2011年1月29日18時41分
カナさんはマスクを着けたまま写真シール撮影機に。友人も撮った画像の口元を塗りつぶした=昨年12月24日、滋賀県のゲームセンター
風邪でも花粉症でもないのに、年中マスクを手放せない子たちがいる。素顔を隠す「だてマスク」だ。若者研究が専門の博報堂のアナリスト原田曜平さんにそう聞いて、半信半疑で取材に向かったのは、昨年10月のことだった。
原田さんが「見た」という群馬県高崎市。夕方、若者のいそうなゲームセンターに入ってみると、あっけなく見つかった。
一人でゲームに没頭していた男子。黒いTシャツに学生服のズボン、顔にはメガネと白いマスク。ファミリーレストランで話を聞いた。
15歳の高1。マスクはコーヒーカップを持ち上げた時だけあごにずらし、一口飲むとすぐに戻すので、表情が読み取れない。鼻からずれていないかとしきりに触っている。
マスクを着けはじめたのは中2のころ。初めは花粉症だったからだが、着けると安心すると感じ、真夏以外は身につけるようになった。「完全に外すのは飯、風呂、寝る時だけ。体育で走る時は取るけど、走り終えて息が整ってきたらすぐポケットから出して着ける」。毎日交換するので、自分で探したり母親に頼んだりして、50枚入りの箱を買い置きしているという。
別の高校に通う男の友達3人もだてマスクをしていて、放課後や休日は集まってしゃべったりゲームをしたりして過ごす。互いの素顔を見るのはカラオケに行った時だけ。学校でもクラスに数人、だてマスクの生徒がいる。両親や教師からは「別にいいんじゃないの、という感じで、何も言われない」と言う。
なんでマスクをするの?
「何となく落ち着く、としか言えない」と彼は言う。
話していると、異性の話題を行ったり来たりする。「僕って良い人止まりなんすよ」「でも中学のとき、後輩に『2年の女子から評判いいっすよ』って言われた」。一方で、学校で女子と話す機会はまったくない、と言う。
夏に、だてマスク4人組で湘南の海へ遊びに行き、マスクを外して遊んだことがある。彼はそんな話を始め、問わず語りに付け加えた。「でも、女の子には声をかけてないです。友達も、ナンパして1日つぶすなら男同士で遊んだ方が楽しいわって」
マスクをしている時と外している時でどう違うの?
「先生に怒られている時、マスクをしていると聞き流したり反抗したりできる。でも外していると、こたえる」
マスクで隠しているのは「自信のない自分」なのでは――。話の端々から感じた。
だてマスクの中高生は、群馬県だけでなく、注意して見ていると、各地にいる。
東京のタレントスクールでモデルを目指す高3、ミツル君(18)も「高校では一日中マスクをしてる」と話す。やはり箱で買い置きしている。「落ち着くんです。集中できるから勉強もはかどる」。マスクにこもる臭いが気になるからアメをいつもなめている。
女子も多い。滋賀県の中2、カナさん(14)がマスクを着ける理由は明快で、「顔がコンプレックスやから」。特に目が小さくて嫌、と訴える。「鼻から下を隠せば目の小ささがばれないかな」と、お小遣いでキャラクターの模様入りのマスクを買い、学校で着けるようになった。
中高生の間では、写真シールを撮るとき、画像に文字や絵を描き込む機能を使い、口元を塗りつぶして目元を強調することが流行している。だからマスクで顔を隠すことに抵抗はない、とカナさん。写真シールを撮る時にマスクを外さずにいても、友人も「その方が楽やもんな」と納得するという。
外から見ると、マスクをしている方が人目を引く気がするのだけど。マスクを手放せないある高2女子に聞くと、彼女はこう言った。「着けなくても生きていけますよ。ただ、顔を隠せて視線にさらされない安心感があるんですよね」(秋山千佳)