野田佳彦首相が関西電力大飯原発の再稼働に向けようやく決断した。夏の需給逼(ひっ)迫(ぱく)を見据えた電力確保が最大の理由だが、再稼働を早期に決断する考えだった首相が枝野幸男経済産業相の慎重路線に乗ったのは、大阪市の橋下徹市長の反対論を意識したといえる。橋下氏は13日夜、政府方針について「絶対に許してはいけない。次の選挙で民主党政権は代わってもらう」と強く反発するなど、対決色を強めている。
首相は13日朝から北朝鮮のミサイル発射への対応に追われた。閣僚会合が開けるか不透明だった。藤村修官房長官は記者会見で「流動的だ」と述べていた。
官邸スタッフには「発射のドサクサに紛れて安全宣言をするのはどうか」との慎重論もあったが、それを押し切ってまで開催することにしたのは、5月5日に北海道電力泊原発3号機が定期検査入りで停止することによる「稼働ゼロ」が現実味を帯びてきたからだ。
「安全性を徹底的に検証・確認された原発は、定期検査後の再稼働を進める」
首相は就任間もない昨年9月の所信表明演説でこう宣言し、「脱原発」を進めてきた菅直人前首相や枝野氏との違いを鮮明にした。
ところが、最近は再稼働問題を枝野氏らに任せる場面が多くなった。政府関係者によると閣僚会合での首相の存在感は薄く、枝野氏、民主党のエネルギー政策を仕切る仙谷由人政調会長代行が議論を引っ張ることが多かった。
首相は10日には内閣記者会のインタビューで「再稼働ありきではない」と語り、徹底的な安全確認を求める枝野氏に足並みをそろえた。首相や枝野氏らが手続きを進めるうえで念頭においたのは関電の筆頭株主である橋下市長だ。
内閣支持率の低迷に悩む首相と違って橋下氏の人気は衰えず、再稼働反対の声が世論に受け入れられる可能性がある。加えて、橋下氏の「大阪維新の会」は次期衆院選で民主党の脅威となりうるだけに、「結論ありき」で再稼働をしたという印象を薄めたかった。
「原発再稼働は一番大変な問題かもしれない…」。首相は橋下氏が再稼働への反対を鮮明にした今月上旬、周囲にこう漏らした。
民主党原発事故収束対策プロジェクトチームが再稼働を目指す政府に「冷静な判断を求める」とする緊急提言をまとめるなど足元も危うい。首相がこのまま指導力を発揮しなければ他の原発再稼働もおぼつかなくなる。(力武崇樹)