既に恵麻は、応募葉書を書き終えていた。
「「「早っ」」」
恵麻を除く全員の意見が一致したので俺たちは思わず笑った。恵麻だけが何がおかしいのか分からず、きょとんとした顔をしていた。
「やっぱり、お仕事はできてほしいな〜、見た目はね〜」
「僕好みの容姿にしないと」
「メイドさん、はあはあ」
「まあ、これくらいはできないと困るし。見た目か、どうすっかな」
「設定が面倒だな、何も書かなくていいか」
結局、何だかんだ言いながらも、俺たちは楽しみながら書いた。
俺たちはポストへと投函すると、いつものようにカラオケに行くことになった。
そんなこんなで1日が終わる頃には疲れ果て、俺は応募したことなんて忘れてしまった。
しかし、俺たちは1つの重大なミスを犯すことになる。
その時はまだ知らなかったし、知っていたなら応募なんてしなかった。
それを知るのは、彼女がやって来た日のことだった。
prologue 〜Another Side〜
「えーと、ここが私のご主人様のいらっしゃる住所なんですね?」
ここはとある会社の一室。
2人の女性が会話をしている。
「ええ、そうよ。ここがあなたの主の家よ。何か質問は?」
どうやら後に話した女性の方が上司のようだ。
「ありません。先にご主人様の家へ行き、お帰りをお待ちすればいいのですよね?」
「ええ、その通り」
「あ、部長。一つ質問があるのですが?」
「何かしら」
「ご主人様の家族構成は?性別は?好きな食べ物は?」
「・・・」
「えーと・・・調べてないとか・・・・でしょうか?」
「ぎくっ」
この部長かなり抜けているのか、調べていなかったようである。
しかし、こういう人はただでは起きないのである。
「いいのです。とりあえず当選した方のところへ行ってください」
「質問に答えてください!!」
「あなたは1つと言いました。しかし、3つも質問しましたね。ですから答えなくてもよいのです」
部長はむちゃくちゃな理論で逃げるが、かなり無理がある。
それに少しだけ早口になっていることに部下の女性は気付いた。
部下の女性が疑いの眼差しを向けると、視線をあからさまに逸らし、話題も逸らす。
「しかし、あなたの主のことが分からないと困りますね。あなた調べてください」
「ひどいです。職権の乱用です」
部下であろう銀髪の女性は真っ向から正論で反論するが、部長である女性は適当なことと上司の権力で一蹴する。
「権力はこういう時に振るうものですよ。さあ、頑張って調べてくださいね。あなたがメイドとしてそこで働くのですから仕方ないのですよ」
仕事を忘れていたのは上司である彼女。担当も部長である彼女。
だが、自分のことは棚に上げ、部下に仕事を押し付けると彼女は紅茶をまたのんびりと飲み始めた。
すると、部下の女性は、少し溜息を吐くと話を続ける。
「ところで、何でこの方の意見を採用したのですか?」
「何で?ですか。ええ、答えは簡単よ。注文がない。ただこれだけよ」
「それは・・・」
部下であろう女性は、何かを言おうとするが、部長に遮られる。
「注文がないと開発するのが簡単ですもの」
だが、彼女は管理部部長である。
そして、彼女は一切開発には関わっていない。
この適当さは、もしかすると会社の体質なのかもしれない。
「ううっ」
結局、応募事項なんてこんなものである。
細かいことを書いても、開発部から「面倒だから」、「そんなの無理」という嵐だったのだから。
部下の女性は項垂れて、部屋を後にした。
その彼女の背中を見ながら、部長は思った。
・・・メイドとしては申し分ないけど、1人の女の子としてもきちんと暮らせるだろうか、と。
数日後、メイドはとある家の前へと来ていた。
「ここが私の主のいる家なんですねー」
『有栖』と表札には書かれていた。
そして、この日メイドは現実という名の戦場に立つことになる。
「とりあえず、チャイムを鳴らしてっと」
ピ〜ンポ〜ン
「はーい、どちら様ですか?」
家の中から、20代前半であろう女性が出てくる。
しかし、彼女はメイドさんを見ると動きが止まった。
それは普通の反応とも言えよう。
そんなことはお構いなしに、メイドは挨拶を始める。
「はじめまして、お母様。私は、メイドのエリス・メイデン=M0P1HK型と申します」
「・・・はじめまして、あのー・・・メイドさん?ですか?」
「はいっ、その通りです。私のご主人様、有栖 景様のお母様で間違いないですよね」
「ええ、景は確かに私の子ですけど・・・。何でうちにメイドさんが?」
いまいち状況の分からない母親と家の前にたつメイド。
朝からメイドがやって来るなど、誰が想像できようか。
ようやく母親が困惑していることに気づいたメイドは説明をすることにした。
そして、メイドは自分が以前ハンドメイデン社が募集した企画の商品であること、
当選したのが、有栖 景だということ、今日から自分がここで働くことを説明した。
当初は困惑していた母親だったが、事情は少し飲み込めたので景が帰ってきたら話し合うということで、家で待ってもらうことにしたのだった。
エリスは家に上げてもらったのはいいが、そわそわとして落ち着かない。
お手伝いをすると申し出たものの、やんわりと断られるのだ。
「申し訳ありません、本来であれば私が仕事をしますのに」
「いいのよ、お客さんはゆっくりしていてね」
「はぁー」
エリスは気の無い返事をする。
彼女は何も注文がなかったとはいえ、元々メイド。
家事の一通りくらいは簡単にこなせるのである。
「暇です。早くご主人様帰ってきてくださあああいっ!!」
そして、彼女は夕方、主人と呼ぶ景が帰ってくるまで待つことになる。
その間、ずっと体がうずうずしっぱなしだったそうである。
結局、何も手伝わせてはもらえなかったのだから。
この日、平凡だった有栖 景の毎日は終わりを告げるのであった。
prologue 〜past〜
夢を見た。
まだ幼い頃の夢だ。
小さな女の子が転校して来て、すぐにその子とは友達になった。
その子は、活発な性格でみんなの人気者になった。
だけど、その子は誕生日の前日、急にいなくなった。たった4ヶ月、短いけど楽しかった。
もういないと気付いたとき、僕は悲しかった。せめて、お別れくらい言ってほしかった。
でも、僕は年月が経つにつれて忘れていった。女の子がいた時間も思い出も、その存在さえも。
・・・渡せなかったプレゼント、いつか渡す日が来るかな。
その気持ちだけは、机の中に今もある。
最後まで読んでいただいた方、はじめまして。
初めて小説?いえ、小説モドキを書いてみました。
これで小説とか言ったら、他の人に怒られそうです。
それでも、頑張って書いてみようと思いますので、よろしくお願いします。
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