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第1話

そもそもこんな仕打ちを受けるほど、私は悪い事などしていない。
神様、なんて言ったらクソヤローが出てくるから言わないけど、それだけは断言できる。
変わってると言われようが腹黒と言われようがお天道様に顔向けできないことはしたことがない。

なのになんでこんな羽目になったかというと、発端はあの色黒男だ。
あっちとこっちの時間の流れが同じかどうか知らんけど、話は半年前くらいに遡る。

++++++++++++++++++++++++

「別れようぜ」

私はゴックンとアイスティーを飲み込んだ。
今なんて言った?

「俺さ~、他に好きな子できた。だからお前とはもう付き合えない」

そう言って横目で私を見つめる見慣れた色黒顔。
マジですか??

「啓介、本気?」
「ああ」

啓介と私は高2から付き合っている。
クラスで隣の席になったのを切っ掛けに、付き合い始めた。
高校のうちからサーフィンに夢中だった啓介は、見た目チャラくて親や友人に最初は付き合いを大反対されたのだが、2人がしっかりしてたら大丈夫!と半ば無理やり押し切って付き合い続けてきた。
卒業して別々の大学に進んでも、啓介はサーフィン、私はバイトとそれぞれやりたい事をやってお互い楽な良い距離感で付き合ってた筈なのに。

「なんで?!嘘でしょ?!」
「お前には悪いけど。その子同じサーフィン仲間の後輩でさ~、やっばいくらい小さくて可愛いんだよ。一緒に暮らそうと思ってる」

何を思い出してるのかニヤケ顔。
ちっとも私に悪いなんて思ってない顔だ、それは。

「別れたくないよ・・・私はやだよ」

ようやく言われた事を理解した。
涙が浮かんできた私の顔を、見た啓介は途端に嫌そうな顔になった。

「・・私、まだ啓介の事が好き。一緒に居たいよ。駄目なトコなら直すから、お願い・・・」

私こんなキャラじゃない。
だけど啓介がまだ好きで、離れたくなくて。
私のプライドも周りの目も気にならなかった、気にしなかった。
私は啓介の横に座りなおすと縋り付いて泣いた。
震える手で啓介のシャツを掴みボロボロと泣く。
化粧なんてハゲまくり。
それでも今啓介を止めれるならなんでもする。

なのにアイツは言ったんだ。

「はあぁ、ウゼエ」

頭上から舌打ち付きで。

ハアァ?!!!

ピタリ。
その途端涙なんて引っ込んだ。
私が、この図太いといわれる私がよ?!
自分を曲げて自分の全てでアンタを引きとめようとしてるのに、それがウゼエ?

わかるわよ、新しい恋愛に私は邪魔でしょうとも。
だけどね?
人としてどうなの?!
何年も付き合ってきた女との別れに労わりも謝罪もおざなりでいいと思ってる訳?!
泣いてる女の1人や2人、宥めて慰めて悪かったって何度でも言いなさいよ!!

「大体お前さ~俺よりバイトバイトだったじゃねぇか。お前は強いからすぐ良い男見つけるよ。だけどアイツは俺がいないと駄目だし俺もアイツがいないと駄目だし。守ってやりたいんだ」

今にして思えばなんとも使い古された言葉だ。
振る言葉にマニュアルでもあるのか?
恋愛初期のフェロモンやらドーパミンやらがドバドバ分泌して脳が腐ったとしか思えない。

だけどそのときの私はただただ目の前が真っ暗で。
強い?すぐ見つかる?
ふざけんな!
アンタが依存する女は嫌いだとか、俺ベタベタするの苦手だの言ったから!
だから私はアンタに嫌われないように、寄りかからないよう我慢してたのに!!
このダブルスタンダート野郎!
小柄な可愛い子ならOKで背の高い可愛くない私はNGだってか?
バカにするにも程がある。
そんなことはアンタへ捧げてきた私のピチピチの青春時代をキッチリ耳揃えて返してから言いやがれ!
その「俺の方が上~」な目線も、私の気持ちを軽~く扱う言動も許しがたい。
何よりこんな男に4年も尽くした自分が憎い。
コイツいつからこんな男に成り下がった?!

強いって言ったよね?OKOK、じゃあ強いとこ見せてやろうじゃない!

思考0.1秒だろうか?
脊髄反射した私はがっつりグーを握り締め啓介の鼻目掛けてストレートパンチを繰り出した。


鼻血垂らした顔で倒れこんだ啓介は呆然としてたっけ。
その間抜け面に少々溜飲が下がる。

「んじゃ、お幸せに」

私は一瞥もせずヒラヒラ後ろ手を振りながらざわめく喫茶店を出た。
振り返りもしなかった。

++++++++++++++++++++++++

時間が経つにつれ、別れた実感と色黒男への怒りが増してくる。
それにも増して1人になったという空虚感がドッと押し寄せてきた。
ムカツク。
なんであんな男が忘れられないのよ。
本当は振られて寂しいのに悲しいのに、そんな弱い自分は人には見せたくない。
この頃の私は必死で自分を取り繕っていた。

だからといえば言い訳かな。

私は友人達を引っ張り込み連日連夜酒におぼれた。
飲んでも飲んでも怒りが納まらない。

そんな荒れた日々を送っていたある日。
偶然見つけたんだ。

あの忌々しいボロ神社を。


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