「豚もおだてれば木に登る」という言葉がある。褒められたわけでも、唆されたわけでもないが鉄塔に登ってみた。
東北電力グループの電気設備工事会社、ユアテックは新入社員研修で、事務系、技術系を問わず研修所にある高さ約25メートルの訓練用の鉄塔を登らせる。35~100メートルほどある本物に比べれば低いが、素人には十分な高さだ。
入社式関係の取材で広報担当者からその話を聞き「私も登れますか」と冗談で言ってみたところ、「登ってみますか」と応じられ、後に引けなくなった。
後日、改めて研修所を訪ねて上着の緑色、ズボンの青色が鮮やかな同社の作業着をまとった。手には軍手、足は編み上げの安全靴で固め、鉄塔の真下に立つ。心の準備が整わないうちに教育担当の送電部課長、三上福治さん(62)に「さあ登りますか」と促され、命綱を固定する安全帯と呼ばれるベルトを体に巻かれた。
安全帯から伸びるロープを鉄塔の金具に固定して命綱とする。あとは鉄塔から等間隔に飛び出したステップに足をかけて、登っていくだけだ。ベルトは約10キロの重さがあり筋肉に負荷がかかる。5メートルほど登ったところで強い風が吹いた。ステップをつかむ手に思わず力が入る。
ステップを確実に握ろうと手元を見ている分には怖くないが、足をかけるときは嫌でも真下が目に入り、身がすくみ上がる。高さ10メートル地点に到達すると傾斜がほぼ垂直になり、一歩一歩が重くなる。もはや周りを眺める余裕はない。
そして15メートル。保守・点検作業をする足場にたどり着く。これまでの垂直方向と違い、横に移る動作が「怖い」。足場からは研修所がある仙台市泉区の街並みや、頂上付近に雪が残る山々が見渡せた。天気はいいが、時折吹く突風に体がもっていかれそうになる。命綱があるとはいえ、柵を手放せなかった。
鉄塔は頂上の25メートルまで登れる構造になっている。下から呼び掛けられるが風が強くて聞こえない。ジェスチャーから判断すると、「もっと上まで行けないか」と言っているようだ。「もう無理です」とギブアップした。
研修は女性社員も例外ではない。きゃしゃな大崎奈津美さん(22)は営業部に配属予定。男性社員と同様に重いベルトを巻いて15メートルまで登った。無事に地上に降りてきたときは「足がつりそう」と一言。「送電部門の大変さが分かった」と続けた。
東日本大震災では東北電力管内で最大約466万戸が停電した。津波で流されるなどして損壊した電柱は約3万6000本。壊滅的な被害があった被災地では電柱が整然と立ち並ぶ光景を目にするが、これらは震災後に立てられたものだ。
復旧関連ニュースを報じる際に「停電は何割が解消」「水道は何%まで復旧」といった表現をよく使う。その数字は人の手による作業の積み重ねであることを忘れてはいけない。(村松洋兵)
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