第1章:箱庭 <プロローグ>
緑の息吹が濃く満ち、険しい山々に囲まれた神域と言われる場所で運命は回り始めた。
別名『神の箱庭』とも呼ばれるそこは、外周の森は昼であれ夜であれ木々がうっそうと茂り常に暗く訪れるものを寄せ付けない魔の森であった。
しかし魔の森を抜けた先には、広がる草原、岩山、あるいは砂漠、波のある塩水湖。
この世の自然を一度に集めたような景観が形成されていた。
それはそこに住まう動植物や魔物の類も同じで、それぞれがそれぞれに適応した環境で存在しており奇跡のような小さな世界を象っている。
ただ一つ、不思議なことに人間だけは出入りを許されようとも居住することがかなわなかった。
恵まれた大地に居を構えようとした人々は必ず自然災害あるいは動物、魔物の襲撃を受けるなどして命を落とした。
自分の身一つで持てる以上の資源(食物や鉱物、生き物も含む)をそこから持ち出そうとした者もまた必ず命を落とした。
長年にわたり繰り返された悲劇に人間達はようやく悟ったのだ。
この地は人知の及ぶ場所にあらず。
『神の箱庭』と名づけられた由来である。
神域には貴重な宝玉や珍しい食べ物などもあったため、いつしか人間のなかにはその地を行き来し少しの宝を持ち帰るのを生業とする腕の立つ者達が現れた。
その大地は少しの恵みを分け与える事を良しとし、人間も神の御許から奪いつくすことを良しとしない。
人間と神域とは現在まで良いバランスで共生してきたのである。
その神域の奥深くに青とも緑ともつかない透明の水をたたえた湖があった。
波はなく周りの木々を映しこんだ鏡面のような水面に美しい夜空が浮かんでいる。
一際まばゆく映るのは2つの満月だった。
大きい月をアゴス、小さくてオレンジ色の月をアブリルと言う。
雲一つない満天の星空のもと、風は凪ぎ、動物も虫も魔物でさえ息を潜めていた。
明るい月に照らされた湖のほとりで、ヒタと見つめあう金色と深い紺色の双眸。
紺色の虹彩にうつる金色の眼は夜空に浮かぶ月のようだった。
金色の虹彩にうつる紺色の眼は台座に乗った宝玉のようだった。
お互いに呑まれたように見つめあい、どちらからも逸らせない。
指一本ですら動かせない緊迫感が漂う中、先に口を開いたのは紺色の双眸を持ち白銀の鎧に身を包んだ男だった。
「お前が『ヴェラオの災い』だな?」
金色の眼はいまだ男をジッと見つめたまま。
男は空気を振り払うように腰に下げた長剣を抜くと一閃させ、中段に構えた。
それが合図のようにバラバラと鎧やローブを着た男達が金色の周りを取り囲む。
剣を構える者、弓を引き絞る者、杖をこちらに向けブツブツと呟く者。
金色の目がわずかに揺らぐ。
「お前がここに居ることは我が民達のためにならん」
ああ。
「セウ、私が斬りこむ。援護を。ナーダは右、カトルゼは左へ回り込め。シークエンタは補助呪文でアイツの動きを出来るだけ抑えろ」
なんで。
「隙をみて行く。各自気を抜くな」
こんなことに。
ポチャン。
間抜けな水音を合図に男は鋭く切りかかってきた。
一斉に放たれる弓矢。向かってくる男達。
ヤバイ。
金色の眼は閉じられた。
ものすごくタイプだ。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。